第1章・2ーA
目が覚めるとそこは異世界だった。
と言いたいところだが、俺が異世界に来たのはもう少し前だ。
まあ、精神的に異世界に来た訳で、革命家アトゥートは元々この世界にいたんだよなあ。
俺にとっては異世界。
アトゥートにとっては同世界。
そして俺はアトゥート。
アトゥートもまた俺。
目覚めても俺の精神がアトゥートになっている訳ではなく、アトゥートの肉体が俺になっている訳でもない。
ただただ困惑し、混同する。
目覚めたら元の世界に戻っていれば良いのに。
それからもう少しマシな見た目と性格と能力が欲しい。
元の世界で半端ではない生活がしたい。
だが今の俺、つまりアトゥートは異世界で半端ではない生活をしていそうだ。
「アトゥートさん」
使徒リマナに名前を呼ばれる。
そう、俺はアトゥートだ、今はな。
ここがどこかって?
知らん。
俺は知らない場所で気を失い、知らない場所で目覚めた。
「しっかりしてください。主人が来られるのですよ」
しっかり出来なくしたのはお前なのだが。
身体は自由になったようだが、逃げられるほど楽になってはいない。
「えーっと、じゃあ、ここは主人の屋敷かどこかなのか?」
ある程度の広さはあり、外装は見なくとも内装だけで中世のお屋敷のようではある。
暗く陰気な雰囲気は、歴史上というよりは童話上の建築物のようだ。
「はい。管理は私が務めていますが」
「その主人は魔女だったりする?」
「その言い方は正しくありませんね。女性ではありますが、魔女などという邪悪な存在ではありません」
その主人には邪悪なイメージしかなかった。
だが、女なのか。
なら余計おっかないじゃないか。
リマナはその正体を口にする。
「主人は聖者でいらっしゃいます」
聖…、者…?
「え、聖者ってこんな黴臭いところに住んでるのか?」
「管理は私ですから、完全に私の趣味です。私は魔女ですので」
「邪悪はおまえじゃねぇか」
「てへへ」
…可愛いかよ。
自分の邪悪さを指摘されて照れているじゃないか。
「何?お前は魔女なのに、聖者に仕えてるの?」
「主人も元々は魔女でして。私は主人が魔女の時代からお仕えしています」
「魔女から聖者に…って、じゃあ、そもそも魔女と聖者の違いは何だ?」
「ふむ?その程度の一般教養のない方がいらっしゃるのを知らなかったとは、私もまだ浅学ですね」
何だそのむかつく言い方。
俺の身体が万全なら、初めて女性に手を上げていたかも知れないぞ。
「早く教えろよ」
「はいはい、お教えしますね。聖者というのは穢れなき術、つまり聖術を使う存在です。一方で、魔女もとい魔法使いというのは、邪悪な術である魔術を使う存在です。魔女というのは、単に魔術を使う者に女性が多いことに由来します」
それが一般教養ねぇ。
それはそれは大変な世界に来ちまったようだ。
パリンッ!!
…!?振り向くと月明かりの照らされる窓が割れていた。
そしてそこに…、一つの影。
そうか、たいそう立派なご登場で。
邪悪というイメージを払拭する必要はなかったようだ。
聖者とは聞いていたが、隠しきれない邪悪さ。
最早邪悪そのもの。
服装だけはまさに聖者といった白い修道服で、返ってそれがかつての魔女の邪悪さを助長しているように思える。
「…いらっしゃい。初めまして。私は聖者ヌディ・テストパ。君は革命家、あ」「あ」
目が合った。
それだけなのだ。