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外れ勇者の召喚士ラメリア

外れ勇者を百人も召喚してしまった召喚士

作者: 透坂雨音
掲載日:2020/10/24



 その世界では、魔族を率いる魔人と人類の戦いが続いていた。


 戦いは長い間続き、激化する一方。


 人類は徐々に追いつめられ、生存圏を小さくしていった。


 もはや自分達の力だけで平和を掴み取る事は不可能。


 そう判断した人類は、勇者召喚の儀式に目を向けた。


 異世界から強い力を持った者を召喚する事で、状況を打開しようと考えたのだ。


 そうして、魔法陣や触媒などの研究がはじまり十数年。


 召喚魔法を使う召喚士という存在が誕生した。


 召喚士は魔法陣を床に刻み、魔力と触媒を使って、召喚魔法を行使する。


 基本的にいつも魔法は失敗したが、数十回もすれば、一人は戦える者ーー勇者と呼べる存在を召喚することができた。


 異世界から呼び出された者達は、その世界の人類のために戦場を駆けるのだが、いくら有能なものがいても、数人程度では状況を覆す事はできない。


 人類はいまだに、厳しい状況で戦うことを強いられていた。






 異世界ラスオーロラ オールト魔法国 ボロボロの民家 「ラメリア」


 つい先日、人間の国が一つ陥落し、生存できる土地がさらに狭くなった。


 世界の状況は悪化するばかりで、よくなる兆しは見えない。


 国をなくした者達は、厳しい旅を経て新しい国へ辿り着くが、誰も彼も見知らぬものに手を差し伸べられるほど余裕があるわけではない。


 故郷を亡くした者達には、厳しい現実が待っていた。


 そのボロボロの家に住む者達も、例外ではない。


 貧民街のさらに端にある、簡素な作りのボロ小屋には、母と娘の二人の家族がいた。


 彼女達は、一年前に滅んだ別の国からやってきた者達だ。


 頼れるあてはなく、自分達だけで生きていかなければならない中、母親は体を壊してしまった。


 それは、仕事で無理をした結果だ。


 そんな母親を見つめる娘は、悲しみに目をうるませる。


 ベッドの上で横たわる母の命は、じきにつきると予感させた。


 頬はやせこけ、体は枝のように細く、息は今にも途切れそうに弱い。


 娘は母の手を握って祈るが、握り返す力がだんだんと弱くなっていた。


 隙間から入ってきた風に身を震わせる娘だが、気丈に母に微笑みかける。


 大丈夫、明日にはきっとよくなる。


 その言葉は自分自身にも、語り掛けているかのようだった。


 そんな娘に、自身の最後を悟った母が話しかける。


『お母さんと一緒のお仕事につきたいなら、形見をあげるわ。だから大事にしてね。きっと危ない時に助けてくれるから』


 娘はこれからの人生は、母と同じ歩むと決めていた。


 それは、そんな娘の事を案じた、母の言葉だった。


 ベッドの脇に置かれている古びた杖を見つめる。


 それが、母の仕事道具だ。


 母の言葉に背中を押された娘ーーラメリアは、その後、唯一の家族の最後を看取って、小さな墓を作った。


 そして、厳しい修行を経た後、国のとある要職につくことができたのだった。






 召喚の儀式場


 朝日が昇ったばかりの時間。


 私は、年季の入ったボロボロの杖を握りしめて、儀式を行う。

 様々な道具で飾り付けられた儀式の間で行われているのは、勇者召喚だ。


 ここにいたるまでにたくさんの苦労をしてきた。

 だから、どうしても成功させたい。


 決められた手順を経た後、魔方陣がまぶしく光り輝く。


 しかしその後目に飛び込んできたのは期待した光景ではなかった。


 そこに現れたのは小さな子供だ。


 子供は不安そうな顔で私に問いかけてくる。


「あれ、ここどこ? おねーさん誰?」


 何も知らない様子の子供の言葉を聞いた私は、膝をおとした。


 100度目の勇者召喚は失敗に終わった。


 私がいる国は魔人の脅威にさらされている。


 魔族を率いて進行してくる魔人の軍に対抗するために、戦力が必要だった。

 だからすぐにでもきちんとした勇者を召喚しなければならないのに、まったくうまくいかない。

