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「じゃあ出発しようか。」
後から来た蒼一郎さんも街を出る手続きを終わらせて二人で門の外に出た。
「王都ですけど、まあ街道沿いに歩いていくしかないんですよね。」
神力も回復しているのでワンボックスカーに乗って行くこともできる。ちなみに今日の朝も神界のセントラルパークで体操したので神力の上限値が上がっている。蒼一郎さんは二日酔いで休んでいたので差はまた広がってしまった。
「ワンボックスカー乗りたいところだけど、馬車とすれ違うと面倒だもんね、どっか草原に出るって方法は使えないの?」
「街道沿いに1日歩いてから東に1日歩いたところに草原がありますね。その草原は王都と繋がってるんでいけますけど…。」
「ん?どうかしたかい?」
「いや、王都の隣の草原って大体軍の演習場じゃないですか、だから下手したらバレるんじゃないかと。魔物が集ってるって情報を国が察知していないわけないと思いますし、そのために戦う訓練として今丁度演習してそうじゃないですか?」
「正論だね。」
「あまり派手に動きすぎてもよくないと思うんです。共同馬車乗ろうかとも考えたんですが、戦闘になった場合、蒼一郎さんはいいですが、僕の能力なんて知らない人が見たら魔物と勘違いしそうじゃないですか。訪れたことある場所はピンが打てるようになるんで、夜のたびに隠れた場所にピンを打って地球の家で休む、これがいいと思います。だから蒼一郎さんも王都までの道は午後出勤ですね。」
「完璧だね。年上って立場がなくなっちゃうよ。」
いや、蒼一郎さんも同じことを考えていたに違いない。食料を買い込んでも、馬車を連れてきたりもしていない。僕は今この場でG石板を見ながら考えたが、蒼一郎さんはすでにここから王都までの道のりをどうするか考えていたのかもしれない。
「じゃ、サンドウィッチ食べながらゆっくり歩こうか。」
「あ、宿屋のサンドウィッチ!流石です蒼一郎さん!じゃあ僕はこの鳥串を。」
「これは奥さんが優しくなった鳥串屋さんの鳥串かい?」
「え、なんで知ってるんですか?」
「ちゃんと調査してたってことだよ。」
ただ二日酔いになっただけじゃないのか。顔も調子は悪そうだが、気分的にはすっきりしていそうだ。昨日酒場で何かあったのだろうか。バディだから相談してくださいって言えるような人生を経験していないし、無責任なことは言えない。蒼一郎さんに悩みは解決してもらっているが、蒼一郎さんの悩みは僕は解決できない。少しもどかしいというか、悔しく思いながら鳥串をかじった。レモンの風味が頬をキュッと締め付けた。
「うん、今日はここまでだね。ちょっと森に入って転移しよう。」
そう言ってピンを打った後、それぞれの家に帰宅した。
眠れないのでG石板をいじることにした。
ウォレット機能をちょいちょい使っているが、詳しく知らない。GPというのを現金に変えられるようだ。1GP=1円=1ソルトまでは試した。当たり前のように使っていたが、今考えると日本とファンタズムでは明らかに貨幣価値が違うだろう。他のお金にも変えられるのだろうか。ドルと打ち込むと可能だった。そこで驚くことが起きた。1GP=1ドルなのだ。神様流石に手を抜きすぎなのではと思いつつ全て持っている全てのGPをドルに替えた。明日、ちょっと遅くなることを蒼一郎さんに連絡して銀行で円に交換してもらおう。たとえいくら円高でも利益は出る。だって一円だ110円だ。万歳三唱が出る。今持っているGPは2000。で、今2000ドル手に持っている。これを替えると220000円だ。大金持ちである。で、220000をGPに替え、ドルに戻し、また円に戻すと2420万になる。もう一回それをやると26億になり、もう一度やるとJR東日本の買収が見えてくる。開国初期の対日本の銀と金の貿易のようにボロ儲けできる。だが、やりすぎると円高になるので気をつけなきゃいけないというところだろうか。経済を大きく変動させたら流石に機能停止されそうだものな。可愛らしい22万の時点で止めておこう。
とてつもないことが分かったのでドルをまたGPに戻して風呂に入り、眠りについた。
次の日の朝、蒼一郎さんから「5時に転移ね」ときていたので承知メールを送っておいた。学校なんてどうでもいい、早く両替しに行きたいなぁと思いながら登校していた。上の空である。いつも通りの学校だ。赤羽くんは女の子に囲まれており、僕がロッカーからものをとると他クラスの人がざわつき、高橋さんと立川さんをニヤニヤ見つめ、たまに会話する。弟と妹にたまには平野に顔を出して欲しいと言われ、両替ついでにホビシャをバギーサイズのを二つ買おうかなと考える。名案だ、よし計画は決まった。これで移動が早くなるぞ!
