第1章・4ーB
「…私は…、強いて言うならば…、‘’誰かに命令されたから”ですかね…」
また困らせてしまったか。
こいつの困った顔を見るとどうも気の毒に思えてくる。
まだ初対面して少ししか経っていないのに。
「魔女も、人間ですからね。やはり、人を殺して良い理由なんてないのでしょう」
それでも、リマナは語ってくれた。
「他人に命令されたから、私の術で、死という感覚を与えるんですよ。それで案外人は死んでしまったりするのです」
それはきっと、‘’騙り”などではなく。
「私が直接手を下した訳ではないと、自分を正当化するんですがね。やはり苦しい所はあるのですよ」
俯きながら、胸を抑えながら。
「騙す騙すとは言っても、私は馬鹿で、騙されることの方が多いんです。酷い人なら、私を騙して、私を殺しの道具に使って」
両目を多少潤しつつも。
「けれど、主人は人を殺す理由を見つけてくれました。あの方が聖者になられたのはそういうことなんです。あの方はある日突然変わられた」
己の気持ちを言葉にする姿は。
「人を殺さなくなった。聖者になると仰った。そんなこの方に私はついて行こうと思えました。それ以前にも尊敬はしていたのですがね」
馬鹿などではなく、美しい魔女だった。
「…もういいよ。話してくれてありがとな」
そう言って俺は、リマナの方を2回、優しく叩いた。
リマナも俺の方を見上げる。
やっぱ、綺麗だな。
「今から、あいつに会いに行こうぜ」