 もう、これで100回目。


 それなのに、毎回召喚される勇者は勇者(?)と、疑問符をつけたくなるような人間ばかりだった。


 いつも人間を召喚する事はできるものの、呼び出された者達は勇者と呼べるような力を持っていない者達ばかりだったのだ。


 私は、これまでに行った召喚勇者の面々を頭に思い浮かべる。






「ばあさんや。おや、ばあさんはどこにいったのかね?」


 一人は、歩くのもやっとなおじいさん。


 名前はサトウ・トシノリ(80歳)さん。


 趣味はお庭いじりで、サボテンに水をあたえるのが毎日の日課だそうだ。


「わんっ、わんわんっ」


 さらに一人ーーではなく一匹は、首輪とつけたわんちゃん。


 首環につけられた名前によると、ケロちゃんというらしい。


 手描きのつたない文字でかかれていた。


 ボール遊びが好きで、丸い物を投げると一目散に走っていく。


「うふふ、ちょうちょさんがいっぱーい」


 そして、なんかトリップしてる人。


 名前はアマノカワ・ユウカ(24歳)。


 可愛い物が好きで、ハンドメイドに凝っているらしい。


「よくも私とあの人の中を引き裂いてくれるわね、許せない!」


 後は、病んだ目つきの女性ヤミカワ・ミミ(32歳)さんなども。


 喋っている事がよく分からないけれど、藁人形という独特の人形がないと眠れないらしい。


「ファンタジーで勇者召喚きたー!」


 極めつけには、何言ってるのか分からないはちまき男タナカ・ユウイチ(18歳)さん。


 背中に大きなリュックを背負っていて、そこには可愛い女の子のグッズがたくさん入っていた。


 ちなみに冒頭で召喚してしまった子供はショウタくんというらしい。


 苗字は分からなかった。





 こんな人達が戦って魔族を倒せるわけない。


 この国はもう終わりなのだ。


 失意と絶望感に苛まれている私に、勝手な召喚に巻き込まれてきた召喚勇者たちが優しいのが、せめてもの救いだが。


「おねーちゃん大丈夫。お腹痛いの?」

「おやおや、若いのに大変だねぇ」

「わんっ、ぺろぺろ」

「あらあらあら。ちょうちょさんまっててねー。これは人かしらー?」

「今すぐ元の世界に返しなさいこの○○、○○女!」

「どしたんどしたん? くっ、こんな時おにゃのこにどうやって声をかければ!」







 勇者たちの居住施設


 勇者たちが住む専門の施設に、百人目の召喚勇者を紹介した後、私はばったり倒れてしまったらしい。


 医者の診断によると、勇者召喚で魔法を使過ぎての疲労だとか。


 その時、嫌味を言いにきたのか、施設までわざわざ足を運んできたライバル召喚士の言葉がとどめになったのかもしれない。


「ふん、これだから魔族の血が入った交じりものは。お前の母親は同族である人間に使いつぶされて殺されたんだってね、魔族と交わったんだから当然よ! お前なんかに居場所なんてないわ! 魔人と一緒に討伐されてしまえばいいのよ!」


 彼女の名前はメタノーラ。

 召喚士としての修業を行うようになってから、ことあるごとに目の敵にしてつっかかってくる少女だ。


 他にも同じようなことをしてくる者達はいたが、彼女が一際悪辣でしつこかった。


 メタノーラはあの時、倒れた私が持っていた形見の杖をひったくった。


 意識をつなぎとめるのに必死な私は、立ち上がる事もできず、取りかえる事などできなかった。


「何をするの。や、やめて。それはお母様からもった……大事な形見なの。お母様は、魔族と通じてなんかない。無理やりに……」


 私を産んでくれたお母様。

 そんなお母様と関係を結んだ相手は魔族だった。


 望まむ男から力ずくで組み敷かれ、屈辱の中で体を重ねなければならなかった母は、私を産んでからひどい差別にあった。


 だから名誉を挽回するために無理をして、そのせいで病気にかかり、亡くなってしまったのだ。


 ライバル召喚士のさげすみの視線は心につきささる。


「あんたのお母さんもかわいそうね。あんたが生まれなければ、魔族と通じた事を隠せたかもしれないのに。どうして産んだのかしら。体の良いサンドバックにしたかったの? きっと、こんなボロの杖を形見によこすんだもの。きっと裏では疎ましく思っていたんだわ」

