48 設定って言わない!
「どうしたんだゲルディ⁉そんなに慌てて!」
店主がゲルディの声に気付いて表に出てくる。
忙しくて手が放せないのに出てくるって事は店主も状況が判ってる?
「慌てるも何も例の奴らが動きそうだ……恐らく補給部隊が来るぞ!」
ビンゴだね!
ゲルディも知っていると!流石は情報屋か?身内情報だけど。
「補給部隊ってなんですか?」
オーラマディが話を聞いて質問してくるので俺が変わりに答えてやる。
「補給部隊ってのはその名の通り獣人を補給して奴隷にする部隊の事だよ。」
「それって……」
「お前ら何故そんな事知ってやがる⁉」
「私達は魔物を狩るのが仕事だからね!森の方から来たら判るよ?」
「ああっ現場を見たってやつか………」
「それに今、ゲルディの言う例の奴らに会ってきた。」
「三人組か?」
「三バカだな!」
「仮にも尊い方々なんだからバカはないだろう?バカだけど。」
「二人共!バカかもしれないけどバカって言ったら駄目じゃない!本当のバカの人が一緒にするな!って怒るかもしれないよ?」
何気に里美姉が一番酷いよ⁉
「アイツらがバカなのはいいが踊らされてるアホが厄介そうだ。」
理世も言うよね!間違って無いけど!
「バカとアホはどうでもいいけど状況はどんな感じなんだ?」
「…………何処まで知ってやがる⁉」
「俺の推測込みだけどほぼ全て?………フィスアちゃんも含めてな。」
「…………お前ら何者だ⁉」
「信じたら救われるかもよ?な感じかな。」
里美姉………そこで答え言っちゃいますか?
胡散臭いと思われるだけじゃん!
「ほう………そうなんだな…バカよりマシそうだ。」
アレ?信じてる⁉それとも偽者でもバカと比べてマシって事⁉
「まぁこの状況をどうにか出来るならどうでもいい。三バカを先頭に1時間もしない内にここを囲んでフィスアを奪い返しに来るぞ!」
「……あの~大変申し訳無いんですけど状況が……フィスアちゃんて何かあるんですか?」
オーラマディが俺達の話に付いていけず質問してくる。
「悪いけど今ちょっと忙しいから説明はあとね、とりあえず1時間あるなら急いで今居るお客さん捌いて逃げるって言うのはどう?」
里美姉の提案は異空間の部屋に連れて行くって事だよな?
信じてくれるかどうかも判らない説明をダラダラするよりマシかもね。
「……逃げ場の当てはあるのか?だったら客なんて追い出しゃいいんだよ、親父!」
「みんな!悪いが何時ものゴタゴタだ!店じまいすっから出ってってくれ!」
そんなんでいいのかサービス業⁉
何時もの事って恒例行事⁉
店主の言葉でみんなが帰って行く……。
誰も文句を言わないなんて本当に日常的なのか?
「この店は『愚か者』しか集まらないからな」
顔に出ていたのか、俺が心の中で疑問に思っている事を答えるように、店主がボソっと喋る。
「それで何処に逃げるんだ?」
店主が俺達に聞いてくる。
マジであれだけで信じたの?
俺の今までの悩みってなに?
「ひとまず私の部屋に行こうか、ゆっくりと話したい事もあるしね!オーラマディ達も一緒に来てね!」
「おい!さっきから言ってるがゆっくりな………」
「大丈夫、大丈夫!」
ゲルディの言葉を遮って部屋に向かう里美姉。
みんなは仕方が無いと言うように渋々と付いて行っている。
普通は逃げるのに部屋の方に向かうなんて思わないよな。
部屋の扉に手を付いて意識を扉に集中している。
恐らくこの世界の人間を入れる所と決めていた、会議室のような部屋の方じゃなく、直接里美姉の部屋に繋ぐんだろうな。
「よし!こんな感じかな。みんな入って!」
扉を開けて中に入ると里美姉の部屋じゃなく、外の滝のある開けた森の中に出た。
家の中よりインパクトを大きくするための演出かな?
でも最近ワンパターン化しているような気がするな~。
手っ取り早いからいいんだけどさ。
「ここは………宿屋の部屋がなんでこんな………」
「えっ?滝?川!……森の中って……何処⁉」
やっぱりみんな戸惑うよな。
戸惑った所で信じ込ますなんてどこぞの新興宗教だ⁉って感じだよな。
「お分かり頂けたかな?」
里美姉がドヤ顔でみんなに聞く。
判り切った反応に俺と理世は苦笑いだ。
「フィスアは狐人族の子で間違いないよね?それじゃ話をしようか。」
ここまで不思議現象を体験させられた上にフィスアの種族の事まで言われたら、何も言えないよね。
なんて思うがワンパターンと言われようが一番簡単なので敢えて無視する。
一人でノリツッコミをしている間に里美姉と店主、オーラマディ達との説明を兼話が進んでいる。
俺は楽でいいな~、なんて言ってられないな。
一応外の様子を知りたいな。
前に部屋の窓と外を繋げられないかと思っていた事だし、ちょっと外を見れそうな物をイメージしてみよう。
要は窓をテレビ画面と考えてLIVEで生中継ってイメージでいいのか?
