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3/4

正義

    


      #省略#


    ちっ。話が進まない。僕達兄弟の指摘にいち

   いち噛みついてくるからキリがないったらあり

   ゃしなかった。

    あいつは魔力保有者なんかじゃない。ただの

   チンピラのクズだ。僕は自らを棚上げし自身の

   正当性を信じきっていたためそう嘆かざるを得

   なかった。

    今のアルクとのメンチの切り合いも我が兄の

   冷静な対応力があったからこそ収まったものだ

   った。

    我が兄はやや呆れた視線を僕に向ける。

    僕は知らないふりをした。


    ギャラリーがざわつく。どうやら先のメンチ

   の切り合いで周囲の関心を買ってしまったよう

   だ。いつの間にか周囲には多くの視線が居座っ

   ていた。


  『おいおい、あれは『オールソン兄弟』と『赤狼

   』じゃねえか。どうかしたのか?』

  『さぁてねえ?でも面白そうじゃない?』

  『へへ。賭けるか?』

  『いつもの身内脱退案件だってさ』

  『なんだっていい。酒のつまみになるぜ』


    などなど、ギャラリーは好き勝手に言ってい

   る。

    ちっ。カスバエどもが。これは見世物じゃな

   いぞ。散れッ。

    僕と我が兄は凄んでみせるが、やつら何のそ

   のであった。だからなに?とばかりの顔である

   。さすがは民度最低の魔力保有者ギルドの下っ

   端どもだ。

    肝の座りようが尋常じゃない。

    構うだけ無駄であった。

    僕達兄弟は無視することとした。

 

    さて、話を戻そう。アルクのさらなる言い分

   はこうだった。 


    べつにこんなこと、他のところでだって普通

   にやってることだ。なんで自分達の時だけ責め

   られなきゃならない。自分達は悪くない。無能

   なそいつが悪い。


    ……とのことだ。

    まぁ、確かに一理ある。

    しかし我が兄と僕は厳しい視線を変えること

   はなかった。

    一理あろうとそれは一理しかないからだ。

    彼ら、チーム『赤狼』とはこの魔力保有者ギ

   ルド内においてはそれなりに名の通ったチーム

   だ。僕達『オールソン兄弟』と肩を並べてると

   言っても過言でない。

    競争率の激しい職場だ。その名に相応しいだ

   けの力を、今後も求められるのは仕方ないこと

   であり、それに食らいついていけないのならば

   戦力外通告にてチームの脱退を強制するのも悪

   とはされない。

    弱さこそ罪で悪であるのだ。

    

    しかしここにおける問題とは、その弱さでは

   ない。

    その弱さをつけ込んだ徹底的な精神的追い討

   ちである。

    

  「てめぇらのやっていることは、幼稚な虐めに過

   ぎねぇ。

   まずはそれを自覚しろや」


    我が兄は言う。

    しかしアルクはてんで堪えた様子はなかった

   。場を弁えず傍らにマリを抱き寄せては

   「事実を伝えたまでだ」

    と肩を竦めて見せた。

    マリという女、彼女は彼女で悪人かつ有能な

   男に求められる自分に酔ってるのか、同じく悪

   い顔で俺達に蔑んだ視線を送った。

    僕と我が兄はカチンときた。

    舐めんてんねあいつ?

   「ああ、舐めてんな」

    我が兄は言った。

    僕と我が兄は頷き合った。

   

  「おい、そこの少年」

  「……え?」


    突然僕達兄弟に話を振られたサリバン君が戸

   惑う。

    いや何を戸惑うんだ?

    お前だよお前。

    弟こと僕は言った。

    そうだ。お前で合ってる。ピンクとかいった

   イカれた髪質のナヨナヨとした体型ことお前だ

   よサリバン君。

    自らを指差し疑問符掲げるサリバン君に僕と

   我が兄は首肯してみせた。

    ほら、こっちこい。

    おどおどと近寄るサリバン君を僕はガッと腕

   を掴んで肩を組んだ。我が兄も反対側からガッ

   と肩を組む。サリバン君は乙女のような情けな

   い声を上げた。

    なに気色悪い声上げてるんだ。どう見たって

   男の癖に女みたいな声上げんじゃないよ。シャ

   キッとしな。

    だってぇ?

