第3話-新しい家族
「えっと、まず、君の名前を教えてくれんかな?」
深みのある声でそう言ったのは、薺の父、甲斐堅矢と言う男だ。身長は190cmくらいで、見るからに力仕事をしてそうな筋肉量だ。顎髭がカッコイイ。日本にいたらボディービルダーとかやってそうだ。
「三枝隼人です。本日は、面倒を見ていただき誠に有難うございました」
俺は、堅矢さんの機嫌を損ねない様に、不慣れな丁寧語を使って、感謝の気持ちを伝えた。
自分でも声が震えているのが分かる。
ダセー。
「そう硬くなるな。儂が君に用が有って連れてきたのだから。そうじゃなきゃ、君みたいなのが倒れていても気にも止めんよ」
「は、はぁ....。で、その用とはどの様な事なのでしょう?」
少し怖かったが、恐る恐る聞いてみた。
『内臓を売ってこい!』とか、『奴隷として働け!』とか言われたらどうしよう...
「なに、大した事では無い。うちの娘の面倒を見てやって欲しい」
「え?今なんと?」
「だから、うちの娘の面倒を見てやって欲しいと言ったのだ!」
一瞬、現実が理解できなかった。
正直、内臓を売れと命じられる方がマシだ。
日本にいた頃は引きこもりだったし、童貞だし、女の子との関わり方なんて知らないし。
そりゃ、こんなに可愛い女の子と一緒に居られるなら本望だけど、絶対に俺の事キモいって思われるよ。そんな事になったら俺、普通に死ぬよ...
「お断りさせていただきます」
あ〜。また俺は逃げたんだな...
「なんと!嫌と申すか!だが、娘の面倒を見てやってくれぬか?」
「そんなドラ○エみたいな説得しても、無理ですよ!そもそも、なんで俺なんですか?もっと娘さんに合ったカッコいい人がいるでしょ!」
「ドラ○エが何か知らんが、儂が君を推薦する理由は隼人君が強い男だからだ。神猪山に入った人間は全員、神猪様に殺されてしまう。だが、君は逃げ切った。だから君に頼っている」
「...」
「それに、君はカッコよくないから娘が君に惚れることが無いだろうと思ったのだ!」
「結局それが本音かよ!」
「ハハハァ」
「まあ、俺は嫌ですよ。もっと別の方法で恩を返させて下さい」
俺が何とか断ろうとしていると、今まで黙っていた薺が口を開いた。
「私の面倒見てくれるの、ダメ...かな?」
「はい!よろこんでお受けします!」
.......
あ、言っちゃった...
「まあ、そう言う事だ!たのんだぞ!あと、儂の娘に変な事したら、首を落とすからな!」
「しませんよ!」
俺は、はにかみながら、そう答えた。
まあ、いいや。
「で、具体的に何をすればいいんですか?」
「君はどこの国、出身だね?」
予期せぬ質問に、少し戸惑った。
「なぜです?」
「神猪山に入ると殺されると言うのはこの国では常識だからな。あそこに入る奴なんて、頭のおかしなガキか、よそ者だけだ」
「日本という北の小さな島国です」
「知らん土地だな。それで、君の質問の答えだか、薺には、私達の居る国、マラキラ王国に伝わる『ドォセィ』という試練に合格して欲しい。試練の内容は、10代の女が10代の男と、何事も無く、1年間、2人きりで生活すると言うものだ」
「ただの同棲かよ!」
敬語を忘れ、全力でツッコミを入れた
「ちがう!本当に何事も無く、1年間過ごさなければならないのだぞ!」
「で、その試練に合格したら、どうなるんですか?」
「王様と結婚する権利が与えられるんだ...」
薺が何処か寂しそうに答えた。
「マラキラ王国の王様は、EDと言う病気でな...。だから、いつも、嫁には逃げられてしまう。そこで、他の男と生活して、一年間、何事もなく過ごせた女を嫁にすると言っているのだが、いまだ、その試練を達成した人は居らんのだ」
「つまり、堅矢さんは、ナズナちゃんを、王様と結婚させたいってことですか?」
「そうだ」
俺はその言葉を聞いて決心した。薺を王様の嫁になんてしてやるもんか!と。
だから俺は、薺と同棲し、俺に惚れらす。本人が王様と結婚する事を望んで無い様に見えたから。
「分かりました。その話、有り難くお受けします。ただし、どうなってもしりませんよ?」
「そうか!受けてくれるか!なら明日までにこちらで住む場所を用意しよう!何な希望はあるかな?」
「ナズナちゃんは、どんな家がいい?」
「広くて綺麗なお家がいいです...」
「じゃあ、それでお願いします!」
「分かった!直ぐに手配しよう!待っておれよ!」
あれ?なんか、あっさり住居手に入れちゃった!女神様との約束って意外と簡単かも!
どんな鬼畜ミッションが来るのかな?
ま、どんなミッションが来ても、クリアしてやるぜ!