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今話から蒼一郎視点です。

 着替えて転移したのは17時1分。遅刻である。

「ごめんなさい!遅れましたぁ!」

「あ、玩くん。珍しいね。どうしたの今日。」

「あ、いやー…。G石板の機能を昨夜確認してたんですけど、GPの数字ががそのまま金額に変換されるなーって気がついて、ドルに変換したところそのままできたから両替してみたくて放課後行こうとしたら友人に捕まっておもちゃ屋に行くことになって遅くなりました!」

「両替、できたのかい?」

「はい、バッチリ!」

「じゃあ何かおもちゃも…。」

「買ってきてます!使えるやつです!」


【ホビシャ 四輪バギーは現実化できます。使用神力300】


 二台分現実化した。これでもワンボックスカーよりも使用神力は抑えられる。


「なるほどね、これなら森でも楽に移動できるね。」

「あ、ええ。」


 許してもらえたようだ。よかった。しばらく森の中を移動する。超えられなさそうなところは玩具にすると危険回避に神力を使えなくなるという理由で迂回。それでも歩くよりは早かった。何度かゴブリンが現れるも蒼一郎さんがバギーに乗りながら一掃。おかげで遅く出発したというのに2日分の道のりを越えてしまった。


「この調子だと明日には着きそうだね。」

「そうですね、明日の3分の2はバギーで、残りは歩きでって感じですかね。んで夜に王都到着で。」

「明日一晩王都に宿とって…と思ったけど僕もお金増やしたいから戻ろうかな。少し懐心許ないし。」


 前の仕事をクビになってから貯蓄で回していた彼は今日々ピンチに近づいているのだ。

 こちらでの調査に私費を散財してしまっているので経費で落ちたりしないのかなとも思っている。なので玩が両替テクを言った時にはもっと早く教えて欲しかったと思ったが、G石板をしっかり調査していない自分自身の怠慢であるので声にも表情にも出さなかった。


「明日は王都到着、裏路地での転移を目標としましょう。今日はここで。」

「そうだね、じゃ、また明日。」

「お疲れ様でした。」


 玩くんと別れ、地球の自室に戻った。広い部屋だが、今の自分にこんなに広い部屋はいらない6畳一間のキッチントイレお風呂つきでいいのだ。彼女と同棲するために借りたのだから。僕は布団に倒れこんだ。


 あー吹っ切れてないんだな。こないだ異世界で飲み明かした時に全て踏ん切りつけられたと思ったんだけどな。

 ちゃんと朝起きられたので散歩したいが、玄関を出る気が起きない。神界に行くか。


「あ、おはようございます。」

「うん、おはよう玩くん。」

「なんか顔色悪いですよ?大丈夫ですか?」


 年下の彼に心配されてしまった。大人失格かもな。俺ってこんなにメンタル弱かったっけ?


「そんなことないよ。」

「いや、体調悪いひとほどそういうんですよ。酔っ払っているひとは自分のことかを酔っていると思っていないのと同じです。」

「あー、わかる?」


 朝の体操を終えるとカフェに入った。玩くんは制服で荷物も持ってきているので、最悪は学校のトイレに掃除用具入れに転移するから大丈夫だと歯を見せて笑いながら言ってくれた。そして、コーヒーを一口飲んだのを皮切りに話し始めた。前勤めていた会社がテロのせいで僕のミスではないのにクビになってしまったこと、会社を辞めることになったら彼女が別れ話を持ち出して出て行ってしまったこと。全部、感情を込めて主観だけで話をした。この話を客観視点からするほど自分は余裕がない。話し終えると、玩くんが口を開いた。


「あの、多分彼女さんが恋しいんですよね?連絡してみたらいいんじゃないですか?多分友人さんたちには『経歴と金しか見えないクソ女』とか言われたんじゃないですか?でも蒼一郎さんは愛していたんですよね?僕は若造なんでわからんのですが、とりあえず先に愛していた彼女に話しに行くべきだと思うんですよね。新しい仕事に就いたよ!って。別に金が好きな女に貢ぐのも男の自由だと僕は思いますよ。あ、でも、仕事に支障出さないでくださいね?あとつけあがらせるとそういうのって浮気しながらATMさせるんで気をつけてください。たまには強引にいったほうがいいですよ。ギャップ萌えってヤツです。」


 なんだこの達観した高1は。不気味なほどにしっかりしている。彼女に話すべき、か。その通りなんだよな。玩くんに感謝を告げて僕はコーヒーを啜る。口に広がった苦味が背中を押してくれる感じがした。