    だってじゃない。当の被害者たるお前が空気

   とか本来あり得ないからね。

    無自覚にも圧を掛け合ってた僕達兄弟に、サ

   リバン君はくすんと涙目になった。しかし僕と

   我が兄は気に留めなかった。


  「サリバン君。お前は今日から我が『オールソン

   兄弟』のメンバーだ」


    我が兄が厳然と宣言する。

    ぎゃはははははははは。

    僕は笑った。

    サリバン君は事の事態が理解できないのか、

   ポカンとした。

 

  「……え?」

  「異論は俺が許さねぇ。いいな?」


    我が兄のそれは有無を言わせない気迫であ

   った。


  「お、おいッ」


    アルクが慌てて口を挟んだ。


  「なに勝手に話を決めてやがるッ」

  「なにか問題でもあるのか?」

  「な、なに!?」


    僕達兄弟はにやりと笑った。

    そうだ。

    なにか問題でもあるのか?

    僕と我が兄は問うた。僕は嘲笑を、我が兄は

   厳然たる視線を送った。

    問題なんてある筈がない。そうだろ?なにせ

   お前達はこのサリバン君をチームから解雇した

   のだから。

    彼は晴れて自由の身だ。解雇した以上は、そ

   の後サリバン君が何をどうしようとお前らがケ

   チをつける筋合いはない。わかるね?


  「チッ……勝手にしろや」


    くく。以外にも理屈が分かる程度には頭は冷

   静になっているらしい。

    さらに食いつくと思っていたのである意味拍

   子抜けである。

    我が兄もそう思ったのか、勝ち誇ったように

   肩を竦めて見せた。

    

  「ああ。勿論。勝手にさせてもらうさ」


    僕と我が兄は再び、サリバン君へと顔を向け

   た。面と向かい合う。

    さて、サリバン君?

    サリバン君は

   「ひっ!?」と戦いた。


    僕達兄弟は心打たれた。ああッ、なんて可哀

   想なんだと。

    僕と我が兄は嘆かざるを得なかった。

    可哀想に。人と視線を合わせるだけでそうも

   怖がるとは。つまりそれだけ人を信じられなく

   なったということだ。

    ……無理もなかった。

    先のあのような仕打ち。常人の者なら心病ま

   せるに十分だ。

    だかどうか、安心して欲しい。我が兄はサリ

   バン君の手を取った。

    僕もそこに手を合わせる。


  「俺はただ証明して見せたいだけなんだ」

   

    我が兄が言う。

    サリバン君はおそるおそる問い返した。


  「し、証明、ですか?」

  「ああ」


    僕は力強く言った。

    これまで『赤狼』に貢献してきた君がただの

   役立たずであろう筈がないということ。

    君が無能でないことを、必ずや証明してみせ

   よう!

    僕と我が兄は燃えるような炎をその目に、は

   っきりと宣言した。

   

    僕達兄弟の言葉に感動したのだろう。サリバ

   ン君のその目には微かな希望という光が確かに

   灯ったのが見えた。

    しかし彼の生来の臆病さ故か、感動に浸かる

   も束の間、ふと不安がぶり返したようだ。


    サリバン君は尋ねた。

    

  「……あ、あの?

   ど、どうして赤の他人の僕に、そこまで……」


    ああん?

    どうして縁も所縁もない赤の他人のためのそ

   こまでしてくれるのかって?

    あははははははははははッ。

    そんなの決まってるじゃないかッ。

    僕と我が兄はさも当然とばかりに笑った。我

   が兄は自身の正義を満たせるが故に。

    そして、僕も自らの正義と好奇心を満たせる

   故にだ。

    僕達は言った。

    

   

  「そんなこと」

  「決まっているだろう?」



    僕達兄弟は笑った。



  「ただ我らの正義のためにさ」





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