49 秘め事戯言謀り事
異空間から宿屋の様子を見る秀一達。
オーラマディ達に神の使徒認定がされたので、人間の国で一番マトモと言われるフーリス王国の理解を得られ、他の国にも広まって信仰心を集める事が出来れば、かなり大胆な事も出来るかもと、取らぬタヌキをしながら気楽な気持ちで様子を見ていた。
「おっ!三バカが見えるから来たみたいだな。」
画面に偽使徒達が見えて、後ろから何処の盗賊だ⁉って格好の奴らが多数映っている。
この姿と装備で正規の国軍だとは誰も思わないだろう。
「ここを手っ取り早く終わらせて奴隷狩りにさっさと行くぞ!本隊を待たせてるんだから時間は絶対にかけるなよ!」
どうやら獣人達を捕まえる為の軍勢が別の所に集まっているようだ。
宿屋には誰も居ないのですぐに消えるだろうと思っていたが、やはり姿が盗賊なだけあり、宿屋の物を略奪していた。
「………クソっ!俺の城で好き勝手しやがって!」
画面ごしとは言え自分の店を荒らされるのは悔しいのだろう。
というか普通正規の国軍がやることか?
信じがたい光景を見ながらも俺は黙って見ていた。
「おい!誰も居ねーぞ!俺達が来てるのに気付いて逃げたんじゃねーか?」
「目ぼしいもんも無いし持って逃げてるんじゃねぇか?」
「~~~~~~~~!」
何も持って行ってません!
店主大激怒で言葉になってません!
フィスアが何とか店主を宥めています!
好き勝手に荒らして、好き勝手に言っている奴らを見ながらも俺は黙って見ていた。
さっきから理世と里美姉が俺をチラチラ見てるけど、俺は何でもないよ?笑顔で笑って見てるよ⁉
黙ってるけど……全然怒ってなんて無いよ⁉
「チッ!獣人を連れて逃げると言っても森の中位しか行けないハズだ!本隊と合流して獣人共を根こそぎ捕まえるぞ!」
偽使徒達がそう言って宿屋を後にする。
宿屋の金目の物は根こそぎ持って行かれるようだ。
君達今から森の中に入るのに荷物にならないか?
俺は目玉クンに偽使徒の後を付いて行くように指示を出した。
兵士達は奪い取った物をそれぞれの知り合いらしき奴らに渡していた。
こう言う時の手段は手際がいいよな。
程なくして城の城門前に来た。
城門前には1万人位の兵士が揃っていた。
「おいゲルディ、補給部隊ってこんなに居るのか⁉」
「そんな訳が無い!……ありゃ見た感じ強襲部隊と特戦部隊、後は近衛部隊も混じってるな!」
言われて見れば防具が違うな!
盗賊っぽいのが補給部隊だろ?
後の3隊はキチンとした格好をしているな……国軍っぽいぞ!
「そこら辺のゴロツキを集めたのが補給部隊で、軽装鎧が強襲部隊だな。重装備のフルメイルが特戦で機能性の無い目立つだけの鎧が近衛部隊だな。」
「近衛部隊が出るって事は……」
理世が言いかけた所で、城壁の上から声が聞こえてきた。
いつの間にか偽使徒達と肥え太った豚…げふん…見た目が可哀想な男が居て、もう一人のいかにも胡散臭そうな腰巾着っぽい男が兵達に演説をしている。
「今喋ってるのが宰相だな。後ろのブタが国王だ。」
「知らぬ存ぜぬで通すんじゃ無かったのか⁉」
偽使徒と司教の話……いやこれは司祭の言葉だったか?司教が上手いこと話をしたのかな?
