54 何処でも厄介事
ニアが学校にやって来た午前中の授業もようやく終わりを迎えてお昼休みになった。
先生達が悪ノリをしてニアを指名して答えさせる。
ニアの解答が全部正解という結果に、問題が更に難問となって無差別に指名されるという、恐怖の授業がやっと終わった。
午後もこんな感じだろうか?
何気に先生達の連携が取れているので恐ろしい。
お昼ご飯はお弁当か学食という選択肢になるが俺は弁当だ。
ニアも母親が持たせていたみたいで、ニアが学校に来た事は計画的犯行だったみたいだ。
ニアは背中にウサギのリュックを下げていたが、中はお弁当とおやつが入っているようだ。
この弁当だが俺の弁当より大きい。
俺の弁当の四倍位はありそうだ。
俺はニアが大食いなのは知っているので今更だがクラスメイトは知らないので驚いていた。
そんなクラスメイトの事など知らないという風に『もきゅもきゅ』と口一杯に頬張りながら食べる姿に「可愛い!」とみんなが和んだのは言うまでもない。
今は食べ終わって女子に愛でられている。
何気にお菓子を貰って『もきゅもきゅ』食べている。
ニアさんや、あれだけ食べたのにまだ食べるのか?
そういう感じでまったりタイムに入った頃に俺は放送で呼び出される。
恐らくニア関係の事だろうが、呼ばれているのは俺だけなので、ニアを愛でている女子にニアの事は任せる。
放送では理事長室横の会議室に行くように言われたので来てみたが、ここは確か学校の理事達が集まって話し合いをする時以外はあまり使われないので少し嫌な予感がする。
それでも呼び出された以上入らないという選択肢はないので、渋々ノックして中に入る。
会議室に入ると、飼育棟で何時も動物の世話をして、密かに仲買人みたいな事をしている先生が正面に座っていて、左に見たことの無い人が三人、右に理世と里美姉が座っていた。
理世達が居る事で異世界に関係する事だと判る。
この部屋に居る人間はみんな魔力を持っているしな。
「急に呼び出してすまないな。俺の顔は知っていると思うが一応この学校の理事長をやらせてもらっている。」
正面の先生がそんな自己紹介をして他の人を紹介する。
日本と言うか地球に居る異世界関係者等を管理している所の人達らしい。
仲買人が理事長ってマジかい⁉
もしかしていきものががりを作ったのはアンタか!
「君も知っていると思うが、この世界は異世界に転生や転移した人間が多く、役割を終えて戻って来た者やこちらに再転生した者が溢れている。」
「魔力とか目に見えますからね。」
「その通り。この世界に無い力を持っている人間が無闇に力を使ったり、こちらに戻って来たが逆にこちらに適応出来なかったりと色々な問題が出てな。それを色々と管理サポートをするために『異世界ネットワーク』という組織を立ち上げている。」
「それで私にもそれに入るようにと?」
「それもあるがな……。」
話によると今回は突然神になった俺の扱いをどうするかで揉めているそうだ。
異世界で活動する事によって結果的に神に至る者とかはいるらしいが、そうなると支配する土地を離れられなくなったり、神々の暗黙の了解で他の神様の世界に入らない等の決まりがあったりと制限があるため戻って来ないのが普通らしい。
戻って来ても制限付きで一時的だったり、神の力を捨てて人間に転生して戻って来るため、他の世界で神様をやりつつ自由にこちらに戻って来る事が出来るのは前例がないらしい。
それともう一つニアだ。
ニアはこちらの神のアーステルによってこちらに転移して来た異世界転移者になる。
これもあまり例が無く、異世界からこちらに転生という形でなら理世が該当するが、転移での受け入れは珍しいらしい。
「どんな立場であれ、転移や転生はそれを行う為の大義名分が必要だ。神々にも最低限の理性……げふん……取り決めがある。」
ニアが向こうで独りぼっちになるという名目だが、実際はロールド達に預けていたし両親も生きていた。
神であれば転移の条件を満たすために調査はしているハズで知らない訳がない。
「なのにニアちゃんは転移して来ている。君の事も含めて普通では考えられない事が起こっているのでな、この際きっちりと確認をさせて貰いたいと思って来てもらった訳だ。」
そんなの俺に聞かれても俺が知りたい。
そう思った時に、静かに話を聞いていた理世が口を開いた。
「そう言う訳だ。聞いているんだろう? 監視者!」
『やれやれ、本来私も不干渉の対象なんですがね。』
そう言ってマニュが姿を現す。
「私に聞かれても神々の考えなど判らないのですがね。」
マニュと話をするが、のらりくらりと質問をはぐらかして全然納得出来る答えは帰って来ない。
里美姉が最後に確認する。
「再度問いますが貴方の名に誓って、貴方は何も知らないのですね?」
「神に誓って私は神の考えは知らないですな。」
「判りました。秀クン。」
マニュが答え終わって姿を消した所で俺を呼ぶ里美姉。
右手を指しているので、封印のリングを使えという事だろう。
「やはり怪しいですね。」
「個人の問いに誰とも知れん神を出しましたからね。眷族の言う言葉では無いですね。」
神々の事を誤魔化しているのか、それともマニュ自身が暗躍しているのか、判らないがニアの事は何か隠された事があるらしい。
「ニアちゃんだけじゃ無くて秀クンの事もだよ。」
俺の事もただ神にして崩壊しかけた世界を押し付けた訳ではないらしい。
それは俺も胡散臭いとは思っていたけどね。
さっきの会話位じゃ何も判らない。
「取りあえず俺達のネットワークに所属させてた方がいいみたいだな。今のままでは神々も当てには出来そうも無いからな。」
「所属するとどうなるんですか?」
俺が基本的な事を聞く。
日本においての俺達の監視と言う意味もあるが、外部からの干渉の監視の側面もあるらしい。
それとこちらの生活面のサポートも受けれるそうだ。
ニアに関してもこちらで生活出来るように戸籍関係も手配出来るらしい。
「君の両親には快諾頂いているが、父方の途絶えた戸籍を使って事実上、遠縁の子で両親が他界したため君の家に住んでいる事にしてあるよ。」
戸籍の偽装なんていいのか?