「そんな、はず……」


 いつでも優しかったお母様の声を思い出す。

 そんなはずない。

 否定したかったけれど、しきれない自分が悔しくて、悲しかった。


 私は奪われた杖を求めて手を伸ばし続ける。けれど、メタノーラは『こんな穢れた道具だから、本物の勇者様をよびだせないのよ。私が燃やしてあげるわ』その杖を魔法で燃やし尽くしてしまったのだ。


「あ、ああ……。そん、な。ごめんなさい。お母様、一人前の召喚士になって、お母様の名誉を……約束……のに」


 メタノーラによって、伸ばした手を踏みつけられた私は、疲労と痛みで気を失ってしまった。


 その時、私は知らなかった。


 倒れる私を見つめる、百人の外れ勇者の体が光った事に。







 療養施設


 勇者の連続召喚の代償は大きかったらしい。

 意識を手放してしまった私は、一週間後に目を覚ました。


 そんな私が目を覚ますと、国王様がやってきた。


 国王様は、今まで見た事がないくらい真剣な顔をしていた。


 私は嫌な予感に苛まれる。


 きっとこんな駄目な私をクビにするつもりなのだろう。

 それだけならばまだいい。

 期待を裏切った私に罰を言いつけるのかもしれない。


 しかし、不安でいっぱいだった私に、国王様は「よくやってくれた!」と満面の笑顔を浮かべた。


 肩を叩かれて労われる私はどういう事か分からず戸惑う事しかできない。


「おぬしは勇者召喚を見事やり遂げて、百人もの勇者を召喚してくれた。これで魔族の味方とされていたおぬしの母親の濡れ衣も晴れるだろう」

「一体どういう事ですか」


 私はそれから数日後に、護衛の兵士と共に、戦場につれていかれた。

 戦う術のない、人を召喚するだけの召喚士は今まで戦場に直接赴く事はなかった。


 それが変わったという事は、戦況を変える出来事があったという事だ。


 私が戦場を見回すと、そこでは驚くべき活躍をする勇者(?)達がいた。


「あはは、燃え尽きちゃえー」


 無邪気に魔法を行使して、魔人が操る魔の軍勢を蹴散らす子供ことショウタくん。


「あたたたたたたっ、ほあちょー!」


 華麗な体さばきで魔人を蹴散らす老人こと佐藤さん。


「ばうっ、ばうっ。ぐるるるるっ」


 地獄の番人ケルベロスかと見まがう姿に変貌したわんちゃんことケロちゃん。


「うふふっ、ちょうちょさーん。皆をまどわせてー」


 ちょうちょを操って、幻覚の魔法を行使するちょっとトリップしてた人アマノカワさん。


「あはは、気に入らない存在を黙らせるのはやっぱり物理だわ。帰ったらあの人にいっぱいほめてもらいましょ!」


 調理用の包丁や裁縫道具で、魔の軍団を解体していく病んだ目つきの女性ことヤミカワさん。


「回り込んでおおい囲む、おK? そうそうそのままそのまま、地の利をいかしてくんだお! おにゃのこのために! かわいいは正義!」


 独特な言葉で兵士の動きをコントロールしていくはちまき男ことタナカさん。






 その時、私は死に際につぶやいた母の言葉を思い出した。


『立派な召喚士になるのよ。でももし、人生で一番大きな舞台に立つ時は、お母さんがプレゼントにした杖を触媒にして使いなさい。そうすれば絶対に成功するから』


 お母様の思いが私を助けてくれたのだ。

 ずっと、私は生まれてきたことを後悔していた。

 私が生まれたせいで、お母様は不幸になってしまったのではないかと思っていた。

 けれど、お母様は私を愛してくれていたのだ。


 触媒になる杖なんて高価かつ希少で、めったに人に譲ったりはしない。

 それに召喚士にとっての杖は、人生そのもので、親しい人にもめったに手を触れさせず、墓場まで共にするのが普通だというのに。


 私は、お母様の深い愛に涙を流した。


 その後私は、百人もの勇者を召喚した大召喚士として、歴史書に名を残す事になった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] たくさんの一般人を召喚して、どうなるかと思いましたが、それぞれが活躍できて、召喚士も功績が認められて、良かったです。 勇者を期待してたくさんの人を召喚してしまうというのは、面白い設定です…
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