第1章・1ーB
「申し遅れました。私は使徒リマナでございます。以後お見知り置きを」
いや、お前の名前は今はどうでもいい。
それより鏡に映る俺のこと方が気になる。
別に鏡に見蕩れているとかそういうナルシシストではなくて。
例えばだ。
朝起きて鏡見たら、顔が変わっていたら嫌だろう。
それも美形になるとかではなく、冴えない雰囲気を残して変わっていたらもっと嫌だろう。
茶髪碧眼はまだ良い。
首筋の龍の刺青もかなりロックだ。
だが、顔は変わってもやはり俺なんだよなあ、と思うくらい冴えない。
「えーっと、アトゥートだっけ。俺の名前」
名前だけはカッコイイじゃん。
「えぇ。そこについてはご自身が1番理解されていかと」
「じゃあ、何故俺は革命家なんだ?」
「それもやはりご自身が1番…。何ですか。記憶でも失われましたか」
「うーむ…」
と言うよりは、あってはいけない記憶を持っているという感じか…。
「じゃあ、なぜ革命家は死ななければならない?」
「ふむ?革命家というのは言わば反逆者でしょう?反逆者が粛清されるのは至極当然ではないですか?」
「適当な考えだな。全ての革命家が反逆者とも限らないだろ?もっと何か理由があるんじゃないのか?」
「…あまり考えるのは苦手です。が、私は主人の命令であなたを捕らえに参ったのです。理由は主人にお訊き下さい」
考えることを放棄した顔。
理知的な風貌からは考えられないような複雑さがある。
「分かった」
「お分かりになられたのですか?」
「いや、そういう意味ではなくて…。取り敢えず、その主人のところに行ってみる」
「物分りがよろしいようですね」
俺があまりにも素直なのは、自分の身体に異変を感じたからだ。
口と表情は相変わらずうるさいのだが(自覚している)、それ以外が全く動かない。
「一応訊いておく。何をした?」
「ふっ。よく考えてください。私はあなたを捕らえる以上、逃がす訳にはいかないのですよ」
答えにはなっていないな。
「その割に首から上は自由にしてくれるなんて、やけに優しいじゃねぇか」
「…それは…、あなたのお顔が…。いえ、何でもありません」
…?ただの馬鹿かと思っていたが…。
理由があると?
なぜ濁す?
「と、とにかく行きますよ」
「焦ってるなぁお前。どうしたんだぁ?」
今の俺は相当顔が歪んでいると思う。
だが、こいつの顔も中々ブレている。
透き通った白い肌が綺麗に紅く染まっている。
こいつ…。
いや、何でもないや。
「錯視」
…!?
錯視と言ったかよく分からないけれど、そいつがとんでもないことをしているのは分かる。
視界がおかしいことになっている。
夜闇はさらに暗くなる。
しかし、裂けた地面から光が染み出す。
裏路地はどんどんぐしゃぐしゃになり、複雑に絡み合っている。
元々俺がいた世界では絶対にありえない光景だ。
「もう一度訊いておく。何をした?」
「ふふっ」
先程の質問には答えにならない答えを返してきたが、今回は精々笑みを返してきただけだった。
されど余裕の笑み。
馬鹿さは特になく、見た目通りの美しい印象だった。
「錯触」
ガツーン。
錯触と言ったか、頭に大きな衝撃が走り、俺はノックアウトする。