眠れぬ森の美女【1】 〜月並みの姫様〜
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どうしても眠れない夜があるの
そんなとき どこかで 無理をしている
どうしても開けない未来のドア
そんなとき ほんとの 望みじゃないの
*〜*〜*〜*〜*〜*
眠れぬ森の美女【1】 〜月並みの姫様〜
とあるお城の最上階。
きらびやかな服装のお姫様と、
ぶかぶかのローブを着た賢者がおりました。
「ひめ、どうか」
「無理」
「お願いします!このとーーーり!」
「無理なものは無理!」
「私どもの命運はあなたの双肩にかかっているのですぅぅ」
「どうしたのだ、騒がしい」
「はっ、王様!われわれにどうかお慈悲を〜」
賢者は姫のお父様、つまり王様に泣きつきました。
「なんなのだいったい。
この国屈指の賢者であるそちらが、
わたしの娘に手こずっているとは…
もしや、うちの娘はそこまで頭が賢いのか!?」
淡い期待を抱いてみましたが、
「……いえ。残念ながら、月並みです。」
あっさり打ち砕かれました。
嘘のつけない賢者です。
「手こずっているなんてひどいわ。わたしはほんのちょっぴり夜更かしなだけよ」
「いい加減に寝てくださいよう!」
「無理。ぜーんぜん眠くないんだもの。」
「そう言って、いつまで起きてるおつもりですか!」
「もう〜。たった98時間、一睡もしてないってだけで大袈裟ね」
「98時間?!」
あと二時間で百時間よ、と姫様は明るく言いました。
「夜更かし通り越してご病気ですよう。」
「ちょっとこい、賢者」
「なんでしょう」
王様は賢者をよび、ひそひそ声でききました。
「おまえは確か、
医師の資格を持っていたな。
医師として、診断するとしたら娘は何の病気だ?」
「…えーと、『眠れぬ病』ですかね。」
「眠れぬ病…」
初めてきく病名だったので、
王様は、一人娘のために心配でたまらなくなりました。
「たぶん。」
「私はなにをしたらいい?」
「そうですねえ…姫様には、かの有名な森で寝ていただくしかないでしょう。」
「かの有名な森、とは?」
「むかしむかしどこぞの美女さんがすやすやとお眠りになっていた森ですよ。」
「なるほど。げんかつぎか。うちの娘も美人さんだからな。」
動きさえしなければ、
そして喋りさえしなければ、
姫様はとっても優雅に見える人でした。
「確かに顔だけはいいセンいってますが、
むろんそれだけでは御座いません。
あそこには世にも珍しいオーターベット、
なるものがあるのです。」
「オーターベット?」
発音からして、異国の国の言葉のようです。
「それはそれは素晴らしい寝心地と噂のベットでして。
横になったが最後、
たちどころにまぶたが閉じて二度と目を覚まさないという!」
「…それはそれで問題が山積みだと思うのだが。」
「けっこうなことではないですか!
これで私どももようやく安眠することができますし、
何より今のままおき続けていては姫さまのお体がまいってしまいます。
ここは姫さまのお体を第一に考えた処置をおとりくださいませ、王様。」
「ううむ。大事な一人娘だからな。おまえのいうとおりにしよう。」
「よっっっしゃあ!
じゃなくて、
承知いたしました、王様。」
「そろそろバレているぞ。お前のキャラ…」
「はて何のことでしょう!
それでは姫さまにお伝えしてきます!」
「頭だけは賢いんだがなあ。
やはりこの国で天から二物を与えられたのはわたしだけか。ふっ。」
幸い、このナルシストな光景を見た者はおりませんでした。
「姫さま姫さまぁ」
「行くわ。」
姫様は即座にいいました。
「早っ!」
「盗み聞きしてたから。」
「どこから?」
「最初から。」
さすが姫様。
でも、賢者にとってはちょっとまずかったようです。
「あわわわ。」
「だーれーを、永眠させたいですって?」
「すいませえん」
「だいたいどっから聞いてたってアンタ私の悪口ばっかりじゃないの!
随所にちりばめてんじゃないわよ。」
「すいませえん」
「でも行くわ。」
「本当ですかあ?」
さっきまであんなに寝ないと言っていた姫様が、
やけにやる気まんまんなので、
賢者はその理由を知りたがりました。
「『眠れる森の中にあるベットで眠れた者は勇者なり!』」
「なんですかそれ。」
「きもだめしのキャッチコピー。
学校のみんなと、
きもだめしやろうやろうって言ってて結局実現できてないんだけど。
ファンタジーとアドベンチャーとホラーとホラをうまく織り交ぜてるから、
あらゆる生徒から参加依頼が殺到しちゃったのよ。」
きもだめしに、ホラを混ぜるとは。
さすが姫様です。
「そうですか。
それはよかったですねえ。
じゃあお供しますんで支度が整うころにまた来ます」
「流したわね。
私がきもだめし企画実行委員長なのよって、
自慢したかったのに。くっ。」
「王さま王さまあ」
「…いそがしい奴だな。」
王様のもとへ、賢者がほてほてと走ってきました。
走ったといっても、賢者は運動がとことん苦手なので、
歩くのとあまりかわらないのですが。
「やっとわかりましたよ。姫さまの眠れぬ病は、寂しさのためです。」
「城のものがいるではないか。」
「けれど、むりやり学校をやめさせたでしょう?」
「基礎学力はともかく、
受験テクニックなどうちの娘には必要ない。
もっと学ばねばならんことがあるのだ。」
王様のおっしゃることはもっともです。
けれど、賢者は知っていました。
姫様がいつも、それはそれは楽しそうに、
学校での話を城の者に話していることを。
「でも、姫さまは哀しいほど集団生活に順応されているのです。
さっき『わたしはなにをしたらいい?』ときいたでしょ。」
「…だが学校へ行くのはやはり認められん」
「そうではありません。ただ王様に一役買っていただきたいのです。」
「ううむ…」
「昔は、演劇部だったと聞きました」
「…よく調べたな。」
「これでも賢者ですから。
では私は姫さまのお供として参ります。
王様は、自分のことは自分でやってくださいね」
「なんだその放任主義の母親みたいな」
「もう大人なんですから♪」
「…わかった。はやくいけ。」
「それではまた後ほど〜」
内容がなかったように見えますが、
王様と賢者はちゃんと今後の打ち合わせをしたのですよ。
こうして、姫様と賢者の二人は、
眠れぬ森へと向かったのです。
続きます。ここまで読んでいただいてありがとうございました。
音楽つき小説もありますのでよかったらどうぞ。
http://yuiy.web.fc2.com/monogatari/nemurenumorinobijyo/nemurenumorinobijyom0.html
お読み下さりありがとうございました。
作者HPです。
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これからもどうぞごひいきに!