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ゴールデンウイーク2日目。
昨日は二年間だったという変な表現をしなければならなくなったな。まさか精神年齢と肉体年齢に差が出るとは思わなかった。
そんなことはどうでもいい!今日はおもちゃ屋ひらのにてタップジンの大会なのだ!ひらのは小学生以下の大会のみではなく、全年齢大会も開いてくれるのだ!
この日をずっと楽しみにしていた。研修会で来れないかなと思ったけれどもし過ぎていたら神様に掛け合ってこの大会には出られるようにしてもらえるよう土下座することまで覚悟するぐらい楽しみにしていた。
「俺は来たぞォ!この闘いの地にィ!」
興奮のあまりつい叫んじまったぜ!また優勝して、エキシビジョンでキングに勝って、ウルトラスタジアムタダでもらってやる!
「何やってんだ?マイスターのお兄ちゃん。」
「あ、ようた君来てたんだ。いくらこどもだろうと容赦しないからな。」
「マイスターの兄ちゃんだって一回負けてるだろ?」
「いや、あれは初心者だったからだ。初めて出た大会で持ってるタップは一つだけ。それで4位だったんだぞ。ここ3回の大会は全部優勝してるんだからな。最強の座は僕のもんだよ。」
店の脇で大会のセッティングしていた店長が切りよく終わったのかここちらを見つけて歩いてきた。
「おっ、調子乗ってるなぁ?エキシビジョンではまだ一回しか勝ててないぞ?前回もまぐれだ。調子に乗っちゃっていいのかな?」
「修行した成果見せてやっから楽しみにしとけよ!」
そう、僕はあの修行を乗り越えたのだ!筋力はもちろん柔軟性も上がっている。紐を引く速さもシューターの保持力も誰にも負けない自信と根拠がある。本当に負けそうな時は【玩具野郎】もある。相棒モグドラヌーンで突き進む!
ん?なんか【玩具野郎】関係で引っかかるような………大会終わったら思い出すだろう。無駄なこと考えている暇はないんだ!ただひたすらに勝利を、貪欲に勝利を求めなければ!
一回戦は子供に連れてこられたお父さんだった。息子の前でかっこつけたいのか、はなの穴を膨らませて気合十分だ。悪いが踏み台になってもらうよ!
僕のタップの軸はアイアンフラット軸。大会では皆半球軸か円錐軸を使うのだが、ロマン抜きで勝ってもそれは遊びではない!アタックしてこそのタップジンだろう!モグラモチーフの重みのある胴体と爪の部分で相手を弾き飛ばす。完璧な布陣である。
もちろん圧勝。いくらはなを膨らませようとも分析と練習をしていなければ勝てない世界なのだ。
「おい、マイスターのシュートパワー3倍ぐらい上がってないか?」
「あれは強いな。だがパワーに合わせた角度が取れてない。いずれ負けるさ。」
なんだかよくわからないけどヒントありがとう。角度を少し調整したほうがよさそうだな。
次の相手はまたもや子連れのおじさん。しかし今回は無理やり連れてこられたのではなく、息子と一緒にハマっているタイプのお父さんだ。このタイプがかなり厄介である。大人の財力と子供への愛情が重なり、財布がゆるゆるになるのだ。パーツ数は尋常じゃなく、ジュラルミンケースに入れちゃってる。そりゃ負けられないよな。
「パパ頑張って!絶対勝つのよ!」
「パパー、あんなやつに負けるなよー!」
「絶対勝つぞ!優勝商品のベアリング軸を手に入れるんだからな!」
よく見たらようた君じゃないか。この人ようたくんのパパか。勝ちづらい雰囲気だがこちらにもマイスターという称号があるから負けられないな。
「マイスターがんばって!」
あ、あれはようた君の妹か。あの子初戦で負けちゃったからな。よし、優勝してベアリング軸をあの子にあげるぞ。うん、気合入ってきた。
「二回戦、マイスターの玩対ようたくんパパ、準備はいいか?レディーゴー!」
ようたくんパパはディフェンス型。半球軸を使って攻撃をいなし、中央に戻ってくるという作戦だろう。なので僕は斜めうちと見せかけて平打ち。超高速でスタジアムを駆け、スピードでスタジアムの縁を出かけたところ壁に当てて中央に強い攻撃を当たる。モグドラヌーンはアッパー形状なので中央からシャベルを入れられた土のように呆気なくスタジアムからアウトする。
