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ついに!ついにです!
『若狭!若狭ってどこだ!日本海側さ!カニってなんだ!甲殻類の仲間さ!』
「ねえ、玩くん。この曲なんなの?」
「ああ、これ福井のご当地ヒーローの若狭刑事カニバンですよ。知りません?」
「ああ、カニバンか。SNSで見かけたことがある気がするな。」
『かにーみーかにめっしかになべー、カニしゃぶーかにみっそカニ汁ー、若狭けいーいじー、カーニバーン!』
「私、カニ食べたくなったよ。」
「奇遇ですね、僕もです。」
カニバンは越前ガニの販促のためのものでもある。そりゃカニを食べたくなるだろう。
「お、そろそろ村ですね。このペースだと通り過ぎて街の方いけますね。近くまでは草原みたいですし。」
「じゃあちょっと迂回して村を過ぎて街に行こうか。」
「…ねえ、この車、カニバン以外入ってないの?」
「CDで追加すれば行けるみたいですね。でもCDなんて持ってませんよ。」
「カニが食べたくて仕方ないほど精神が侵されているから音楽切らない?」
「うーん、そうですね。運転に支障が出ると困りますもんね。」
「こんなことなら音楽プレイヤー持って来ればよかったな。」
「草原だとモンスターを警戒しなくて済みますもんね。」
「お、草原の終着点みたいだ。ここから森を抜けて街道に出れば街だね。」
「そう見たいですね。ここからはモンスターが出るんで気をつけていきましょう。」
「あ、僕索敵の魔法あるから使うわ。耳塞いでくれているとありがたいけど…」
「今後詠唱でどの魔法を使うのか判断できるように聞いておきますよ。それだけで少し時短になりますし。」
「そうかい…」
「天と地に問おう。そして我が眷属の影に聞こう。我が敵、我の障害となるものを示し伝えろ。シャドウサーチ!」
「なるほど、ゲームで魔法を使うのに精神力が必要っていうのに疑問を持っていたけど身をもって実感したよ。神力の消費とかそういう問題じゃない、心の問題だよ。」
「…御愁傷様です。」
中学生の頃に書いたものを読まなきゃいけない恥ずかしさったらないだろう。ああ、僕はそういうの書いてなくてよかった。ああ、能力が玩具野郎でよかった。
「ねえ、玩くん、他人事にしてない?仲間なんだよ?同じ部署だよ?君も能力使わない限り同じことする人だと思われているからね?」
「ま、巻き添えにしないでくださいよ。あくまで蒼一郎さんの能力なんですから。」
「巻き添えって言ったね?もう後ろから援護しないよ?いいの?それどころかくすぐりと尿意の魔法使ったっていいんだよ?」
「申し訳ありませんでしたァ!」
「くすぐりと尿意の魔法を書いた昔の私、その点だけは褒めてあげよう。」
どうやらノートの余った端っこの方にこの魔法を書いたらしい。厨二の最後の方に『変な魔法で無双するのってかっこよくね?』となったからだと教えてくれた。むしろそういう情報を開示してくれた方が恥ずかしい人って印象が薄れて身近に感じるからいいのに。あんまり教えてくれないんだよなぁ。
「お、100先、ゴブリンが5匹。11時方向から来るよ。」
「すごいですね。やっぱその能力かなり強くないですか?」
「私もそう思うけど精神力がゴリゴリ削られるからね。あんまり使いたくないってのが本音。」
僕は首斬椿を手に取ろうとするが、これを現実化すると抜き身の刀を持ち歩くことになる。それに比べると、紅蓮バックルは変身解除をしてしまえば別におもちゃに戻さなくてもいい。あれ、これもしかしてずっと現実化していればいいのでは?
【ブラッドファイターグレン 変身バックル血華変圧紅蓮ドライバーは現実化できます。使用神力600】
承認して半身をとって構える。念のためポケットから赤注射器を取り出す。
彼らゴブリンはファイターシリーズの特撮の敵役ではないので変身中に待ってくれるわけではない。しかし変身ポーズを適当にしてしまってはモチベーションに関わってくるのでやらなければならない。
右腕を折り曲げて注射器を横を通して耳の近くへ、左の握りこぶしは同じく右肩へ
「血華変圧!」
腕を大きく回して注射器をバックルに刺す。バックルのレバーを押すと身体中の血管がどくどくと脈を強く打つ感覚を覚える。あれ?これ大丈夫か?