 彼女のケータイに連絡を入れた。昼、会えないかと。駅前で待つ。スマホをいじりながら待った。


「お待たせ。話って何?仕事あるから昼休みの間だけね。」


 彼女は来てくれた。彼女はスーツ姿だった。


「ああ、なんで出て行ったのか、ちゃんと話して欲しくてな。」

「確かに。ヒステリー起こしてたね私。付き合い長くて私も30近づいていたからさ、焦ってたんだと思うよ。で、そこであんたの退職。私の心も限界だったのかも。うちさ、あんまりあんたに負担かけたくなくて面倒な女だと思われたくなくて話してなかったけど、パパが早く死んでさ、ママが要介護の病気なの。姉さんがママの介護してくれているけどお金足りなくてさ。お金が欲しいっていうのは本心。だからあんたに近づいていたのも間違ってはない。自分でも最低だと思うよ。最初は普通に仕事できるし頭いいしかっこいいし、たまに抜けているところがあって可愛いなって思ったり、しっかり好きだったよ。でも私がお金が必要、欲しいっていうたびにくれたじゃない。都合のいい存在に思い始めていたのかも。本当にごめんね。」


 僕は全く彼女のことを聞いてこなかったのか。彼女が隠したい、何か事情があるから触れないであげようと彼女を思って聞かなかった。だけど僕は彼女が隠していることに踏み込む勇気、彼女に近づく勇気がなかったかもしれない。

 学生時代は一人称は俺だった。社会人になって、仕事で「私」を使い始めてプライベートまで「私」になってしまった。他人との距離を今まで以上においてしまったのかもしれない。コーヒーを一口飲む。苦い。


「あのさ、俺、新しい仕事に就いたんだ。ジーニアス社ってとこ。」


 彼女はうつむいていた顔を上げた。目は赤く腫れ、マスカラに滲んだ涙が頬骨のあたりに溜まっている。


「俺、月手取り100万あるところで昇給、ボーナスあるところなんだ。」


 彼女は震えている。お金で釣ろうとしている俺に怒っているのだろうか。


「君が本当は優しくて、頑張り屋で、気張りすぎちゃってやりすぎちゃって失敗したり、調子に乗りやすいところも知っている。金はある。俺ともう一度付き合ってくれませんか?」


 俺の声は震えていた。断られたらどうしよう。昔みたいな軽い付き合いじゃダメなんだ一生、いや神になったんだから永久にも近い時間を過ごす相手だ。もっと踏み込まないといずれ崩壊するんだ。背中を押されている今、ガツガツ近づいていくべきだ。彼女はワナワナ震えている。また俯いてしまった。ダメなのだろうか。もしかしてすでに男を作っているのだろうか。


「お金で釣るなんてひどい男だよね。全く。調子に乗りやすくて、バカで要領の悪い私だけど、結婚を前提にお付き合いしましょう。宜しくお願いします。」


 彼女は席を立って答えてくれた。急に立ち上がったものだから断られると思った。受けてくれたんだよな、しかも結婚を前提に?


「結婚を前提に?いいのかい?」

「ここまでしといて結婚しないでフルつもりなの?」

「い、いや、そんなことしないけど。」

「ならいいじゃない。そうくんのとこの親御さんにご挨拶行こう。というかもう婚姻届持ってこよう?」

「な、なんかグイグイくるね。」

「ええ、あなたもグイグイ来てくれるんでしょう?そんな顔してたわよ。今はまた一歩引いちゃったみたいだけど。俺って言ってるときのほうがかっこいいからこれから一人称は『俺』ね。」


 そうか、彼女は気づいていたのか。怖気付く僕に。ああ、女の勘ってやつは怖いな。気をつけなきゃな。仕事の話もおいおいしなきゃな。怪しまれるだろうし。


「ああ、まあうん。いいよ。というかこれからどうする?働く?うち結構金はあるから働かなくてもいいんだけど。すぐ来る?」

「そうしたいところだけど先方に迷惑かけるからね。それとこれとは違うじゃない。ま、今夜家行くよ。」

「あーよる仕事だから0時に来てくれ。その時ここじゃ話せないこともいろいろ説明したいし。」

「ん?わかった。じゃ、家引き払ってくるね。しばらく今の会社行かなきゃならないだろうけどそうくんの家の方が近いからね。あ、昼休み終わっちゃう戻らないと!じゃ、また今夜!」

「ああ、じゃあな雪菜。」


 愛していた元カノ、白永雪菜は彼女になった。すぐ嫁になるかもしれないが。というかすぐする。死亡フラグになりかねないからな。

 コーヒーを一口飲む。今度は香ばしい香りがしっかり鼻の中に入ってきた。



読んでいただきありがとうございます。ブックマーク、評価を何卒お願いします。

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@kutimata


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