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大手町のゴースト  作者: 新庄知慧
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大手町のゴースト 2  ・・・妖怪お手洗い?



 夜の十時だった。時短運動の成果でオフィスには課長のほかに誰もいなかった。


 課長は、なんでこんなことを課長がやらねばならぬ、これは部下の仕事だ、という不条理の思いとたたかいつつ、月間収支計画をまとめていた。目がしょぼしょぼして、私もきっと老眼がはじまったのだ、と目頭をおさえた。


 そのとき尿意をもよおした。しかし仕事が一段落するまで我慢した。我慢して我慢して、しかし仕事が一段落しないうちに耐え難いものになってしまった。総務課長はトイレにいくことを決意した。


事務室を出て、数メートルの暗い廊下を大股で歩く。


めざすトイレには誰もいないはずだった。


しかし電気がついていた。


不審に思う。ビル荒らしという言葉が脳裏に浮ぶ。念のため武器を取りにかえろうか。しかし何を武器にする?野球部のバット?しかし部のロッカールームの鍵はどこにあっただろう?眉間にしわをよせたが思いだせない。それより尿意が押さえがたい。悩みを断念した課長の行動は流れるようだった。一目散にトイレに飛び込んだ。


手洗いスペースに、そいつはいた。


こちらに背中を向けて鏡に向って立っていた。しかし総務課長は考える余裕もなかった。トイレ入口の手洗いスペースを駆け抜けて、奥まった場所にあるTOTOホワイト便器の前に立つ。その間、何も見えず何も聞こえなかった。便器に勢いよく放水した。総務課長の安堵は、いかばかりだったか知れない。


その音にかぶさって聞こえてくる蛇口から流れる水の音。放尿がヤマを越えたあたりで安堵から目覚め、総務課長はその水道の音を意識した。


蛇口から流れ落ちる、ながながと続く水の音。


あそこに誰かいた。あの手洗い場に。背が高かった。やせていた。モジャモジャ頭だった。首が細くて、黒っぽい背広だった。鏡に向って、前かがみに、じっと立っていた。


総務課長の、小水の用は済んだ。そして考えた。


あそこに誰かいるが。どうしよう。危険のにおいがあるか?しかし私は総務課長だ。防火・防犯は私の役目だ。意を決して、敢然と、いこうじゃないの。


ズボンのファスナーをあげるや、総務課長は手洗いスペースへと向う。事務的かつ迅速に歩を進め、手洗いスペースへのコーナーで立ち止まり、ゆっくりと様子をうかがった。


水道の蛇口からは水が流れ続けていた。蛇口の横脇には使用済みのペーパータオルが散乱していた。その数は百枚以上にも達したろう。床にも同じくらいの数のペーパータオルが散乱していた。


そして、そいつの姿は、もうそこになかった。


「ちくしょう。逃げられたか。すばしこいやつだ」


総務課長は鏡に向って切歯扼腕してみせた・・・


・・・つづく

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