43 ガリ国での出会い
森を抜けてから歩きに切り替える。
凸凹ではあるがちゃんとした道があるので迷ったり、マップ検索はしなくてもよさそうだ。
遠くに防壁が見えるからそちらに向かえばいいしな。
防壁の外側は畑が広がっていて小麦や野菜と言ったものが耕されている。
この畑がガリ国住民の食べる物だろうが、見渡す限り働いているのは獣人だった。
人間もチラホラ見掛けはするが、獣人達を見張っていたりカード等で遊びながら酒を飲んでいたりと、働いている姿を見ることは無かった。
獣人達は粗末な服を着て、余り食べさせて貰って無いのか痩せ細っている。
怪我をしている獣人もいるが手当てなど殆どされておらず痛々しい姿をしている。
そんな光景を見て益々俺達のテンションは下がる一方だ。
「ねぇ秀ク~ン!今私~ぃと~ってもメテオりたい気分なんだけどぉ~!ちょ~っとメテオっていいかな?」
気分で流星を降らせないで下さい。
「里美姉の気持ちはよく判るけど止めようか。」
「じゃあ俺が軽~く、ドラゴンスレイヤーの称号を得た時に使った技を、防壁に向けて全力で素振りしたらダメか?」
全力だと全然軽くじゃないから!
「防壁に八つ当たりは止めような。」
俺の目の前でモタ付いている獣人を、人間が殴ったり蹴ったり好き放題してやがる。
「ちょっと神の鉄槌撃っていいか?」
「「ちょっとマテ!」」
三人がお互いを止め合ってどうにか何もせずに防壁に向かって行けてる状態だ。
精神衛生上物凄く良くない。
その防壁の所の検問所もアレだった………。
「お前ら初めて見る顔だな。入国料は3人で大銀貨3枚だ。」
確か一人銀貨1枚だったよな?
3000円がいきなり3万円かよ⁉
ボッタクリもいいとこだ!
「……入国料は銀貨1枚と聞いているが?」
「へっへっ何の事だ?初めてヤツは一人大銀貨1枚になっている。嫌なら入国させないだけだ!どうする?」
「「「……………………」」」
ああ~!入国せずに思い切り暴れたい!
三人の心は一つだったが、どうにか堪えてボッタクリ入国料を払って中に入る。
中に入る時に門番に止められる。
「へっへっへ、素直な奴等は嫌いじゃないぜ。変わりに新参のお前らに良い事を教えてやる」
なにやら忠告してくれるらしい。
「この国じゃ自分をしっかり持ちな。間違ってても押し通せ!無茶苦茶だと判っていてもだ。」
それこそなんか無茶苦茶な事を言ってますが………。
「あとは謝るな。自分が間違っていると思ってもここで謝るのはバカがする事だ。この国で謝ったら終わりだと思っとけ。」
そんな理不尽な………。
「基本的にこの国の人間は他人を見下すからな、下手に出ると付け上がって止まらなくなる上に、周りが煽って周りもタカって来るぞ!」
どういう国やねん!
「そういう国だと思って行動すれば問題無い。少し前に俺の言い値を聞かずに入国した奴等は今頃苦労してるだろうな。」
なるほど、さっきの入国料は情報料込みって事か。
そう思えば少しは気分もマシになるな。
「ありがとよ!」
俺は更に銀貨1枚を投げ渡す。
「本当に物分かりのいいヤツは長生き出来るぜ!俺はゲルディって言うんだ、副業で門番をしているが、本業は情報屋だ。何かあれば相談に乗るぜ!」
門番を副業と言いますか……
これも情報集めの一つなんだろうな。
「判った覚えておく。」
「ここに居なきゃ、歓楽街の『愚か者の騙し屋』って酒場のマスターに言えば俺に話が通るぜ。」
なんちゅうネーミングだ。
あれっ?でもこの国で愚か者って言ったら良いヤツになるのか?
