第1章・1ーA
シュパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ…
さてと、今の状況を説明してやる。
死んで間もない(本当に間もない)俺は、‘’逃げている”。
…逃げている?
…何から?
ちょっと待て待て待て。
第2の人生歩み始めたばっかりだろ?
何で走り始めてんの?
歩めよ…。
そういう問題じゃないのか。
シュパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ…
言っておくが、誰から逃げているかは俺にも分からん。
こんなよく分からん音を立てながら追いかけてくる奴なんてよく分からん。
というか、自分が誰かも分からん。
分かるのはここが石畳の敷かれた暗い裏路地だということ。
いや、いかにもな場所だな。
雰囲気でまくりだろ。
道が枝分かれし過ぎてどこから敵が現れるか想像もつかない。
そもそも敵とは。
まあ、こんな所に現れる敵なんてものは危ない香りしかしないんだがな。
シュパッ!!
………!!
急激に風を切るように音が途切れる。
何となく、人が高速で出現したのだと察する。
証拠に、暗く包まれたよく分からない存在が己が前に立つ。
「お待ち下さい」
お待ち出来なかった。
つまり、こいつにぶつかった。
だが、ぶつかった割には倒れなかった。
そして俺は包まれる。
だから何にだよ。
「見つけましたよ、やっと。逃げてはなりませんから」
この体幹お化け、女じゃないか。
綺麗な声だ。
落ち着いていて、俺好みの声だ。
ということは、俺を包んでいるのは…、胸?
ムニッ。
「ひゃぁ!」
あ、本当だ。
いやいや、大きいだけのむ…、ではないにしても、僕は飾らない小さめの方が好みだから。
「あなた今、とても不潔なことを考えていらっしゃいますね?」
いや、割と健全だと思う。
「誤解もいい所だぞ。会って2秒で胸を押し付けてきたのはお前だからな」
「あなたこそ誤解しているようですが、止まれないことを理由に、私の懐に飛び込んできたのはあなたでしょう?」
「不可抗力でーす。裁判では俺が勝ちまーす」
「あなたぶつかってきた後、普通に触りましたよね?」
…知らん。知らんな。
ムニッ、とかいう音を立てたのは俺じゃなくてお前の胸だから。
「まあ、良いです。水に流しましょう」
ちょっろ。
「まずはあなたには死んでもらいます」
全然ちょろくなかった。
急なジョークきっつ。
「勿論、順を踏んでもらうことになりますが…。最終的には我が主君に直接手を下して頂きます」
ジョークじゃねぇなこれ。
俺死ぬの?
さっき死んだばっかりなのにまた死ぬの?
「待てよ、待て。取り敢えず待て。えーっと、その理由はいかに?」
「ふむ?あなたが革命家アトゥートであること以外に理由が考えられますか?」
「知らんぞ!!」
こればっかりは本当に知らんぞ。
革命家にもアトゥートにも心当たりはない。
「ふむ?その首にある刺青はは革命家の印では?」
「え?」
慌てて首元を確認する。
て、見えるわけがないか。
「はい、鏡どうぞ」
用意が良いわ。
嫁か。
………!!
確かに首筋にはいかつい龍のような刺青が施されていた。
だが、それ以上に気になる点。
気にしなければいけない点。
「いや、お前誰!!」
全く知らない顔がそこに映っていた。