大手町のゴースト 4 ・・・やっぱり妖怪はいる!
明日はお休みだから、もうちょっと投稿します。
調査役は眉間に皺をよせた。そして続けた。
「私だけじゃない、何人か見ている。みんな、あまりいいたがらないですが。そいつはね、妖怪お手洗いです」
「・・・・」
「課長、転勤してきたばかりだからご存知なかったでしょうが、もう十年以上も前から、このビルに出るんです。便所で、ながなが手を洗って、鏡をのぞき、また手を洗って、じいっと、じいっとして・・・」
天野調査役は手を洗うしぐさしつつ熱弁する。
「トイレのペーパータオルで手を拭いて、また手を洗って、また拭いて、また鏡をみて、それをくりかえすんです。そうです。背の高い、ひょろりとした奴で、鼻がでかくて、髪の毛はモジャモジャしている・・・そいつでしょう」
「はあ」
「そうでしょう」
「ええ・・・」
総務課長がうなずくと、天野調査役は口を閉じてへの字にまげ、やや深刻な顔をした。
「妖怪お手洗い」は、出はじめた頃は変質者ではないかと噂された。しかし危害を加えられた者もなく、職員の噂話にたびたび登場しても、それを本格的に捜査しようとの動きにはならなかった。しかし妖怪はたびたび現われた。最近しばらく休んでいたようだが、また現われた。それを総務課長が昨夜目撃した。そういうことだった。
「妖怪・・・」
総務課長は腕組みした。
「そうなんです。妖怪なんです。その名はお手洗いです。捜査して退治しましょう」
天野調査役は、深刻そうでいて何か軽妙だった。総務課長は首をかしげた。
しかし、かつがれているとの不安はあっても、捜査して退治との方針に心傾いた。だいたい夜おそくまで残業するのはいつも自分なのだ。
妖怪なんか現われては困る。
怖い思いなんかしたくない。昨日みたあれは、疲れていて見た幻影なんかじゃない。冗談じゃない。そんな薄気味わるいところで残業なんて、冗談じゃない。
課長は決心した。
そしてその翌日から、妖怪捜査がはじまった。
・・・つづく
誤字脱字、表現推敲など、またやっていきます。