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能力、玩具野郎。
どうする、これじゃあただの俺だ。一体何ができる能力なのか。うーむ…
「なんだ、能力授けたというのにその反応は。もうちょっと喜んでもいいんじゃないかな?」
そんなこと言われても喜びようがないもの。よくわからないゲームに実益のない称号を得た時みたいな感覚。俺にはやり込み要素をオールクリアする性癖はない。
「ふふーん、能力がわからないのか。そういやそうだね、はいこれ。」
そう言って神様はメモ用紙のようなものを渡してきた。
【玩具野郎】
玩具等に付与された設定を自分の望む程度に再現できる。リアルブンドド。
「な、なんだって!」
「どうどう?いい能力だった?」
「いいとか悪いとかどころじゃない。最高だ。これ以上のものはない!」
変身ベルトとかロボットとかガチで乗れちゃうわけだろ?最高以外に表せる言葉がない。リアルブンドド、有難うございます!こりゃみなさん神様信仰しますわ。
「そうか、それならよかった。今度は仕事を詳しく説明するよ。と言ってもこう長々話していると高校生が帰る時間としては遅くなっちゃうからね。今度の日曜日に神域で新人研修会があるから。ポケットに詳細書いてある紙があるから準備しておいてね!そこで能力の正式授与もあるから絶対来てね!それじゃ!」
正式授与ってことはまだ能力があるわけじゃないのか。まあ下手に使って暴れられても困るから研修で色々学んでからってことなのかな?
気づいた時には神にボッシュートされた交差点にいた。俺が消えた後、運転手は奇跡的に起きて、立て直し事故が起きなかったという。
日はすでに暮れており、スマホは7時を示していた。部活もやってないのでこんな時間に帰ることはほとんどない。怒られるだろうなと思いながら帰路につく。
「ただいま…」
「おかえり、玩。学校で勉強してきたのかい?今日は随分遅かったね。」
彼は僕の兄、秀だ。頭もよく落ち着いた性格をしている。効率をモットーとし、遊ぶということはほぼしていない。勉強ばかりしている。彼が辞書とか図鑑をプレゼントされて喜んだから俺にも贈られた。幼少期におもちゃを買ってもらえなかった元凶でもある。
「まあ、そんなとこ。夕飯食べる。」
「冷蔵庫の三段目に皿があるからそれをレンジで温めて食べてって母さんが言ってたよ。」
「わかった。」
夕飯を食べている間、さっき起きたことを考えていた。あれはただの幻だったのかとか夢も希望のないことじゃない、【玩具野郎】の有効活用法だ。変身バックルやプラモを実現化して変身や操縦するのは決まってる。ミニチュアとかを実現化して家具にするのもいいな。美少女フィギュア、これを機に手を出してもいいかもしれない。
夕食を食べ終え自室に戻り、勉強机の前に腰をかけてポケットに入っていた『神兵新人研修会のお知らせ』って書かれたダイレクトメールを開ける。
〜神兵新人研修会のお知らせ〜
この度、神域にて神兵の新人研修会を開催する次第をお伝えします。
日時:
日本時間にて4月30日(日曜日)午前9:30〜
場所:
神域大神殿18号館308会議室
持ち物:
動きやすい服装
履きなれた靴
本書状
筆記用具
300円以内のおやつ(バナナは不可)
能力を発動するための依り代(能力による)
その他必要なものがあればお持ちください。生活上で必要なものはこちらで準備させていただきます。
神域への移動については、こちら下部のチケットをもいでいただければ大神殿前に到着します。(ミシン目ですのでハサミを使わず簡単にもぐことができます。取り扱いにご注意ください。)
「なんだこれ。遠足の時に母親に渡した手紙そっくりだぞ。」
つい声が出てしまった。あまり周りに気取られたくないな。図書館で勉強してくるとでも言っておけばいいか。まあ兵になるわけだから戦闘訓練あるだろうし、動きやすい格好ってのはわかりやすいな。筆記用具も神兵としての常識とか世界情勢とか業務連絡方法などなどを教えられるんだろう。
それはいいとして問題は幾つかある。
まず考えなきゃいけないのは300円以内のおやつだろう。これ完全に遠足だもの。うーん、ポテチとチョコでいいかな。あ、向こうって暑いのかな?チョコだと溶けちゃうよね。って思考までが遠足のそれになって来ている。だめだ、次。
能力発動のために必要な依り代か。持ってるおもちゃは《轟旋アタック!タップジン》というおもちゃのコマか、親戚のおじちゃんがくれたミニカーぐらいしかない。タップジンの方は能力を使ってもコマをアニメみたいにアグレッシブに動かせたりするぐらいで戦闘できる気がしない。ミニカーだったら車で轢くぐらいしか攻撃手段がない。どうしたものか……
いつもの習慣で捨てる前にダイレクトメールの封筒の中にまだ何か入っているかを確認すると、支度金と書かれた小さな封筒が入っていた。
少々興奮気味に封筒を開ける。もちろん中のものを切らないように光で透かしながらだ。中には諭吉さまがお一人いらっしゃった。神様、ありがたや。
僕がおもちゃをろくに買えない環境をご存知だったのだろうか。少しでも脅そうとしてごめんなさい。
落ち着いていない今、今後のことを無理やり考えることは悪手だと判断し、風呂に入って床に入った。
土曜日、自分の通っている学校には土曜日も4時間目までではあるが授業がある。もちろんいつも通り誰とも会話せず席に座る。誰もが自分をいないものとして会話しているが全く気にならない。だって僕には諭吉さまがいらっしゃるから!