なんて思いつつも色々な面でも役にたつので突っ込まない。
「あと、場合によってはこの高校の席も用意するよ。午前の授業で大体の学力は把握出来たしね。」
午前中のアレはニアの入試試験替わりか……俺達の地獄はとばっちりだったのか。
「でもニアは四歳ですよ?日本は飛び級なんて認めて無いでしょう?」
四歳児を高校に通わせるには無理がある。
戸籍があるならもう少しして小学校入学ではないのか?
「良く考えたまえ。こちらでは一週間ちょっとだが、向こうで約一年位は経っているのだろう? これを繰り返せば直ぐに成長するぞ。成長しても偽装してわざわざ小学校に通う意味は無いからな。」
確かに何だかんだで一年位は向こうで過ごしている。
……もうすぐニアは五歳になるのか。
向こうでの活動がメインな分、こちらとの時間は離れる一方だから言ってる事は間違いではない。
「でも四歳児がいきなり、相応の年になって編入と言うのは不味くないですか?」
「この学校は特別だから問題無いぞ。こちらの神にそう言う風に創って貰ったからな。異世界関係の問題を俺達がある程度フォローする為の措置だ。」
こちらの神ね……あのボケ神とも繋がりがあるわけか。
じゃあさっきのマニュの質問はマニュを神々が何か疑ってるって事か?
「……何か知っているのなら私も知りたいですけどね?」
「秀クンは今の所ダメかな? 当事者だしね。」
そう言う里美姉達も巻き込まれてるから当事者じゃないのか?
俺が納得してないのが判ったのか理世が言う。
「俺達は巻き込まれてはいるがお前とは立場が違う。どう違うかはここでは言えんがな。」
何か理世達も俺には言えない事があるらしい。
胡散臭い神々は信用出来ないが、理世達なら信用出来るし信頼もしている。
聞かない方がいいのであればそうなんだろう。
「判りました。それではフォローお願いいたします。ついでに俺も!」
「君は立場的に我らの上位なんだがね。入る意味が判らんな!」
静かに聞いていた異世界ネットワークの関係者が異論を挟む。
揉めているのも本当なんだな。
でもそう言う事を言うなら俺も言っちゃうよ。
「別に俺は外して貰っても構いませんよ。アーステルに指名されて神になっても日本に居る事を認められてるし、あなた達の都合に付き合う必要はない。」
異論を挟んだ奴が俺を睨む。
「好きにしていいというお墨付きもありますし。フォローはアーステルがするでしょう。」
「我らの築き上げた秩序と平穏を脅かす気か!」
「理世達から報告を受けて無いんですか? 俺は向こうの人族の間では『自然災害』扱いなんですよ。勝手に防災訓練でもして備えてください。」
理世と里美姉の事はあるけど、いい加減に振り回されるのは嫌気がさしている。
腐っても神の力を舐めるなよ!
「たった一人で何が出来る! 我らの中には神殺しも魔王も勇者も居る。排除するのは簡単だ!」
へーぇ、向こうもそうだけど人間が権力を持つとこうなるのか。
俺も人の事は言えないけどね。
「秀クンを相手にするなら、私は秀クンに付きますね!」
「俺もだな。元々イレギュラーで、俺も同じような扱いを受けた事があるしな!」
理世達は俺に味方してくれるようだ。
やはり持つべきものは友だね!
「双方共に冷静になれ!」
理事長が間に入ってくる。
理世達も理事長の言葉に従って大人しくなり、ネットワーク関係者とやらも、理事長から決定はネットワーク管理委員会の管轄で今日は話を聞きに来ただけだろうと嗜められていた。
「今日の事はしっかりと報告させてもらう! こんな危険な存在を放置など出来ん!」
そう言って帰って行った。
「すまんね。こちらも大分おかしくなり始めているようだ。」
理事長がそう言って俺に謝ってくる。
もしかしてクソ神はこっちの問題も俺に丸投げしてるんじゃないだろうな?
……考え始めるとエンデフィールと名乗った女神も理世の生まれた世界に行く事を認めているし、もしかしてそっちの厄介事も解決させるために俺の転移を認めたのか⁉
「君も思う所があると思うが、君とニアちゃんの存在がこちらでも影響している。それがこちらの神の意思なのかも判らない状態で混乱しているのは確かだ。」
クソ神達はそれを含めてただ楽しんでるだけとも俺は思えるが!
理事長は仮ではあるが、ネットワークに加入の意思があると報告すれば、入る事は出来ると言っているのでニアの事を頼んだ。
俺は今の所必要ないがニアのフォローは欲しい。
特に戸籍関係は必須だ。
取りあえず異世界ネットワークとやらは理事長に任せておこう。
そうこうしている内に昼休みが終わってしまった。
またニアによる恐怖の授業が始まるのか……少し休みたかったな。
なんか日本でも余計な事に巻き込まれそうだ。
サイテー。
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