52 後の祭り
俺は清々しいまでの神託と言う名の丸投げをした。
丸投げされた理世達はガリ国の王達に確認をとる。
「さて、十分に理解出来たと思うがどうする?」
目の前で巨大隕石の落下を見せられ、雷に撃たれかけた上に先程の神託。
これで理解が出来なかったら残りの方法は一つしかない。
「く、国中に獣人達の解放を公布する。進軍している兵達の帰還と偽者達の捕縛。い、今すぐにだ!」
国王の命令を受けて衛兵や官僚達が動き出す。
色々思う所はあるが、ここで見せしめの為に吊し上げてもあまり意味が無いので止めておく。
「何かあればこちらの巫女から話が伝わるから今度は間違えない事だな。」
「え~っ!」
オーラマディの悲痛な叫び声を無視して謁見の間から退出する。
あとはこの国の人間が判断する事なのでもう用はない。
城から離れて人目のつかない所から異空間の部屋に戻る。
理世達が秀一達の所に戻ると、何故か秀一とニアが正座させられて里美から説教を受けていた。
「ニアちゃん!大事な話をしている時だから静かにって指示をしたよね⁉」
「あぃ……ごめんなさいデスヨ……。」
しょぼんとして涙目で里美に謝っている。
ニアの後ろに隠れるようにしがみついているミーシャも涙目だ。
二人してこの場所に来た事が後ろめたいようだ。
「さ、さとみおねぇちゃ……ごめんなちゃ……」
や、ヤバい!
ミーシャが泣き出しそうだと秀一はフォローに入る。
「里美姉、ニア達も反省しているようだし、取りあえず何とかなったみたいだしこれくらいで! ニアもミーシャちゃんも大丈夫だからな!」
「秀一お兄ちゃん」
「しゅういちおにいちゃ!」
ニアとミーシャが秀一にすがり付く。
秀一は二人の頭を撫でて宥めるが今度は里美の矛先が秀一に向けられる。
「そう言う秀クンも秀クンだよ! なんの打ち合わせもなくオーラマディさんに丸投げするなんて!」
「里美様……」
話を聞いていたオーラマディは感激していたが……。
「どうせやるんならもっと具体的にしっかりと押し付けないと逃げられるかもしれないんだよ! ただの伝言役じゃなくて何かもっと重要な人間代表的な役にしなきゃ……」
延々とオーラマディについてダメ出しされている。
「里美様……」
話を聞いていたオーラマディは落胆していた。
「まぁまぁ里美、それくらいでいいじゃないか。取りあえずはどうにかなりそうなんだし。秀一どうなってるんだ?今はいいから後で聞かせろよ!」
理世が仲裁に入る。
秀一は最初何を言っているのか判らなかったが、後で聞かせろと言う事で、今回の事で信仰心がどうなったのかを聞きたいらしいと思い当たる。
確かにオーラマディ達が居る所でその手の話をする訳にはいかない。
神託を俺がした時点で今更という気もしないではないが。
オーラマディもその事で秀一に質問を投げ掛ける。
苦しい言い訳ではあるが、使徒として神の意思を伝える役目を代行した事。
俺達は世界の全てを考えないといけないので主に人間担当としてオーラマディが神から選ばれた事など、思い付く限りの言い訳をでっち上げた。
「そ、そんな……私が人間代表だなんて……。」
「神様の目に止まっちゃたんだから諦めて!」
里美姉がそんな事を言ってオーラマディにだめ押しをしながら俺にジェスチャをする。
耳に携帯で会話するような仕草だから、オーラマディにも連絡手段をって事だろう。
俺はみんなに渡しているスマホ型の鍵を新たに創り出す。
イメージとしてはジュニアスマホだ。
機能を制限して通話機能と位置検索のみ使用可能にした。
機能制限は俺が解除すれば俺達が持っている奴と同じ物になるようにしている。
今の所はこの異空間に自由に出入りさせるつもりは無い。
「おめでとう!はいコレ神様からの贈り物だよ。これで何処に居ても俺達と話す事が出来るよ。」
俺はシレっとオーラマディに機能制限付のスマホ型の鍵を渡す。
俺達やニアも持っているスマホ型の鍵を渡すのを、羨ましそうに指をくわえてジット俺を見ているミーシャを見て俺は耐えられなくなりもう一個創り出す。
こちらは俺達と同じ機能制限の無いヤツだ。
ミーシャならここの出入りは自由にしても問題ないしな。
「はい、ミーシャちゃんも特別だってさ!」
「ふぁあ~!しゅういちおにいちゃありがと!」
目をキラキラさせて大喜びで受け取ったミーシャはスマホ型の鍵を掲げて『ピョンピョン』と俺達の周りを跳ね回っていた。
つられてニアも一緒にな。
そう言う風なやり取りをした後に、今回の事を国に帰って話をしないといけないとオーラマディが言い出したので俺は目玉クンをフーリス王国に向けて送り出した。
フーリス王国の場所をオーラマディに聞こうと思ったが、里美姉が何か話す事があるのかオーラマディを連れて行ったので、代りにロゼッテに画面を見ながら方向を指示して貰う。