「勝者、マイスター!強い!強いぞ!不人気のアタック型で技巧を凝らし短時間で圧勝する、彼の戦い方はまさに芸術だァ!」
店長がハイテンションでアナウンスする。店長あんなキャラじゃないのにと視線を送ったらキッと睨まれた。おお怖い。
「いやー負けちゃったよ。強いね。ところでマイスターってなんなんだい?」
「この店で店長におもちゃ三種目で勝利するとマイスターの称号がもらえるんですよ。購入時に10%引きしてくれます。でも店長めちゃくちゃ強いですから覚悟したほうがいいですよ。」
「その店長に買ってる君は凄いんだね。あとで息子と娘とも戦ってあげてくれないか?」
「ええいいですよ。息子さんとは決勝で当たりそうですしね。」
準決勝第一試合、ようたくんと中学生だ。
「絶対勝つよ!」
「なんだクソガキ。俺よりもチビなくせにいきがってるんじゃねえよ。ぶち殺してやる。」
「うっううう。負けないもん!」
ようだ君パパがものすごい形相で睨みつけている。大人という矜持がなければ今にも殴りかかりそうだ。僕もあの中学生には頭にきている。ようた君の妹を暴言で泣かせた罪がある。あいつは完膚なきまでに叩きのめさなければならない。ようだ君自体も強いのできっと勝ってくれるだろう。可愛い妹を守るために戦う兄、いいね。
ようた君もクソ中学生もフリー回転のボール軸。同じセットなのでシュートの腕が問われる戦いだ。
「それでは準決勝第一試合、ようた君とたかし君、準備はいいか?レディーゴー!」
あのクソ中学生、たかしっていうのか。あまり賢くなさそうなのに。
シュートの精度はどちらも同じ。同じセットだと持久勝負になる。クソ中学生のほうがシュートパワーが強かったか。
「勝者、たかし君!こいつは有名タップグループ黒刃の翼のリーダーだ!多くの大会を荒らして一位をもぎ取ってきた実力はお墨付き!さすがのシュートで勝利をもぎ取ったぞ!」
黒刃の翼か、厨二病を拗らせてるな。後々黒歴史にならなければいいが。南無三。
こっちも準決勝だ。ここで負けたらクソ中学生に鉄槌を下せない。絶対勝つ。
「さあ準決勝第二試合。マイスター玩対黒刃の翼のメンバーのシュウくんだ!準備はいいか?レディーゴー!」
円錐軸を使っていて外重心だ。確かに遠心力は上がるが一度ブレるとすぐに倒れる。アッパー形状のアースモグドラヌーンにはちょうどいい相手だ。
斜め打ちで中央を何度も通るようにシュート。
「勝者、マイスター!これは相性の問題だ!たくさんタップを買ってどんな相手にも備えられるようにしよう!」
店長ちゃっかり宣伝してるな。
次は決勝だ。クソ中学生が相手だ。厨二病を拗らせて調子に乗っている。対戦してたパパ達にも睨まれている。ようた君の妹をボコボコにして罵ったやつだ。パパより僕を応援してくれたあの天使に何してくれてるんだ。ぶち殺してやる。
「なんだ、高校生が一人で来てんのか?ぼっちか。可哀想だな。」
「みんなはこういうお兄さんになっちゃダメだからね!おもちゃで戦うときもスポーツマンシップを大切に。戦った後は友達、だよ。」
「「「「「はーい!」」」」
「マイスターさん立派ね。中学生を睨んでた私たちが恥ずかしいじゃない。」
「そうだね、しっかり言わなきゃダメだったね。」
「さあそれでは参りましょう決勝戦ッ!おもちゃマイスターの玩対黒刃の翼のたかし君!準備はいいかァ!レディーゴー!」
たかし君はディフェンス型。そしてスマッシュ形状なので、アッパー形状が通りづらい。強敵である。お互い同じぐらいの力でシュートした。軸の形状的にスタミナが切れるのはドラヌーンの方が早い。たかし君のシュート技術もかなり高く、アタックがまず当たらない。ピンチである。ここで勝たないとこの中学生のグループが調子に乗ってしまう。ようた君やような君の妹にいい格好ができない。しつけの見本に慣れない。かっこいいお兄さんでかっこいいマイスターで居たいのだ。
【モグドラヌーンは現実化できます。使用神力10】
玩具野郎の能力が発動した。これはズルじゃないのか?いや、タップの力を解放するだけだ。ルールに書いていないもん。
アニメみたいにやって技が出るんだよな?出なかったら恥ずかしいどころじゃないぞ。一生の恥だ。もうひらのにこれない!でもまあやるしかないからやるぞ!
