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 僕は今、神界のセントラルパークに来ている。創造神に以前神力を上げるのには朝の体操がいいと言われたからである。

 小学生の時に早起きした時だけ家を抜け出して近くの公園にてラジオ体操をしたことを覚えている。近くのおばさんや近所の子供達がわいのわいのしている間、主催者らしきおじいさんにロシア語を教わっていた。おじいさんはロシア軍の捕虜だった時に教えてもらったとか言っていた。今からすればもっとお話ししておけばよかったと思っているが、母にバレて禁止されて以降行っていない。

 だが、神域に来るのには自室から直接行けるのでバレることはない。


「朝の公園ってやっぱり気持ちいいな。」


 朝露が残るしっとりとした空気に元気よく朝日が差し込んでくる。


「おはよう、玩。今日は来たんだね。」

「まあ、昨日は人にお呼ばれしていたからね。その準備でこれなかった。」

「そうか、君の能力は一度神力をつかったらあまり使わなくて済むけれど、あって困るものじゃないからできる限り毎日体操に来たほうがいいと思うよ。」

「そうですよね。」

「お、始まるみたいだ。」


 公園にはすでにおじいさんから幼女まで老若男女問わず沢山の人、いや神が集まっている。


「皆さん今日もおはようございます!今日も張り切って参りましょう!神界体操第一!」


 公園の各所に設置されたスピーカーからハキハキとした爽やかなアナウンスと軽快な音楽が流れる。動きは周りの神々を見ながら合わせて行おうと思ったのだが。

「まずは腕を前から上に上げて背伸びの運動から。はい。」

「ねえ、玩くん。これ、ラジオ体操だよね?」


 そう、ラジオ体操とまるっきり同じなのだ。今のところ動きも順番も全く同じなのである。


「い、いや名前違いますしきっと次の動きは違いますよ。」

「腕と足の運動です。立っている方は元気よく足を曲げ伸ばししましょう。特に踵の上げ下ろしを意識しながら。」

「…同じだよね。きっとこのまま同じだよね?」


 反論できない。アナウンスまで同じである。ラジオ体操って神様が作ったのかな。それとも逆輸入か。


「深呼吸です。ゆっくりと息を吸って吐ききってください。」


 深呼吸だ。多分これで一通り終わっただろう。もしかしたら、もしかすると、いやほぼ確定的にあれも来るだろう。


「神界体操第二!」









 セントラルパークでの体操を終えた。激しい動きは一切なく、体がポカポカする程度だ。今日は予定が入っていない。何をしようか。


「蒼一郎さん、今日暇ですか?」

「いや、今日は実家に帰ろうと思ってね。久々だし、転職したのも伝えたいしね。どこに勤めているか聞かれたらどうしようか絶賛悩み中だよ。」


 あー、無闇矢鱈にここの事を人に言わないでくれとのことだしな。


「あー、それならG石板の連絡帳の自分の欄見てみるといいですよ。神界での勤め先は大神殿邪神対策特殊兵団ってなってますよ。地球ではジーニアス社っていう人材派遣会社の社員みたいですね。」

「…あ、ほんとだ。私のG石板にもそう出てるね。この三角形のボタンは名刺が印刷されるみたいだね。ほら、出てきた。」

「これで親御さん安心ですよね。」

「ありがとうね、玩くん。なんとかなりそうだ。玩くんは親には話すのかい?」

「いや、しばらく様子見てからですね。都合悪くなったら強行的に一人暮らししてもいいかなって思ってます。」

「そうかい、困ったことがあったら僕に連絡してくれ。プライベートな用事でもでも手伝うから。」

「ほんとありがとうございます。」

「じゃあねー」


 蒼一郎さんは行ってしまった。宿題終わっているし暇なんだよな…先に出そうな宿題も闘神の訓練の時に終わらせちゃったし。


「あら、見ない顔ね。どこの所属の子かしら。」


 肉付きのいいお姉さんが話しかえけてきた。肉付きがかなりいいのにデブとは言えない、言いたくないほどバランスが取れていて美人である。


「そうね、名乗らないとわからないかしら。私は美食神よ。」


 おととい創造神が言っていたレストランやっている最高神の一人の神か!


