14
時はすでに夕暮れ、帰ってきた冒険者たちでごった返していた。
「これは来るタイミング間違えたかな?」
「でも、早く冒険者になりたいですし。」
「まあ、列に並んで待とうか。」
「列に並んでいる間に誰かが俺たちの前に横入りしてきてテンプレになるんじゃないですか?」
「あ、それありそう。」
全くそんなことなく、順番が来る。彼らは気がついていないが彼らの体格は闘神ハイスクールで強者のものになっているのだ。たとえテンプレを起こしそうな雑魚冒険者だとしても声はかけたくないほど強そうに見える。それほど闘神の特訓はすごいものだったのだ。
「お次の方どうぞ!」
「あの、私たち新規登録をしたいんですけど。」
「はい、ではこちらに名前と年齢、得意武器と魔法の有無を書いてください。」
すらすらっと二人とも書き終えると受付嬢が重なっていた紙を剥がし、保存用と、カードに分けた。カードには書いた文字が写っている。トレーシングペーパーだろうか。ここにも中世にしてはオーバーテクノロジーだ。
「ではこちらのカードに血を垂らしてもらえますか?」
アルコール消毒済みと書かれた針で指を軽く刺して血を流す。カードにふにゃふにゃと顔が浮かび上がる。免許証みたいだ。
「オッケーです!ではこれからあなた方が倒されたモンスターはカードの裏面に表記されていきます。依頼の遂行の可不可についても同じく表記されていきます。このカードはあなた方の経験と結びつく魔道具らしいです。依頼の達成と討伐によってランクが上がっていきます。今はEランクですね。Sランク目指して頑張ってください!」
「ここでモンスターの遺体は売れるんですか?はい、あちらの買取カウンターにて査定いたします。まずは番号札を取得されてからお待ちください。」
「依頼はどこで確認するの?」
「二階にある掲示板に貼ってあります。依頼委託カウンターに行けば冒険者に依頼を頼めますよ。まあ冒険者が冒険者に依頼を出すほどの恥はないってことわざがありますけどね。別にそういうのはどうでもいいと思うんですよ。できることだけやればいいんです。話が逸れましたね。掲示板に貼られている依頼の紙をこちらの総合カウンターに持ってきていただければ受けられます。」
「いろいろありがとうございます。では頑張ってみますね。」
結構おしゃべりだった受付嬢のお姉さんは次の冒険者の対応を始めた。
「受付嬢が美人ってテンプレはしっかり踏むんですね。」
「誰も突っかかってこなかったのにね。」
「ここを出たら突っかかってくるかもしれませんよ?」
「フラグ立てたね。」
華麗にフラグを折る蒼一郎さんを尊敬の目で見る。
木でできた大きな階段を上って二階に上がる。夕暮れなので人の少ない掲示板の前で依頼を眺めてみる。
「うーん、特に変な依頼はないね。」
「ゴブリンの討伐に薬草の収集。Eランクだとそんなもんですね。」
「高ランクの方に邪神関係があるかなって思ったんだけどあまりなさそうだ。」
「しばらくランク上げして情報が集まる王都に移動って感じですかね?」
「僕らの行動の指針はそれでいいとと思うよ。門も閉まっているみたいだし、今日は酒場で情報収集しようと思うんだけど、玩くんは未成年だしな。帰るかい?」
「僕は街をぶらぶらしながら店とか屋台とかで情報集めてみますよ。」
「じゃ、別行動で。」
「また。」
街の西の方にある噴水広場まで来て、屋台で買った鳥串とサンドウィッチを頬張りながらG石板をいじる。サポートにメールでもするか。
『邪神対策特殊兵の玩です。なんで異世界で言葉が通じるのでしょうか?』
するとすぐに返信が来た。
『サポート神直属の天使です。神性を持つとすべての言語を理解できるようになります。聞こえる、または記されている言語から発せられる意味を理解できるというところでしょう。また、あなたから発せられる言語、文字は日本語のつもりでも相手が理解可能なものに変わります。これは神力を使わず、神性がなす技なので心配は無用だと思われます。』
とても丁寧な回答である。とにかく大丈夫だってことだな。これで英語のテストは神性のおかげで満点である。
今度はマップアプリをみる。お、アップデートしているな。
アップデート内容!