学校を恙無く終え、帰ろうとする。今日はトイレに駆け込まなくてもいいのだ。
「生茂、一緒に帰らない?弟と妹は今日もいるだろうから。迎えに行ってって朝言われたんだわ。」
「ああ、今日は大丈夫。しばらくいけなかったからね。でも今日タップジン持ってきてないんだよなぁ。」
「それでもいいと思うよ。陽太たくさん持ってるし。」
立川さんと帰ることになった。立川さん赤羽くんのこと好きなのにいいのかな。他の男と歩いていると減点評価ついちゃうよ!
「桂花も一緒に帰ろ。」
「うーん、赤羽くんを思いつつも体は生茂くんを欲しているビッチな乙女を私は応援しているよ!デート頑張れ!」
まずい、これはまずいぞ。高橋さんの弄り対象になってしまう!
「違う違う、陽太と優奈を迎えに行くだけだから。」
「流石にJKの冷え冷えトーンで言われると傷つくなぁ。」
「会長、僕を登場人物にしないでいただきたい。会長は応援するのではなかったので?」
「生茂会員、たまには違う視点からものを捉えないと思想が凝り固まってしまうぞ。もっと柔軟な考え方をだな。」
「はぁ、で、一緒に帰るの?帰らないの?」
「帰りますとも!で、どこ行くの?」
「「おもちゃ屋」」
三人で駅の方に向かった。女子二人は中学からの友人らしい。家は近いが、学区が違ったのであまり仲良くなれなかったとのこと。「うーん、そういう友達がいるといいよね。」と言うと、「「あんたも同じ中学だからね。」」と二人から返される始末。昔の俺はどんだけ人に興味なかったんだ。
楽しく会話していたせいで両替のことを忘れていた。銀行の前でようやく思い出す。
「ごめん、ちょっと寄らせて!」
「うん、別にいいよ。」
「高校生が寄らせてって銀行ってバイトじゃ…」
「ないよ。ただの両替だよ。二人は銀行前で待ってて。」
そう言い残して銀行へ入っていった。
「生茂くんってさ、中学の頃から行動が奇妙だよね。」
「うん、推薦取るために勉強してるのかと思ったら推薦枠じゃなくて受験で受かるし、ずっと勉強してたと思ったらおもちゃ屋行ってるし、ゴーデンウィーク後には身長伸びてムキムキになってるし、いつの間にか中学同じだったうちより弟と妹のほうと先に友達になってるし、噂ではサッカーゴールを片手で投げ飛ばしたって聞くよ。」
「全てまとめると奇妙すぎますな、今日はそのための追跡です!昨日はなぜか夜まで校門から出てこなかったのに次の日のケロッと校門通って通学しているし。しかもお金をおろしにじゃなくて両替しに銀行くるって。わけわかめ。」
「悪い人じゃないみたいだけどね。」
「そうなんだよねぇ〜」
「女子トークは終わりましたかお嬢様方。」
「「うわっ!生茂くん!いつの間に!」」
「ごめん待った?今来たところ。」
「恋人の待ち合わせ定型文なのに一人で完結している上使用上間違いがないのが悔しい!」
「で、済んだの?」
「うん、これで安心して平野へゴーだよ。」
二人は一体何を話していたのだろうか。気になるが、それはやはり乙女の秘密なのだろう。22万はすでにGPにかえている。買うときはカバンからお金を取るふりをして換金すればいいだろう。
二人はなぜかこちらを睨んでいるが私用で待たせてしまった身、何も言えない。平野まで無言が保たれるのであった。
「あ、兄ちゃん久しぶり!」
「ひさしぶりー!」
「玩ちゃん、夕方くるのはひさしぶりか。子供たちがお前こなくなって死んだんじゃないかって言ってたぞ。」
店長は笑いながら肩を叩き、ちびっこたちは足元に集まってくる。
「しかも美人二人連れてやることやってんな、高校生!」
「確かに美人さん二人連れてるけどやることやってないですよ。いっつも言ってるじゃないですか、プライベートは6歳児って。」
「そうだったな。お前にできるわけないもんな!ちびっこたちがちょうどいいぐらいだ!」
そう言われるとそれはそれでムッとしてしまう。僕も一応年頃の男の子の矜持ってのがあるのだろう。
「兄ちゃん!この前家でやってくれたスカイフライスラッシュもう一回見せて!練習してもできないんだ。」
「え、あれマジでやったの?」
「マイスターでも無理でしょさすがに。」
「いや、マイスターなら…!」
子供達が各々がやがやわいわい言っている。あんま見せたくないがタップジンぐらいなら訓練の枠に収められるからいいか。龍出したりするのはさすがに部をわきまえている。
「いいよ、でも今タップジン持ってないから誰か貸してくれるかな?」
「僕のいいよ!」