そんな感じで漠然とイメージしたせいか、目の前に光と共に現れたのは………目玉?
目玉と言っても卓球の玉に丸型レンズが付いているのでそんな風に見えるだけだ。
「………秀クン、皆で話してる時に何をやっているのかな?」
「何も無い所から突然………神の……いえ創造主のお力……?」
里美姉がジト目で、オーラマディ達が驚きの表情で俺を見てる。
「いや~ここに籠るなら外の様子を知る道具があればな~なんてな」
俺は外を様子を知る道具を創った事を説明して里美姉の追求をかわす。
この目玉が見たものを指定した所に映す事が出来るようにしたもので、映す場所を選ばないという優れものだ……多分。
もちろんステルス機能もあっても盗撮も出来るぞ!と言ったら里美姉に殴られた……別に犯罪的な意味じゃ無かったのに……解せぬ。
試しに俺が「起動」と告げると目玉は『ふよふよ』と浮かび上がった。
「ここに見たものを映すようにしてくれ。」
俺が目に前の何も無い所を指定すると目の前に1m位のワイドスクリーンみたいなものが現れて目玉の見たものを映し出す。
「大丈夫そうだな、それではステルスモードになって宿屋の外と中を適当に巡回してくれ!あとはまた指示をする。」
指示を与えた目玉を異空間の外に出してスクリーンを見る事にする。
「ちゃんと異空間でも問題なく映るね、これで外の様子はバッチリだ。」
「はいはい秀クン周りを放置しない!それで外に居る目玉クン?にはどうやって指示をするの?」
「このスクリーンと繋がってるからスクリーンに向けて指示をすればいいよ。」
「目玉クン!くるっと一回り!出来てる出来てる!」
でも窓から外が見えるようにと思って創ったけど、これって世界の監視システムに使えるよな?
数を増やして全世界にばら蒔く事が出来ればだけど。
あとはマップと連動させれば俺が出向かなくても転移先が指定出来るんじゃないか?
簡単にノリで創ったけど今までで一番使える物かもしれない。
「本当に貴方達は一体……神様?」
オーラマディが真剣に聞いてきた、えっと設定は……
「秀クン!設定、設定!」
里美姉……俺も確かに思ったけど口に出して設定言わない!
「俺はこの世界に来られた神様『アステールヴレホ』様の使徒で、理世が勇者、里美ねぇ…げふん…里美が大賢者になる。」
「使徒様に勇者様と大賢者様っあ⁉」
「そ、それでこの地にはどのような……」
オーラマディは気付いてはいたが、改めて名乗りを聞いて固まっている。
ガリ国組も無言だったが、ロゼッテは俺達の目的を聞いてきた。
俺はみんなに設定…げふん…目的を説明する。
この世界に来たアステールヴレホ様は世界の調和を求められている事。
そのために世界の秩序を正す為に俺達を送り込んでいる事。
一番最初にここに来たのは獣人達の扱いが余りにも酷い為に、獣人達の救済と秩序を乱す者達への処遇を考える為だと答えた。
「ま、まともだ……初めてまともな神様がこちらに………」
ああっ、オーラマディが号泣しているよ……一体どんな神様……人間年齢換算で3~4歳のお子ちゃまだったな……。
「一応ガリ国周辺の獣人を森の奥に退避させたのも俺達で、今は獣人達を集めた街を創っているぞ。」
理世が今の獣人達の事を話している。
「ほ、本当ですか!周りから居なくなった獣人って捕まったんじゃなくて神様に保護されてるんですか⁉」
フィスアが仲間の事を聞いてくる。
やっぱり心配はしていたんだな。
「フィスアの仲間も向こうに居るぞ、戻って来るなら歓迎するって言ってたぞ。」
「そうですか……嬉しいけど私はマスターに助けられたので、ずっとマスターのお役に立ちたいです!」
「別に行動を縛ったりはしないから自由に生きられればそれでいいの。ね!秀クン!」
「そう言う事だな。そう言った意味では好き勝手自由に生きてるガリ国をどうしようかと悩んでいるがな!」
「うふふふふっ、そうよねぇ!」
「獣人達に対する扱い……あれは無いな。」
俺達三人の言葉にみんながドン引きしている。
「そ、そこら辺はお手柔らかに頼むぜ……皆が皆悪いわけじゃねぇし………8割ちょっと越える位で……多いな!」
ゲルディも一人でノリツッコミする位の人数かよ。
「とりあえずこれからの行動を見て決めようか?」
そう言って外を映した画面をみる。
俺達意外、特にガリ国組は気が気じゃないようだ。
俺達はソンナニ、ヒドイコトハ、シマセンヨ………多分。
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