授業でゴールデンウィーク課題が出されたのは言うまでもない。
放課後、明日の研修会に必要なおもちゃを買いにひらのまで来た。
「店長、こんちわー」
「おお、玩。朝ぶりだな。挑戦か?」
「いや、おもちゃを買いに来たんだ。」
「タップジンか?新商品は来月だぞ。」
店長は俺がタップジンしかかってないからおもちゃ買うって言ったらタップジンしか思い浮かばないのか。
「いや、タップジンじゃないんだ。ちょっと悩んでいてね。」
「あんだけウィンドウショッピングしておいていざ買うってなると悩むって………そりゃ悩むか。で、どういうの買おうっていうのは決まっているのか?」
「そうだね、強そうな奴って感じかな。変身バックルとか」
「変身バックルか、それは自分で悩むしかないな。自分の好きなデザイン、音声、発光具合のを選ぶしかないんだからな。現行ファイターの変身バックルはなかなか人気だぞ。始まったばかりなのに元モデルの役者がすぐ演技上手くなっちまうしアクションまでこなし始めたからな。しかも何より魂に響くようなカッコいいデザインだな。早くフィギュア化しねえかなぁ。」
店長曰く、現在放送中のブラッドファイターグレンの変身バックルがオススメらしい。最近始まって僕自身もかなり評価している。赤黒は男のロマンだものしょうがない。
変身バックルを手に取ると眼前にパソコンのウィンドウのようなものが出てきた。
【このおもちゃは現実化できます。購入し、商品名を大声で叫び承認してください。】
なるほど、再現できるものと出来ないものがあるのか。強化フォームに必要なものを見てみると現在は再現できませんと出た。これについては研修会で説明があるだろう。
結局、おもちゃ屋では
【ブラッドファイターグレン 変身バックル 血華変圧ドライバー】と【ブラッドファイターグレン 斬首滅殺 首斬椿】
のセットを購入した。セットで税込9800円だ。200円しか余らないとは…でもセットだとフォームチェンジに必要な血小板が手に入るからしょうがない。フォームチェンジに必要な血小板ってなんだ、とツッコミたくなる気持ちは抑えて店を出る。
そして当日の日曜日。準備は万全、大量の荷物が詰め込まれてパンパンになっているリュックを今の入り口に立てかける。
「今日は図書館で勉強してきます。」
「そう、頑張ってね。」
「……」
我が家のヒエラルキーでは父、兄、母で最下位に僕がいる。兄が生茂家を継ぐことは既に決まっており、医者の仕事も継ぐと決定している。高校三年生まで塾にも通っていないにも関わらず、テストで満点以外をとったことがないという化け物だ。なんとなく受験したいからと推薦を蹴って受験しようとしている。
次男坊の僕は特に期待されるわけでもなく。でも恥をかかないようにと勉強詰めにされた次第だ。
それはともかく、早く神域に行かなければ。そう思って周りの人に見られていないことを確認して、ミシン目を丁寧に切り取る。
発光することもなくいつの間にか転移し、気づけば大きな門の前にいた。門は東大寺を彷彿させるほどの大きさ。朱色を基調としたもので絢爛豪華を体現した、迫力のあるものだった。神という絶対上位の存在からの威圧のようなものを受け、足は軽く震え、口の中はカラカラになっていた。
「ようこそ、大神殿へ。なにようですかな?」
門番らしき羽衣を身につけた半裸の厳つい男がこちらへ向かってくる。足の震えは依然として止まらない。
「見ない顔だな。どうした、怯えちまっているのかい?別に君をとって食おうってワケじゃないんだ。ただの人間の君がここにいるのが不思議でね。」
「あああ、あの、け、けんしゅうかいにですね、参加してくださいということで呼ばれたのです。」
「今日のスケジュールだと……新人尖兵研修会だね。18号館はこの大通りを道なりにまっすぐ行って3個目の信号を左折、そのあとしばらくまっすぐ行って左手にあるよ。そこの三階にあるから。」
「あ、ありがとうございます。」
「あと、これ仮の入殿証渡しとくね。その案内状でも大丈夫だと思うけど一応ね。気をつけて!」
かの門番は厳ついなんて思ってしまって申し訳ないと思うほどに施しを与えてくれた。あの人、人?めっちゃいい人じゃないか…
門が唐風だったので、東洋風の建築なのかと思ったら日本の城や中国の城、西洋の城のようなものに、パルテノン神殿もどき、さらにはエンパイアステートビルもどきまであるから驚きだ。
会場の18号館はというと逆四角錐が並んだ形の建造物、そうまさに国際展示場のような建物だった。
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