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即身仏  作者: 大村 仁
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出会い

即身仏は、文化遺産です。

守っていきましょう。


願いは、叶えられた。三十年以上、女性の手を握っていない。女性の顔すら拝んでいない。いや、お寺にやってくるおばあさんがいる。電話もかかってこないこのお寺に一か月に一度だけ必ず来る信仰熱心な方だ。そんな高齢の方のしわくちゃになった手を見てもそんな気持ちにはならない。そのおばあさんからカレンダーを年に一度、受け取っている。カレンダーを見て、印をつける習慣ができた。今日の年月日がわかるようになった。とてもありがたいと思っている。毎日、カレンダーを見ている。けれども、本当にそんな月日がたったのか実感がわかなかった。

そんな時、突然、電話のベルが鳴った。

「おばあさんからかな?」

おもわずつぶやいてしまった。電話なんて珍しい。きっと、お寺に来られないのだろう。部屋の片すみに置いてあった白くなったダイヤル式の黒電話のほこりを袖で払った。

「はい、もしもし。」

十数年ぶりの電話。どう話してよいか、わからない。私は、緊張して、周りに雪のように舞い散るほこりを吸い込み、せき込んでしまった。

「大丈夫ですか。」

顔の見えない電話の向こうから聞こえてきた声は、女性だった。

「風邪をひいてしまったようで、どうも失礼します。」

取り乱したりせずに落ち着いた様子で、話した。でも本当は、

「おばあさんじゃない。」

とあわてそうになった。

こんな世の中から忘れ去られたような寺に来る女性は、変わっている。信仰熱心なおばあさんは、寺の話ばかりで、他のことは話さない。人とほとんど会うことなく暮らしてきた日々を思うとなぜか寂しくなった。普通の人の暮らしがどう変わったのか、知るいいチャンス。社会勉強の一つだと自分に言い聞かせた。また、都合の良い解釈をしてしまった。受話器を持ったまま

「お待ちしております。」

というと、顔が見えない電話の向こうから聞こえる女性の声は、喜んでいた。名前も確認せずに

「失礼します。」

といって、電話を切った。鏡に映っている男性の姿は笑顔になっていた。

 その翌日、何も連絡をしていないのに信仰熱心なおばあさんがきた。いつもこんなにタイミングがよいのだろう。やはり、仏様は見ているのだろうか。そんなことよりもいつもおばあさんの話を聞いているだけだった。この日だけは、珍しくおばあさんと話した。本当に久しぶりに人と話した。ときどき、おばあさんが、顔を見て笑う。

「年寄りがいうのも変だけど、古い言葉遣い。今は、電話を回すとはいわない。もう電話は押すもの。ダイヤル式の電話なんて見ない。テレビで見たけどもう、孫なんて、ダイヤル式の電話は使えない。そういえば、会話で、押すという言葉は使わない。変と言えないわね。とにかく笑ってしまって、ごめんなさい。昔を思い出すような懐かしい響きだったわ。」


ダイヤルを押す電話を持っている人。寺に入る前は、そんなものを持っている人は、最新の機器を買える金持ちの人だった。学生の時、周りは、一人暮らしをしている人ばかりだった。貧乏で日々の生活で精いっぱいの人ばかりで、家に電話がない人もいた。そんなプッシュフォンが家に一台はある時代がついに到来した。

そういえば、孫が、インターネットを使っているから、コンピューターを誕生日にプレゼントしたいというけれどおばあさんは、よくわからないので、使いたくないと遠慮がちにもらした。

コンピューター? なにそれ? 説明されてもよくわからない。話を聞いていると、学生時代によくデートに行った映画館で見たSF映画に登場する機械にいていた。寺の中にいる間に大きく世の中が変わってしまった。それだけ世間と離れている時間が長かったということだけは、わかった。


どうでしたか、物語は、続きます。

お楽しみに。


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