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2.秘密の花園 -屋上-


「ここ、見晴らしがいいのね」

 花園の元管理棟の屋上は、広々としていた。

 といっても、見えるのは荒廃した廃墟と大地だけ。空は曇天。雨はかろうじて降っていないが、空は濁っている。そして、向こうで朽ちた観覧車が寂しげに軋んでいる。

 錆びついた門を開けて、”秘密の花園”に入り込んだ彼等は、元管理棟を今日の休憩所にすることにした。

 今はその屋上にいるのだが、それは、黒騎士である奈落のネザアスが、気晴らしに屋上に行こうと誘ってくれたからだ。

(気晴らしかあ)

 ネザアスの気持ちはうれしいが、彼はやはり黒騎士、しかも、自覚もあるようで戦闘用だと自称している。その通り、すこーし感覚がずれている。

 この気が滅入る終わった大地をみても、気晴らしになるはずもないのだ。

 秘密の花園は、すでに荒れ果て、黒く濁って枯れた庭園だった。


 フジコの目的は、この大地の除染であるわけだが、その為には大元の汚れが降り注ぐ、この奈落の奥までいかねばならないのだった。それを止めないと泥によって生まれた化け物を倒したところで、また化け物が生まれる。いつまで経っても、いたちごっこなのだった。

 そんなわけで、彼らは奈落の奥への道を進んでいる。


 この旧娯楽施設の奈落は、朽ち果てかけた場所。しかし、意外にもインフラは生きていた。

 ネザアスいわく、自動のメンテナンスシステムが生きているのだと言う。

 特に管理棟の中は快適だ。

 設備は整っていて、なんと、こんな場所でもシャワーも浴びられる。今日は比較的綺麗なベッドルームも見つけている。ちょっと埃を払う必要はあるけれど、きちんとメイキングされたベッドが目の前に置かれている。

 おかげで、今日はふかふかのふとんで眠れそう。

「まあ、システムが生きてるって、別にいいことばかりじゃねえけどな」

 喜んでいるとネザアスは、ちょっと顔をしかめて言った。

「無駄な防衛システムが生きていやがる。それが、あの汚泥と結びついて化け物化して襲ってくることもあるし、こっちを侵入者として認識することもある。なかなか大変だぜ」

 ネザアスは喧嘩好きで、穢れが”悪意ある命令”と結びついた存在、いわゆる泥の化け物たちに対して非常に交戦的だ。大変と言いながら、彼は本音の部分では暴力の行使が楽しくてたまらないタイプなのである。

 その辺は、ちょっと異常者と言われても仕方がないのであるが、裏を返せばその攻撃性は黒騎士にプログラムされているものでもある。彼等は下位のナノマシンに反応して、ひたすらに闘争心が湧くようにされているのだとかいう。

 黒騎士が発狂しやすいとされたり、全方向に好戦的なのは、そもそも製作者が悪いのであって、彼等にもどうにもできない部分もあるのだ。

 フジコだって、今まで助けてももらったが、ネザアスのサディスティックなまでの攻撃性を散々見せつけられている。そんなネザアスを、ちょっとぐらい怖いと思わなかったかというと嘘になる。

「ねえ、ネザアスさん、どうして屋上に連れてきてくれたの?」

 フジコが尋ねる。屋上から外を眺めても気が滅入るだけだ。そんな風景なのに。

 もしかしたら、相当ズレた答えがかえってくるかもしれないと思いつつ、確認するようにフジコはたずねてしまうのだ。

「ん? ああ。こっちの方は綺麗だろ?」

 そう言ってネザアスは別の方向を指し示した。

「こっち?」

「こっちだよ。なんだ、こっちを見てなかったのか?」

 フジコは思わず息を飲む。

 屋上から見えるのは、一面に咲いた花畑だった。色とりどりの花が咲き乱れ、美しい絨毯のように見える。

 思わずフジコは声をあげる。

「すごい。綺麗!」

「あそこだけ、庭園の自動システムが生きてるのさ」

 ネザアスが言った。

「誰もいなくなっても、敵対的侵入者を排除して綺麗な庭を保っているんだぜ。降り注ぐ泥の雨もちゃんと処理してある。優秀だな」

 まあ、入るのはおすすめしねえがな。

 とネザアスは付け加えた。侵入者と間違われて強制排除されかねないのだという。

「あの、これを見せたかったの?」

「ああ。だって、荒地ばっかりイヤだろ? おれは平気だけど」

 ネザアスは目を瞬かせた。

「たまには綺麗なものも見せねえとな。なにせ、俺はこの奈落の案内者で、お前は久しぶりの客。それぐらいおれだっておもてなしってやつをするぜ?」

 ネザアスはちょっと嬉しそうだ。

「そうなのね。ありがとう、ネザアスさん」

 花も花で綺麗だけれど、フジコは、そんな子供みたいに笑うネザアスの顔が、結構好きだった。

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