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大手町のゴースト  作者: 新庄知慧
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大手町のゴースト1 ・・・ビジネスのめまいに崩れそう?


ビルまたビル。その向こうもビルディング。見上げれば青空切り刻むアスファルトの断崖迫り・・・見上げつつ回り踊れば、あのいやなビジネスのめまいに崩れそう。


そこは東京。

曇天の、はるかな空から降下すりゃ、みるみる迫るビルたちが、無数の墓石ぼせきかバベルの塔、眼前に迫り来て、わが身を鋭く突き通す。


そしてそこ大手町。

皇居直結「行幸通り」右サイド、建ち並ぶ大銀行、大新聞、大商社、、大会社、大々会社・・・・。大手、大手また大手、大手企業のビルだらけ。巨大なるビルの街。アオゾビル、センタービル、スクエアビルに、ファーストビル、ビル、ビル、ビル、ビル、ビビビのビル!


東京駅前から大手町・・・といえば、昔は三十三メートル十階だての、切り揃えられた白いケーキのような建物たちが行儀良く並んでいた。それがここ数年の都市再開発で、ビルたちはわれ勝ちに、不揃いに、思い思いに成長し、オフィスの青い空むやみに切り裂いた。オフィス街には開発の、乱調が続いていた。


ああ大手町。東京駅から歩いて十五分ほどのビル二階。そこに総務課長のオフィスがある。そのビルは三十三メートル十階だて、一年後には再開発の魔手にかかる老朽建物「毬ビル」である。


早朝。

今日も総務課長は一番のりで出勤。デスクについたとたんに電話が鳴る。

「こどもが病気です。お休みさせてくださあい♪」


悪びれもせず、申し訳なさそうでもない、朗らかな女の声。戸惑うでもなく事務的かつ迅速に総務課長は答えた。


はい。そうですか。お大事に。ああ・・・お大事に。


ついこの間まで三か月も産休をとっていた経理係の宮坂さつき職員(三十二歳)。まただ。職場復帰後、生まれたばかりの赤ちゃんと母親の、親子交代でかわるがわる病気になり、ちょくちょくポカ休する。


「・・・」

ということは今日も私が伝票を切るのだ。自分で切って自分で決裁するのだ。そう総務課長は思い、観念し、心は萎れた。


そして彼は今日も遅刻だろうか?

彼とは課の筆頭の男子職員だ。名は天野光雄。五十代なかば。総務課長よりも一回り以上も年長。職位は調査役(そういう名前の実はヒラ社員)。


この人は「人生廃業」の人であった。「人生、廃業!」というのが口ぐせだった。もう課長になる目もない。それは俺が悪いんじゃない、上のせいだ。世の中のせいだ。もういい!もう誰にも何も、のぞまない!いうだけいって、しかし、最後はわりと陽気に「人生、廃業!」と叫ぶ。


きっと、また遅れてきて、上目づかいに少しお茶目に、


「すんませえん、地下鉄に乗り遅れちゃってえ」


とか、首肯しえぬ理由を並べて陳謝する。そのとき、職位は上でも会社と人生の後輩である総務課長は、きっとこういうのだ。この課長はこうとしかいえないのだ。


「いいんです。いいんですよ天野さん。でも、これからは気をつけてくださいね・・・」


・・・それから確か、あと三人くらい部下がいたはずだ。思い出すか?いや思い出したくない。きっと思い出しても、出口なき立腹があるだけだから。きっと。


課の状況など説明してもつまらん。


つまりこんな総務課でよろしいということなのです。総務課には、その程度の仕事しかないってことです。総務課長がひとりでこなせっていってるのだ。じじつ、残業といえば、総務課長はだいたいが一人で請け負った。管理職には残業手当がないので会社に経費負担がなくてすむのです。課長が一人でタダ働きして泣けばいいってことなのだ。


ところで、この課長の勤め先のビルには、お化けがいた。そのお化けは、総務課長が一人で残業していた昨晩、現われた。



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