・ピンを追加しました!拠点以外でもマップピンを設置したところに転移をすることができます。(ピンは2個が限界でした。すみません>_<)
・消費神力をゼロにしました。(神力の悩みは固有能力だけにしてあげたいと強請られました。)
・世界を追加しました。(容量が大きいので仕事のたびに必要な際のみ追加します。)
あ、これ、時空神様にめちゃくちゃ迷惑かけてるから何かお礼をしなくちゃ。うーん、美食神様と作った料理をご馳走しようかな。この仕事終わったら誘ってみるか。
いっそつ早く終わらせなければと思った。
「鳥串のおっちゃん、うまかったよ。ごちそうさん。」
「おう、それは良かった。今後とも贔屓にしてくれよ!」
「この街にいる間はくるよ。聞きたいことがあるんだけどさ。」
「ん?なんだ?タレのレシピだけは絶対に教えねえぞ。」
「いや、ここ最近なんか変わったことない?」
「うーん、冒険者はちょっと魔物が減ったとか言ってたな。ゴブリンなんか人見かけたら襲ってきたのに警戒する奴が出てきたとか集団で人のいない方向に走って行ったとか。そんなもんかな。あとはうちのかみさんが最近優しくなったぐらいかな!」
「それは良かったじゃないか。夜のためにも元気残しておかなきゃな。」
「おう!可愛い嫁のためにももっと働くぜ!」
「んじゃ景気良く3本追加な。」
「毎度!」
今日は夕飯なしだったはずなのでここで食べてしまおうという計画だ。屋台の飯は高級料理店にはない味わいがある。おっちゃんの鳥串うまいな、また食おう。
おっちゃんの嫁のこと以外を蒼一郎さんにG石板で送っておく。きっと彼は酔っ払ってどうにもならないだろう。人の通りがなさそうな裏路地を探し、ピンを設置して家に帰る。
部屋着に着替えてベットに寝転ぶ。
「うーん、魔物が減ったか。人が快楽的に魔物を殺している?いや、それじゃあ邪とは言えないよな…
臆病になったゴブリンってのも気になる。もうちょっと情報集めないとな。」
さっきまで履いていたGパンとシャツをみる。これ、家で洗濯できないな…クリーニング出すのもな…
これも課題の一つである。
玩が洗濯物で悩んでいる頃、蒼一郎は酒場にいた。
「ういー呑んでるか!」
「おう、飲んでるよ。」
「なんだよ、辛気臭い顔して。恋人に振られたか?」
「なんでわかった?」
「顔に書いてあるよ。『ぼくちんは大好きだった女の子に裏切られちゃいまちたー』ってな。」
「そうか…。」
情報を仕入れるために入った異世界の酒場でまさか恋愛相談になるとは思ってもいなかった蒼一郎。これはこの男に話してみるのもいいかなと思い話し始める。この時、今日はとことん飲むと決め、小声で盗まれずの魔法を自分にかけた。
「話してみな、楽になるさ!俺だって何度女に逃げられたことか。その分新しい女の子に出会ってるんだけどな!」
「そいつはいいや。はぁー。おれ、この前まで結構収入のいい、社会的地位も高い仕事やってたんだけどな、一つ仕事が暴動に巻き込まれただけで責任取らされてやめさせられたんだよ。俺、暴動と関係ないのに。それで彼女は定職についてない男についていく気はないってさ。彼女が別れ話出す時にはすでに仕事、まあ冒険者みたいな傭兵みたいな仕事についてて前の仕事より給料も良かったんだ。でも会社の名前が知られてないってだけで何も聞いてくれなくてさ。結局俺のステータスだけを見てたんだよ。その偉い仕事についている人間をさ。」
「なんでそんな女気をにする必要があるんだよ。新しい女追えばいいじゃねえか。いくらでもいい女入るぜ!ま、いい女にはすでに男がいるけどな!」
「励ましたいのか落ち込ませたいのかはっきりしてくれよ。」
調子のいいこの男をちょっとうざったく感じてきた。
「ま、すっぱり忘れるなんて無理だろうよ。男と女だからな。それでも昔のひどい女ばかり見ていると目の前のいい女を逃してしまうのさ。女だけじゃねえ、それは何にでも言える。ずっといいこと探していればいいのさ。冒険者ギルドの受付の子とかお喋りだけど人を心配できるいい子だぜ。」
はあ、まあこの男の言っていることもわかる。もうそろそろ踏ん切りをつけるべき点である。今の仕事に集中しよう。
「ありがとな。楽になったわ。」
「へへ、別にいいさ!立ち直った若人に乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」
「俺はギーザだ。冒険者だからまた会うかもな。」
「俺はソウだ。よろしくな。そうだ、なんか最近変わったことないか?」
「うーん、おめえらもなんかないか?」
「なんか最近、森の魔物少なくなってないか?」
「確かに。おかげで稼ぎが減っちまってる。宿代どうすっかな。」
「てめえはギャンブルに使いすぎなんだよ。少しは貯めとけ。俺がスってやるから。」
「あ、そういやゴブリンが逃げ出したな。」
「あいつらバカのくせに逃げること覚えやがった。」
「それ以外には特にないか?」
「うーん、鳥串屋の嫁が優しくなったって言ってたな。」
「そうか、ないのか。ありがとうな。」
ちょっと酔ってしまったが、宿屋を探して今日はこっちで止まるか。
「いらっしゃいませ、お泊まりですか?」
「一泊、シングルで。」
「朝食付きで5000ソルトです。」
持っていた小銭を全部払う。
「お客さん、これじゃ多すぎですよ!」
「いいよいいよ、もらっておいてくれ。今は気分がいいんだ。」
「では301の部屋にどうぞ。」
三階まで登って部屋に入って眠りにつく。
この世界ではお金が銅貨、銀貨、金貨、白金貨と全て硬貨である。彼がG石板で引き出したお金は10万ソルト、酒代、関代などで1万ソルトを使っていた。
彼は自分から9万円分払ってしまったのだ。
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