「どぅおりゅうのぉぉぉぉつきっあげぇぇぇぇ!!!!」
叫んだ瞬間、たかし君のタップ、スネークウロボロスの下に潜り込んだモグドラヌーンが突き上げた。モグドラヌーンはスタミナギリギリで今にも止まりそうだ。
カランカラーン
「たかし君のスネークウロボロス場外!勝者、われらのマイスター!玩!おめでとう!」
「にいちゃんアニメみたいだった!」
「もう一回やって!」
「すごーい!俺もできるかな?」
純情な少年たちを踏みにじった感じがする。結構後悔。まあでもたかし君地面に手をついて四つん這いになって項垂れている。途中で勝ちが確定したかのような顔するからだ。たかし君はとぼとぼ歩いて帰って行った。
「優勝者は俺、平野丈一郎と戦ってもらいます。よし、やろうか玩ちゃん。」
「俺が勝ってウルトラスタジアム貰うからな。」
「ふっ、威勢のいいガキだ。キングの力見せてやろう。」
「もちろんアタック型縛りだよな?」
「おうとも。そうでなくちゃ熱い試合にならないぜ!」
「私、キングで店長の平野丈一郎対マイスター玩のエキシビジョンマッチを行います!準備はいいか?レディーゴー!」
丈一郎さんは極太フラット軸を使っている。ハイスピードで相手にぶつかり、外に出す短期決戦型だ。
攻撃部位はゴーレムキングダム、分厚くて重い。とても強いタップの一つだ。
「くっくっく。俺の一撃、耐えられるかな?」
あの一撃を喰らったらまずい。玩具野郎をつかうべきか?いくら斜め打ちして軌道が変わったからと言って全く当たらないという保証はない。
………あれ?全く当たらないぞ?玩具野郎は使ってないし、運か?
あ、ゴーレムキングダムのスタミナがなくなってきてフラフラだ。こっちはメタル軸なので多少スタミナが伸びてる。
カラン
「しょ、勝者、マイスター玩…………」
アタック型縛りで耐久戦かよ。でもそれでも勝ちは勝ちだドヤ顔で店長をガン見してやろう。
「僕の勝ちですね、ウルトラスタジアムください。」
「クゥゥ!なんて奴だ!遠慮というものを知らないのか?」
「そこは『俺の負けだ、遠慮はいらねえ好きなだけ持ってけ』いうところじゃないですか?」
「好きなだけはダメだ。持ってけ、ウルトラスタジアム。」
店長と店の中に入り、ウルトラスタジアムを持って外に出る。ああ、最高だ!
念願のウルトラスタジアムが手に入ったぞ!
「おにいちゃん!ウルトラスタジアムで遊ばせて!うちきて遊ぼう!」
「兄ちゃん、戦えなかったからうちで戦おうぜ!」
「こら、ようた。いきなり人を呼んだらダメでしょ!片付けしてないんだから!」
「そうだね、かなりの好青年だし明後日だったら呼んでいいよ。休みだしね。」
「お父さん!いいの?」
「玩くんは予定空いているかな?うちの息子たちと遊んでもらってもいいかな?」
「ええ、いいですよ。でも、身元もわからない高校生を招き入れちゃっていいんですか?」
「そんなこと聞くぐらいだから大丈夫でしょう。このおもちゃ屋で何度もようたと遊んでくれているみたいだからね。明後日11時にお店の前でね。」
「「じゃあねー」」
ようた君の家族にお呼ばれしてしまった。いいのか?高校入って初めての友達が小学生か。展開が不思議すぎる。いかなかったらようた君と妹とちゃん悲しむから行ってあげないとな。
それにしても玩具野郎使っちゃったなぁ…………
あれ?神様「研修会で能力を本解放する」って言ってたけど何もしてないよな?しっかり使えたから知らないうちに使えるようにしてくれていたのかな?。G石板に何か書いてあるかな?
もちろんウルトラスタジアムは家族に見つからないようにこっそり持ち帰りました。
初めての能力発動は変身ではなくコマでした。
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