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大手町のゴースト  作者: 新庄知慧
19/36

大手町のゴースト 19  熱田君がまた熱くなる

固まってしまった課長に、警視は、

「終わりにしたいなら課長さん、早くすませましょう、話してください、汚職のこと」


「そ、そんなことをいわれても、私は、何も・・・」

「何も?知りませんか?それじゃあ、終わりにならないぜ」


迫力のある顔で、警視が唸った。


そのとき、ぴぴぴ、という音。携帯?課長の胸ポケットで携帯のベルが鳴った。


「お?何か鳴ってますよ、課長。電話だ。出てもらっていいですよ。ひょっとして、何かのてがかりになるかな?さあ、でなさい」

強制され、課長は震える手で携帯を懐から取り出す。


「も、もしもし・・・」

携帯の向うから、聞き覚えのある声がした。


-課長、おひさしぶりです。-

「 熱田くん!」


-いま、よろしいでしょうか。おとりこみ中でしょうか。でも、いいかげん、うんざりしてきたんじゃありませんか、課長?-

「うん。まったく、そうだ、とりこみ中だ、うんざりだ」


-実は、課長の状況は、私、ぜんぶ、見えています-

「なに?」


-丸見えです。先も見えます。課長、もうすぐ殺されます。嘘でもいいから、何か白状しないと、殺されます、そう思います-

「・・・」


驚き、言葉がでないでいると、刑事が「熱田」という名前に反応して、課長をのぞきこんでいた。警視も腕組みして、ことのなりゆきに興味をもった様子だ。


-でも嘘も思いつかないでしょう、課長。私が助けます。これ、私からの電話だと、目の前の悪党どもにいってやってください-

「総務課長さま・・・?」じれったくなったか警視が課長に訊ねた、「電話の相手は?」


いってやってください、という強い熱田の声。課長はそれに突き飛ばされたかのように声をあげた。


「熱田!私の部下です」


「熱田?」かの美男刑事が驚いた。「馬鹿な。課長、嘘をいっちゃだめだ」

「いえ本当です。この声に間違いはない」


「そんな馬鹿な」

繰り返す刑事に向って、警視がふてくされたようにいう。

「ふん、そうか熱田か。課長の部下か。どういうことだろうね。まあいい、何の用件だね、話を続けなさいよ」

課長は携帯にかじりつく。


「熱田くん!それで、用件は?」


-真実を暴露する-

「は?」


-その連中こそ真の警察です-

「真の警察?」


-国家が生み出した、国家に奉仕する、国家のための警察、みんなが作り出した怪物の警察。話せば長くなるが、中身は簡単な話。共同幻想が生み出した現実の暴力装置。しかし僕はこれに対峙する、新しい何か-

「熱田くん。君、やっぱり、おかしい。大丈夫か」


-課長!そいつらに、いってやってください、僕は生きているって。生きているから見にこいって。そして書類はそこで渡してやるって-

警視が怒鳴った、「何だといってるんだ、熱田くんは?」


「生きているって。生きているから見に来いって、そこで書類は渡すと・・・」熱田の言葉を反復し、課長はいった。


「ふん」警視は吐き捨てるようにいった、「どこに行けばいいんだ?」


・・・地獄だよ


また、あの、課長の内なる伝導音声。


「ふざけるな!」警視は背広に隠し持っていたピストルを取り出した。「課長、冗談が過ぎるようだ、芝居もいい加減にしろ。熱田から電話が来るわけないだろう、何のつもりだ、その下手な芝居は?」蒼ざめた顔で烈火のように怒っていた。


そのとき、またあの「ズドーン」という大音響、振動!


今度は揺れが激しかった。このビルはコンニャクでできていたのではないか、そんな気持にさせるほどの揺れだった。居合わせた皆がよろめき、倒れそうになった。


・・・チャンスだ!


伝導音がそう叫び、それが始めからの意志であったように、課長は飛び上がり、猛然とダッシュした。自分でも不思議に思う身の軽さだった。「交番」の出口ドアめがけて走り、部屋から飛び出した。メチャクチャに、走りに走った。背後に警視の大声。


「逃げられると思っているのか!」


もちろん、そんな声、無視して課長は走った。廊下を走りきり、エレベータにつきあたり、右へ曲がって、長く続く廊下を走る。


両サイドにいくつものドア。そのひとつのノブに手をかけるが、開かない、背後から足音。振り返ると、追ってくるのは、警視や刑事ではなく、いつのまにか現われたビル警備員らしき男たちだった。


課長は走る。非常口の看板のある大きな金属製の扉に体当たりしたら、開いた。飛び込むと、非常階段の部屋、三十九階から見下ろすはるかな下方まで階段が続いている。


課長は駆け下りた。二階分降りたあたりで頭上のほうから非常口の開く音、警備員たちが駈け込む足音。ますます焦り、ころげ落ちるようにして、課長は階段を駆け下りた。


と、不意に、バチン、という音がして、何も見えなくなった。すべての照明が消えて、真っ暗になった。


といって、課長はすぐには止まれない、感覚だけをたよりに、引き続き駆け下りた、が、それは無理があった。すぐに課長は階段から足を踏み外し、だだだだだん、と、駆け下りの勢いにのったまま、体ごと回転しながら階段を落ちていった。複雑骨折回避不能、という文字が頭の中で回転した・・・


また気絶するのか。よく気絶する夜だ・・・


・・・つづく






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