陽太くんが貸してくれることになった。ま、気張らなくても思いっきりシュートした後に現実化すれば行けるから落ち着いていこう。
「対戦相手は俺がやるよ。」
「店長いいんですか?仕事しなくて。」
「万引きするようなやついないからいいよ。買う奴もいないがな。ま、お前が満足に戦える相手は俺しかいないからな。」
「もう店長なんて余裕ですよ、赤子をひねるかのように倒してみせます。」
「言ったな?準備はいいか?レディーゴー!」
思いっきりシュートする。成功だ。水平シュートからじゃないといかに現実化を使おうとこの技は成功しない。
【デザートイーグルは現実化します。使用神力15】
「いけ!スカイフライスラッシュ!」
デザートイーグルはスタジアムの縁を蹴り飛び上がる。回転しながらも垂直状態になって店長のタップに直撃、店長のタップはスタジアムアウトする。
皆、無言である。さっきまでうるさかったちびっこたちも、店長も、立川さんと高橋さんも。皆無言である。
「よし、俺の勝ちだね。」
「「「いやいやいや」」」
店長と女子高生二人は首を思いっきり横に振っている。髪型乱れちゃうのに。
「すっげー!さすがマイスターだ!」
「キングもできるの?」
店長は子供たちの期待の込められた輝く目に慄いている。
「あれはマイスターだけだ。今現在できるのは。」
「すっげー!マイスターはキングよりも強いのか!」
「どうやんのどうやんの!」
またちびっこたちが足元にわらわらと押し寄せてくる。立川さんと高橋さんに助けを求める視線を送っても反応がない。
「あれはシュート力と途中で手首をぶるっと震わせるんだ。でもしっかり制御しなきゃああいうことはできないぞ。頑張って訓練するんだな!」
「なるほど〜!」
どうだ、適当理論を喰らえ!ちびっこたちは納得しているようでスタジアムの方に戻って行った。
「陽太くん、タップジン貸してくれてありがとうね!」
「また見れてよかった!」
陽太くんもスタジアムの方に去っていった。ふう、ちびっこたちを捌き終えたぜと一息ついたら今度は女子高生二人が近寄ってきた。
「なによあれ!あんなのおかしいじゃない!」
「いやいや、あれは僕のタップへの愛が成した技だよ。もし撮ってても投稿しちゃダメだからね。さすがに許可取らずに投稿したりしないよね?」
「う、わ、分かった。」
立川さんは恋する乙女だから精神論で、高橋さんはスマホで撮っているのが見えたから脅しで説得。完璧。さすが俺、さす俺!
店長は落ち込んでしまったのかレジに戻っていた。店内を一回りして、バギーのホビシャを発見。二台をレジに持っていく。
「お、今日はホビシャ買うのか。」
「これ、なめてたけど作りが細いし、車体がダイキャストじゃん。めっちゃいいおもちゃだなと思ってさ。二台なのは棚に飾るのにバギーが一台じゃなんかサマにならないと思ってさ、ほら、キャンプ場の宣伝とかだと絶対2台以上写ってるでしょう?」
「確かに。二台買うのははバギーならではだな。480円が二つで960円」
「ほい、マイスターカード」
「くっ、10パーセント引きで864円だ。これ出されるたびに屈辱なんだよな…。」
G石板から引き出してちょうど払う。
「はいレシート。ありがとさん。」
「今のマイスターカードってなに?子供達にもマイスターって呼ばれていたけど。」
「ああ、この店だと店長におもちゃで勝負を挑めるんだ。5回勝てばキング。だから店長はキング。んで僕は3回勝ったからマイスター。10パーセント引きになるカードがもらえるんだ。」
「なにそれ、すごいの?」
「キングはだいたいのおもちゃの大会で優勝してるよ。あのカードの世界大会とか。ほら、あそこにトロフィー。」
「うわ、まじじゃん、トロフィーだらけ。生茂くんも趣味は6歳児だけどすごいんだねぇ。」
ふと、時間が気になり店内にある時計を見る。4時53分だ。
「あ、まずい。時間だから僕帰るね!じゃ!」
裏路地まで全力で走って家に転移する。そしてすぐ着替えて荷物も持って森に転移した。
その頃、平野では。
「あ、生茂くん追跡しようとしたら帰っちゃった!しかもめっちゃ足速い!短距離走誰よりも速いのでは?!」
「ほ、ほんとだ。」
「今日わかったのは生茂くんは奇妙で不思議ですごいってことぐらい。あとおもちゃが大好きってことぐらい?」
「それ、なにもわかってないってことだよね。」
彼女らの生茂玩に対する謎は深まるばかりだ。
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