作中の初変身ほど苦しんではないが体に影響が出たのでちょっと心配だ。
「おお!本物のグレンだ!カッコいい!」
蒼一郎さんがめちゃくちゃ興奮している。いや、変身して僕も興奮しているけど鏡みないと、ねえ。
「僕右三体やるんで左三体頼んでもいいですか?どれぐらいの力が出るかわからないんで様子見してみます。」
「いいよ。私はささっとやっつけてグレンの戦闘シーンをじっくり見させてもらうよ!」
ゴブリンの一匹はこちらを警戒しているが他の二匹はこっちに突っ込んでくる。棍棒を大きく振りかぶっているので、大きく踏み込んで鳩尾に一発づつ打ち込む。強すぎたのか、体を貫通する。確かにグレンの戦闘シーンはグロが多いが、自分でこれをやるとなるとSAN値が下がるな。
蒼一郎さんもすでに倒したのかゴブリンは既に灰になっている。あの人やっぱり強いな。
残りのゴブリンは臆病なのか逃げ足だ。強く地面を蹴り、一歩でゴブリンの元にたどり着き、頭を蹴り飛ばす。ゴブリンの頭はサッカーボールのように飛んで行って、木を折り倒してしまった。
「いやーグレンだよ、さすがグレンだよ!雑魚をちぎっては投げちぎっては投げのグレンだもの!マジな頭サッカーを観れるとは思わなかったよ!君の能力は最高だな!」
「いや確かにグレンやれて嬉しいんですけど、蒼一郎さんめっちゃつよいいじゃないですか。僕が一発殴る間にゴブリンは既に灰って。」
「ああ、昔の僕はファイアーボールは白い炎が出るって書いていてね。あと詠唱も短かったんだ。これは使えるよ。それよりもグレンだよ!触っていい?」
蒼一郎さんが手をわきわきしながら近づいてくる。
「いいですよ。触感と防御力試したいですし。でも移動しながらでいいですか?」
「苦しくない?作中だと変身する主人公は血病になってるからさ。」
「戦闘機能に関係のないデメリットは再現されていないみたいですね。これは本当に良かったです。創造神に感謝ですね。」
蒼一郎さんにペタペタ触られながら歩いていく。街道に出ても、襲われている馬車や美少女に会うことなく街の城壁が見える位置まで来た。
「玩くん、ファンタジーの最初の街といえば身分証の提示とお金と犯罪歴の確認だよね?」
「そうですね。でも僕らこの世界の身分証の提示持ってないですよね。お金はG石板から出しますか。犯罪歴は…
蒼一郎さん、ポルノとか幼女強姦とかしてないですよね?」
「君は私のことなんだと思ってるの!」
「え、イケメン残念厨二ロリコン」
「ぐうっ、否定ができないッ!でもノータッチの掟を守っている紳士なロリコンのつもりだよ!」
「まあ、とりあえずいきましょうか。」
「いろいろ言いたいことあるけどしょうがないよね。行こうか。」
二人で城壁の門に近づいていった。
「兵士さん、どうもこんにちわ、街に入りたいんですけどいいですか?」
「ああ、身分証の提示または書類の記入、犯罪歴の確認と壁税を1500ソルト払ってもらうよ。」
門につけられている建屋に入って紙に名前と年、出身地、職業、街に入る理由を書く。紙を提出してよくファンタジーに出てくる犯罪歴を確認する水晶に手を触れる。
「うん、犯罪歴ないな。ソウとガンか、旅の戦士か。身分証ないなら冒険者にでもなればいいんじゃないか?ギルドに行けばすぐに身分証できるぞ。街の中央通りと大通りの交差点の商業地区一等地にあるからわかると思うぜ。」
二人とも顔を見合わせる。蒼一郎さんは目で語っている。やっぱりあるのかと。
それぞれ1500ソルトを払って手続きを済ませる。兵士にお礼を言って街に入った。
「うん、やっぱり冒険者ギルドあったね。」
「犯罪歴を確認する水晶もありましたね。」
「オーバーテクノロジーなのに街並みは中世ってやっぱり歪んでいるよね。」
「冒険者ってただの傭兵なのになんで冒険なのかよくわかりませんしね。」
「もしかしたらここの冒険者ギルドは冒険させるのかもしれませんよ。」
ぐだぐだ喋りながら街の中央まで来た。くると大きな建物を見つける。冒険者ギルドだ。テンプレはあるのだろうかと顔をまた見合わせてドアを開ける。
ようやく変身できました!戦闘シーンまで長かった…
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