恐らく国に戻ってからどうすればいいかを話し合ってるのだろう。
ここで話しても良いような気がしたが、里美姉に何か考えがあっての事だろうと思い直す。
帰って来たオーラマディの顔がちょっと青ざめてるのが気になるが、結構大変な事を押し付けている自覚はあるのであえて無視する。
一段落付いて準備が整ったら、フーリス王国を訪問するので、その時連絡すると言って、オーラマディ達をフーリス王国の近くの森に送り出す。
今回の神託とオーラマディ達の報告で人間達の間に変化が現れるのはもう少し時間がかかるだろうから暫くそっちは放置だな。
オーラマディ達のメドが付いたので、次は何をしようかと考えていると、ガリ国の方で動きが見られた。
「秀クン!ガリ国から獣人達がドンドン出てくるよ!」
画面に獣人達が森に帰っている様子が映っているのでどうやら無事に解放されたみたいだ。
俺は理世達に獣人達の街に戻って、族長達に解放された獣人達の道案内を出来る人を選んで、合流して貰うように頼んだ。
俺の方は理世が作った谷間を通れるようにしないといけないので別行動だ。
谷の所に転移すると、本当に剣で作った亀裂か⁉ と言いたくなる光景に唖然としてしまう。
「人間辞めるとこういう事も出来るんだ……。」
お前が言うな! 的な感想を言いつつも、俺は谷間に向けて手を翳す。
イメージするのは底が見えないので吊り橋をイメージする。
社会科見学で行った事のある石の吊り橋だ。
大人数で通っても大丈夫なようにかなり大きく頑丈にイメージした。
これなら数百人が一気に渡っても大丈夫だろう。
創り終わって異空間の部屋に戻ると理世達も戻って来ていた。
「各部族から案内役数名と見張りと護衛に数名。あと空からの誘導と監視を鳥人族に頼んで来た。」
「転移して合流したから迷う事は無いと思うよ。」
二人からの報告を聞いて俺はまた動き出す。
まずは来ている獣人達の食料を創り出さないといけない。
獣人達の街まで二ヶ月位かかるので、何度かに別けて作らないと持ち運びがキツいだろう。
あとは来てる間に住む場所も創らないとな。
これは理世達に任せよう。
魔力が足りるか? と思った所で理世に聞かれていた事を思い出す。
俺はステータスを確認する。……って言うか理世も俺のステータスは見れたんじゃないか?
【信仰心】
獣人達の守護神
自然災害の諦め
獣人達の守護神ってのは判る。
そう言う風に宣言したからな。
でももう一つは……。
(マニュさんや説明ヨロ!)
『説明も何も人間達の気持ちの現れかと。人間達の都合を考えずにあれだけ強引に行った結果かと。』
人間達にしてみれば脅していきなり労働力を奪い去ったって事か。
避けようが無いから自然災害と一緒だと。
理世のどうなってるんだ? の疑問はこれか……。
もうちょっと上手い方法が無かったな……。
しかし獣人達の事を考えたらこの方法が一番いいハズだ!
信仰心にもそれは現れている!
人間の方はまた別に考えよう!
いきなり何でも上手く行くハズが無いからな。
俺は気持ちを切り替えてやるべき事をやり始めた。
獣人達の信仰心は最大なんだ! 力は十分にある。
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「はははっ、結局アイツらを滅ぼさずに強引に納めたか。」
「しかしながら神託を全世界に向けてと言うのはどうでしょうか?」
魔王と側近がそんな事を言いながら今回の秀一達の行動を考えている。
「方法としては最悪では無いが良くはないな。獣人達が増長する恐れがあるし、人間達の受けは悪い。おまけに神の威厳が下がる。」
「威厳に関してはもう落ちきっていましたから今更ですが、獣人達が増長して人間達との立場が逆になっただけ、って事にならなければいいんですけど。」
片方に神が肩入れする事によって起こる懸念を考えているようだ。
もしかすると理世も同じような事を思ったのかもしれない。
「そこは我らが考える事ではないな。我らはこの世界のバランスを保つ事を考えればよい。もう暫くは無理だろうが……。」
「そうですね。獣人達の事が一段落付いたら、こちらの事を考えて頂きましょう。我らは十分に働いたんですから。」
「そういう事だ。こちらの苦労もしっかりと判って貰わんとな!」
魔王達がそう話しているとは知らずに馬車馬のように働いている秀一であった。
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これで第6章の終了となります。
次章は日本に戻る予定です。
ちょっとはっちゃけた章にしたいな…………。





