ランク
魔力保有者ギルドにおいてはランク制度とい
うものが採用されている。ランクが高いほど実
力が高いという位置付けだ。
それは粗暴な魔力保有者どもに単に箔をつけ
るという意味合いだけには収まらず、競争率の
激化というクソみたいな効果も施すに至った。
なにせ高ランク者は低ランク者を自由に指図
できる権力を得られるからだ。無論、ギルドも
そんな権限を手渡したわけではないが、しかし
その制度を受ける相手が相手だ。クソみたいな
民度の連中である。図らずしてそのような風潮
が瞬く間に広がり定着したのはもはや道理であ
った。
しかしこれは悪いことばかりではなかった。
それも当然だ。でなければこんなくそ制度すぐ
さま廃止されていることだろう。
ランクが高いということは、それは実力があ
るという分かりやすい指標であり、この実力至
上主義の職場においては正義の証明に他ならな
かった。
これは急務である。
僕達『オールソン兄弟』はやつら『赤狼』に
正義を突きつけねばならない。
サリバン君が役立たず君などではないという
ことを。サリバン君が単なる無能ではないとい
うことを証明するのだ。
僕と我が兄はにっこりと笑った。
わかるね?サリバン君?
「は、はい……」
不安そうにびくびくするサリバン君に対し、
自分達に任せてくれれば何も問題ないと示すた
めに我が兄はガッと肩を組んで友愛を示した。
僕も反対側からサリバン君の肩をガッと組む
。
サリバン君は軽い悲鳴を上げた。
なるほど。可哀想なことにまだ人間不信に陥
っているらしい。
僕と我が兄は話を続けた。
サリバン君をメンバーに引き入れた僕達『オ
ールソン兄弟』がまず目指すべきランクの向上
だ。
EからAまでの五段階のうち、僕達『オール
ソン兄弟』はBランク。そして『赤狼』もまた
同じくBランクだ。
僕達兄弟はここ近年このBランクから伸び悩
んでいた。それは『赤狼』とて同じだろう。故
に今回のようやメンバーの入れ替えが行われた
のだ。
サリバン君。君はAランクになるに当たって
不要と判断された。そうだね?
その問いにサリバン君は俯く。
僕と我が兄は頷いた。
我が兄は言った。
「俺は思うんだ。
……これは好機だと」
「……え?」
そう。好機である。
僕は繰り返し言った。
サリバン君が無能なんかではないと証明する
にこれ以上の機会はない。
現状、悲しい事実だが僕達兄弟の力ではAラン
クはあと一歩及ばない。故に僕達に必要なのは
新たなる仲間なのだ。
そこでサリバン君である。現状、Bランクで
燻っている僕達『オールソン兄弟』が君の加入
を機に、Aランクに上がってみろ?
それこそまさに、君の力が大きく僕達に貢献
したことに他ならない証明となりうる。
これまで同じBランクとして頭角を示してい
た『赤狼』に在籍していた君が、役立たずだな
んてあろうはずがない。
僕達は確信しているのだ。君には大いなる可
能性があると。
「か、可能性?」
そうだとも。
我が兄は未だ怖じけづいた様子のサリバン君
に、バッと紙面を見せる。
依頼伝票。つまりはクエストだ。
「さぁ。早速、連携の調整といこう」
「時間は有限さ」
「俺らの正義を証明するにも、彼らより先にAラ
ンクに上がらなければ意味がないからな」
「そうそう、さぁ早く行こう」
「え?あっ。ちょっ、ちょっとっ!?」
踏ん切りのつかないサリバン君に判断を委ね
たら何も始まらない。彼の腕を容赦なく引っ張
って問答無用で僕と我が兄はギルドを出た。
しかしサリバン君はなにやらウダウダとごね
てくる。
え?色々急すぎる?はいはい、何事も君のペ
ースで事が起こるとは限らない。人生ままなら
ないものなのだ。そんなこと、今に始まったこ
とではないだろう?
僕はサリバン君の訴えを無視した。
さぁ行こう。
どんどん行こう。
時間は有限なのだ。
Bランク判定依頼。
ーー肉食巨大ミミズの討伐。
さぁ、クエストの始まりだ。