「無礼を働いてしまいました。私新しく採用された邪神対策特殊兵の生茂玩と申します。」

「いいのよ、まだ若いのだから。邪神対策特殊兵っていうとつい最近作られた部署の人でしょ?しかも地球から人間を引っ張り上げてきたとか。それなら仕方ないわよ。」

「ありがとうございます。」


 ニコニコしながら話す彼女は安心感のある人を良い心地にさせるものだった。


「ところで君、料理する?」

「まあ、最低限ぐらいですけど。男子高校生の男飯っぽいのしか作れないです。」

「するんだ!いやー神たちは買って食べるから作るのは私みたいな食に関する神と私の眷属ぐらいなのよ。君みたいな男の子はだいたい料理しないからさ嬉しいねぇ!」

「いや、凝ったのは無理ですよ?豚バラと冷蔵庫にあるものの炒め物ぐらいしか基本的に作りませんよ?」

「それでもよ!」


 ちょっと気に入られたのだろうか。美人なお姉さんに近寄られてちょっと恥ずかしい。紅潮しているのかもしれない。


「今日は定休日だからお姉さん、料理教えてあげようか?」

「え、いいんですか?」

「もちろん!凝ったやつじゃなくて簡単に作れるもので材料もありがちなのですぐ作れるもののレパートリーを増やしてあげるよ。」


 めちゃくちゃありがたい申し出だ。豚バラの炒め物には飽きてきた。味は毎回変わるようにしていたけれど、食感がだいたい同じというのに飽きてきた。断る理由がない。ゴールデンウィークの書き入れ時だというのにと考えてしまったが、神界にはゴールデンウィークなんて関係ないとすぐに思い出す。


「ぜひ、ぜひお願いします!」

「そうかい!じゃあついてきてくれ。」


 そう言って美食神は僕を引っ張り大神殿の門をくぐり、どう見てもデパートな3号館のレストラン街を抜け、大きな調理場に着いた。


「ここは私のプライベートキッチン。」


 僕はなぜここに連れてこられたのか。なぜ僕だったのかを聞いた。

 すると美食神は少し落ち着いたのか上がりきっていた口角を平坦より少し下げ、話し始めた。


「私は自分で完璧な料理を作るのに飽きちゃってね。人と一緒にプライベートで料理を作るってのをやってみたかったのさ。私と眷属たちとの関係はあくまで仕事関係。プライベートまで踏み込んじゃかわいそうだしね。その点君は初めて会ったけど仕事ではまだ会ってない。しかもお客さんでもないフラットな関係だから。」


 フラットも何も神力の差が尋常じゃない。生きるか死ぬかは彼女にかかっている。これではフラットでもなんでもない。せめて神力の格が同じ神を連れてきたほうがいいのでは?とも思ったが、彼女は客ではない人間ではないと嫌だと言ったのだ。きっとほとんどの神は彼女の客になのだろう。


「わかりましたよ。いいです、一緒にやりましょう。僕も後々一人暮らしする予定なのでレパートリーは増やしたいですし願ったり叶ったりですよ。よろしくお願いします。」

「イタリアンでいいかな?ベーコン巻きとパスタのトマトソース和えを作ろう!」


 彼女は笑顔で応えた。お姉さんのような包容力を持っているのに少女のような笑顔をする神だ。そのギャップにすこし惚れてしまいそうだ。全くちょろすぎるのが男子高校生らしくて自分自身に対して笑いそうだ。

 その後特に問題なく調理はすすんだ。僕は素人だが、彼女のサポート力がすごいのかプロの味に仕上がっていた。やはり神ということなのだろう。


「美味しかったなぁ、ほんとありがとうございます。今度家で作ってみますね。」

「うん!今日は久しぶりに楽しかったよ。予定があったらまた一緒に作ろうね!門まで送っていくよ。」

「ありがとうございます。」


 美食神と一緒に歩いている。隣を、である。彼女から優しい甘い匂いがする。落ち着くなぁ…


「そうだ、連絡先交換しようよ!」

「え、いいんですか?」

「もちろん!また一緒に料理したいのに連絡先知らなかったらできる確率が下がるでしょう。それなら交換したほうがいいじゃない。一緒に料理したんだから友達よ、神友よ。」

「でも、創造神様が神にならないと神友になれないって。」

「この世界に入れて天使じゃないあなたはすでに神よ?神力だって使ってるじゃない。なんで創造神はそんなこと言ったのかしら?」


 あの創造神め、何言ってくれてるんだ。あ、神力を自主的に上げさせるためか。それなら納得できるな。


「じゃあこちらこそ、宜しくお願いします。まさか最高神のあなたと神友になれるなんて光栄ですね。」

「遊戯の神性を持っているんだもの。知的生命体に必要な要素よ。あなたならいずれ最高神まで登れるわ。あ、私が配信している料理アプリダウンロードしてね!メニューと手順とかみっちり書いてあるから!」

「わかりました、すぐ入れておきます。」

「あ、もう門だよ。今日はありがとう!じゃあね!」

「今日はありがとうございました。失礼します。」


 G石板をタップして自分の家に戻る。

 すでに昼過ぎである。親は部屋から出てこない息子の心配すらしなかったようだ。各々の部屋で自分のことをしている。美食神とは対照的だ。僕が彼らを批判するということは誰かと何かをしたい、友人や親しい人間が欲しいということなのかも知れない。それが日々色濃くなっていくのを感じる。

 フラットな関係で料理を作りたいと言っていた美食神は僕と似ていると思ったから親しみやすかったのかも知れない。



 ついに明日、学校が再開する。


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