第1章・3ーA
「髪が綺麗だね」
「目が澄んでるよね」
「肌に透明感あるね」
「スラッとしてるよね」
「美乳だね」
…。
……。
………。
最後のは絶対おかしい。
だから(という訳でもないけれど)、私は逃げたんだ。
窓ガラスを割って登場したのは良いものの、結構痛かったし、逃げるときは壁を壊したからもっと痛い。
どこへ逃げるかは特に決めていないけれど、逃げ切れる自信はある。
…誰から?
知らない。
あんな人…、私は知らない。
私は今、とてつもないスピードで逃げている。
単なる道を走ったりするのでは甘い。
建物の壁、屋根、更にはその中をも蔦い、蹴って、回って、反って、捻って。
普通はこんなこと出来ないし、する必要も無いけれど、私は逃げるしかないんだ。
「しゅじーん。お待ちくださーい」
む。
そういえば、リマナは空が飛べるのだった。
いくら私の方が格上と言えど、空は飛べない。
そもそも空を飛ぶことなど、大抵の人が考えているより難しい。
リマナは生まれつき、空を飛べる体質らしい。
それどんな体質?
羨ましいよ。
1度死ぬ前からの夢だし。
「心配しましたよぉ。主人があの方と危ない関係にあったんじゃないかって」
リマナは飛びながら話しかけてくる。
私は全力で、複雑に逃げているというのに。
私はあの人からは逃げれても、リマナからは逃げられないらしい。
「何?危ない関係って。そもそも私は、あの人とは何も関係ないよ。知らない人だもの」
「いえいえ。それがですね、アトゥートさんが言うには、あの方はは1度死んだ人間だそうで」
…。
「そして死んでからこの世界に来たと」
……。
「何でも、死ぬ直前に想い人に告白したらしく」
………。
「どうもその告白が歯切れが悪かったそうで」
…………。
「だってあれですよ?告白の言葉が、‘’好きだ、好きだ、好きだ、好きだ”ですって」
……………。
「なんて幼稚なのでしょうね。思いっきり笑ってしまいましたよ」
………………。
「 それで、あの方が言った中で一番不可解な点なのですが、その想い人というのが主人だそうです」
…………………。
「うーん、どいうことなのでしょう。…しかし、私その話をどこかで耳にした気がするのですよ。恐らく100年ほど前でしょうか」
……………………。
「あの…、聞いていらっしゃいますか?主人も何か心当たりがおありではないですか?」
………………………。
…心当たりしかない。
私はヌディ・テストパ。
でもそれは100年前、正確には102年4ヶ月前からの話。
私が魔女だった時よりも前の話。
私は死んだ。
1人の17歳の女子高生として。
好きな男子に告白されてから。