我ら双子の兄弟
とある酒場にて、僕達兄弟はいつものように
酒を煽っていた。そこは喧騒に満ちていた。誰
もが陽気に声を上げており、身なりは普通の人
々となんら変わりはない。しかし、その内なる
身体には常人とは大きく異なる力を秘めていた。
ここは普通の酒場ではなかった。「魔力保有
者ギルド」とそう呼ばれている。そして僕達、
双子の兄弟、我が兄リッチ・オールソン、そし
て弟こと僕、レビン・オールソンもまたこの場
にいる者達と体質を同じくとする人間であった
。
我が兄がなにかを視界に認めたようだ。
僕も見る。
視界の端。喧騒の中でいざこざがあったよう
だが、そんなことは日常茶飯事だ。喧嘩などよ
くあることだ。ここでたむろする連中は大抵が
やや喧嘩っ早いのだ。
「おい、役立たず。てめぇは今日限りでチームを
抜けろ」
「え!? そんな。
アルク、どうして?」
「どうして? はっ。そんなこともわかんねぇ
から役立たずなんだよ、サリバン」
どうやらアルクという男が役立たず君をチー
ムから追い出す場面らしい。ここ魔力保有者ギ
ルドとは魔力に目覚めた人々を集め、その力を
利用して依頼された仕事を果たすといった派遣
会社のような職場である。
僕達はそれなりの自由行動を認められている
。単独で動くもよし。チームを組むもよし。そ
れぞれが独自の判断だ。ギルドはそこに全くの
関与はしなかった。
故に、僕達魔力保有者がより仕事をこなし稼
ごうと思えば、より強く、より効率的な布陣を
敷いていこうとするのは当然の風向きであった
。
つまりはアルクという男のやっていることは
別段珍しいものではなかったということだ。
しかしである。
気分が悪い光景であることに変わりはない。
我が兄は渋い顔をした。
「全く。嘆かわしいなぁ」
我が兄は言った。
全くその通りであった。僕は同意する。魔力
保有者ギルドは依頼された仕事さえ果たせられ
れば基本手段を選ばないといった方針だ。故に
その下っ端たる僕達魔力保有者も手段を選ばず
、民度も下がる一方であった。
周囲の者達は彼らを一顧だにせず、身内で騒
ぐばかりだ。
いや、いないわけではない。耳を傍立てるや
つらもいるが関わろうとはしない。僕達兄弟も
また同様であった。
「ああ、それと今日から正式にマリってやつがウ
チのチームに入ることになってる」
「……え?」
すると酒場の隅からマリと言われた女がコツコ
ツと足音を立てて歩み寄ってきた。
「あ、どもども。私、マリっていーまーす」
「……え、えと?」
「こいつはマリ・アントニー。お前より有用な力
をもつ、完全お前の上位互換だ。つまりもうお
前にここに居場所はないってわけ」
「えへへ。
なんかごめんね?サリバン先輩?」
「はん。こんなやつに謝る必要はねぇよ、マリ」
「……やん。ちょっと。
人が見てるってばぁ」
てな感じに、二人とも突然乳繰り合いだした
のだ。こんな大衆集う酒場の中にも関わらずに
である。
しかし悲しいかな、年々民度の下がり続ける
この酒場にてこんなことも珍しいことではなか
ったのだ。
と、まあ上に記したようにこれは明らかない
じめであった。悪質が過ぎる。
役立たず君ことサリバン君は呆然としていた
。そりゃあそうだろう。今まで彼なりにチーム
に貢献してきたであろうに、こんな仕打ちなの
だから。
アルクとやらが言うには能力がうんたらかん
たらと言っていたが僕は聞いちゃいなかった。
気分が悪い光景だからな。
我が兄もそうだ。大変不快とばかりにその眉
間を大きく皺寄らせていた。
「……ちっ、屑どもが」
いきり立つようにして我が兄が席を立った。
おいおい、兄貴。いくのか?
僕は聞いた。
「当然だ。
こんなこと、許されていいはずがねぇ」
我が兄は正義を重んじ、誠実ぶった言動と振
る舞いを心がける男だがやはり周囲の者達と同
じくやや喧嘩っ早いところがある。そこはやは
り魔力保有者というべきところか。
僕はフッと笑った。僕も気持ちは同じであっ
たからだ。
ムカつくから。絡む理由はそれだけで十分だ
。
オーケー。
兄貴がいくなら僕もいくよ。
僕の言葉に我が兄はキョトンとしたが、こち
らの意を理解したのかコクりと頷きすぐに足を
進めた。
僕も後に続いた。
我が兄の一喝。
「そこのお前らッ。いい加減にしろやッ」