話を聞くと大体大筋では偽使徒が言った事と同じだな。
神の言葉により獣人を捕らえるのは正しい行いだ。
神の導きの元、信心深い国王が教会の行為を見守る事にした。
諸君達は自分達の意思で行動をするように。
なんて事を言っている。
「やっぱり国王自身が命令する訳じゃ無いんだね。」
「見守るだけで命令した訳じゃ無いし、自分勝手にやれって言ってるだけだよな。」
「それで捕まえた獣人を奴隷にした儲けは寄越せ!って事か。」
遠くに遠征するのに補給部隊だけじゃ人数が足りないし割りが合わないと思っているんだろう。
「……ちょっとキノコの胞子を有るだけばら蒔いて来るわ!おそらくアイツらが通る頃には生えてるだろ?」
「じゃあ俺は違う所から補充して来るとしよう。通った後にも必要だろう?」
俺と理世が立ち上がる。
里美姉はオーラマディ達の相手でお留守番だ。
「何か変わった事が有ったら連絡するよ!」
俺達が飛んで3日位の距離だったからアイツらの足なら1週間位かな?十分に育つな。
俺達が居なくなった後に里美姉がオーラマディと話をする。
「オーラマディさん、今ので判ると思うけど私達は獣人保護に動きます。恐らくガリ国の人間は結構損害が出ますけど貴女はどうしますか?」
オーラマディに人間に犠牲が出ても俺達の事を認めるのか、俺達側に付くのかを問い質した。
「私はこの世界の秩序を正そうとしている神様を信じます!」
はっきりと神様を信じると言い切る。
「……正直同族が犠牲になるのは嫌ですけど……それって獣人にも言える事ですよね?これも一つの聖戦だと思う事にします。戦争なら少しは割り切れると思うので……。」
「そう……なら貴女達には教えておくわね……この世界このままだと持って二年……秀クンが頑張ってるから今4~5年位には延びてるかな?それくらいで消滅するよ。」
「なっ!…………」
「私達は直接神様に聞いてるから間違い無いわよ。貴女達がどう思おうと勝手だし、どう行動しようと結局は貴女達の問題だしね。」
「そ、そんな事……本当に………。」
「今回は秀クン本当に怒ってるみたいだから別だけど、本来平和的に穏便にって行動しようとするの……それだと絶対に間に合わない!」
敢えて秀一の居ない時を見計らってこの世界の現実を話す。
結局はこの世界の人間が協力をしない限りどうしようもないのだ。
そしてここで里美は嘘を付く。
「今度来られた神様の本来の目的は、この世界を消滅させるかどうかの最後の選択をする為に来られているの……何故神々が見放した世界に来たのかを察した方がいいよ。」
「………………」
「使徒である秀クンが知らない大賢者である私しか聞かされていない事よ!私達三人はこの世界とは無関係だから私としてはどうでもいいんだよ。」
「お、おいそれって……」
横でただ聞いていたガリ国組のゲルディが口を挟む。
「貴方達は神様のせいにしてるけど本当に神様だけのせいなのかな?……思い当たる節はないの?」
まぁ九割以上は神様達のせいだと私は思ってるけどね!
脅せる時に脅しとかないと秀クンの命が危ないもんね。
この世界の人には悪いけど優先順位が違うんだよ!
「人間の犠牲が嫌だったら止めてもいいよ?どの道あと数年だしね。」
信仰心の話はしない。
恐怖だろうとなんだろうと神に祈れば何とでもなるもの。
秀クンは正しい祈りの事ばかり考えているけど古来より神様ってのはそうやって来たもの、どっちでも構わないわ!
秀クンには絶対に言えないけどね。
私は秀クンの命が一番大事なの!
「秀クンには絶対に内緒にしててね。秀クンはこの世界を良くすれば世界は救われるって思ってるから!間違ってはいないけど正解でも無いわ。でも神様との取り決めで秀クンだけには言えない事になってるのよ。」
全員が押し黙る。
これで秀クンに変なチョッカイや横槍を入れる者を牽制出来るだろう。
少なくとも人間の国でマトモな方の国の巫女だし、お嬢様ってロゼッテに呼ばれる位だから良い家の出身だと思われる。
そうしている内に秀一達が戻って来た。
「ただいま!……あれ?なんか重い空気だけどどうしたんだ?」
秀一は判らないみたいだが、理世は里美がオーラマディ達に何を言ったかを察したようだ。
「……これから予想される展開を聞かされたんじゃないか?」
「これからね……まぁ国王とかと話して出来る限り穏便にしようとは思っているけどね。」
秀一はこれからの意味をガリ国の事と思ったようだ。
「秀クン!ひとまずこの人達は獣人達の街に避難して貰おうよ!獣人達の街を見てもらえれば私達の役目も判って貰えると思うし!」
「それもそうだな。いつまでもここには留まれないしな。」
ニアやミーシャと違って外部の人間を何時までも異空間に留めて置くのは抵抗がある。
早く元の世界に戻らせておきたい。
「それであっちの方はどうだ?」
「何の変わりも無し!お行儀良く出発して行ったよ!」
「じゃあ1週間から10日位は事態の進展は無いな。」
これで諦めてくれて、偽使徒の事がバレてウヤムヤになれば、オーラマディを経由してガリ国に圧力をかけて貰うって手も取れると思うんだけどな……無理だろうな。
さっきは頭に血が登っていたが冷静になるとやはり人間の犠牲は嫌らしい。
里美と理世は秀一の考えが判って、里美の判断が正しい事を悟らせる。
このままでは駄目なのだと。
秀一達は獣人の街に異空間の扉を繋いで外に出る。
オーラマディ達は獣人達の住む家々と立派な防壁に驚く。
『あら、秀一様お帰りですか?……この人間達は?』
水の聖霊が現れて秀一に挨拶をする。
同行してきたのが人間と狐人族なので不思議に思ったようだ。
「し、秀一様……この方は一体………?」
俺はオーラマディ達と水の聖霊に互いの紹介をする。
勿論ここに来た経緯とフィスアの事もだ。
水の聖霊は俺の言葉に納得して街で保護する事に同意した。
後は水の聖霊に任せておけば獣人達にも話は通るだろう。
オーラマディ達は………。
「み、水の聖霊の加護と神様の結界のある街ですか………こんな街をどうやって攻めるって言うんでしょうね?」
何も知らずにこちらに向かって来ている者達へ同情していた。
「ここに来るまで最短でも2ヶ月だし、来させる予定は無いがな!」
さて、まずはキノコで様子見だな!
そこで止まれば救いようがあるんだがな………。
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