中々侮れんネーミングかも。
「じゃあ早速聞くけど、この国でオススメの宿って何処?」
里美姉がいきなりゲルディに質問する。
「コイツはサービスだ。その酒場の上が宿屋になってる。周りはちっと煩いが、料金はバカだけあって良心的だし飯はウマいぜ。」
「ありがと!」
ゲルディに場所と名前を聞いてから別れる。
「里美姉?」
「ああ、別に私達には必要無いかもしれないけど、ちゃんとした情報源があると便利なんだよ。」
「そうだな、これから金蔓になるかもしれないヤツを最初から騙すヤツは情報屋としては論外だろ?」
「言われてみたらそうだな。それに拠点って意味では良かったんじゃないか。」
「そうだね、異空間の部屋か獣人の村に戻れば良いけど人目に付かない場所としての拠点にはいいかもね。」
そう言って俺達は『愚か者の騙し屋』に向かう事にした。
途中なにやら騒がしい一角があった。
そこからは、謝っただの金だの誠意がなんたらとか如何にも『絡まれてます』という感じの言い合いが行われてるようだ。
「もしかしてアレじゃない?ゲルディの言ってた人達。」
「謝ったとか言ってるから間違いなくガリ国の人間じゃないな。」
「この国以外の人間も見たいと思わないか?理世?」
「……正直気乗りはせんが、秀一の言う事も判るし……はぁ~。」
理世は俺の願いを聞いて渋々と喧騒の一角に足を踏み入れる。
俺と里美姉はここで待機だ。
というか理世に丸投げ!がんばれー!
ここからも理世の声が聞こえる。
ゲルディの助言通りの対応だ凄いな!
「おい!俺の連れに何の用だ!………そんな事知るか!」
あとは、ぶつかられたお前が悪い!とか。
倒れた方のお前が悪いんだから俺達に謝れ!
なんて理不尽な………理世スッゲー!
そうこうしている内に理世が二人の女を連れて戻ってくる。
マントを付けて顔も隠しているが、如何にもお嬢様って感じの雰囲気を纏っている女の子とその護衛というかお付きという感じの女だった。
マントで姿を隠しているのでちゃんとした容姿は判らない。
さっきの言い合いの声が女声だったのでそう思っただけだ。
とりあえずステータスで確認はする。
お嬢様の方は、名前はオーラマディ15歳。
フーリス王国の神託の巫女となっている。
称号が猫かぶりの駄聖女
マジか⁉
フーリス王国の巫女が何でこんな腐れ国に居るんだ⁉
称号はアレだなよくあるパターンで聖女の振りしてて実は腹黒だったとか?
………でも俺達を見て笑ってるクソ神達を考えると駄聖女と言うより腹黒聖女ってダイレクトで付けそうだけど?
まぁ今はいいか。
もう一人のお付きの女は、ロゼッテ21歳
フーリス王国の聖騎士になってるからやはり護衛だな。
称号が虎に見せかけたトラ猫
こっちも何だかな~。
本当に護衛が勤まるのか?
………勤まっていればこんな騒ぎに巻き込まれないな。
でもちょっとこの二人には興味が出て来たかな?
隣に居る里美姉も同じようにステータスを見たのかワクワクした顔になってるし。
「おう、待たせたな!………やっぱこの国はダメだな。」
理世がこの国の人間をダメ出しする。
話を聞こうとした所で里美姉から待ったがかかる。
「ここでノンビリするのも何だし移動しましょう。また絡まれると面倒よ?」
何故疑問形?
もしかして絡んで欲しいのか⁉
暴れる大義名分か!
里美姉!うっすらと笑わない!
目付きが怪しいから!
「それもそうだな。俺達はこの国に着いたばかりで、今からこの国でマトモな部類に入る宿屋に行く途中なんだが貴女達は?」
「わ、私達は………」
「私達も先程この国に着いたばかりですの。噂以上の国で戸惑ってしまって………良かったらご一緒させて頂いても?」
護衛のロゼッテさんの言葉を遮ってオーラマディが話しかけてくる。
「お、お嬢様……」
ロゼッテが何か言いかけるが言葉にならないようだ。
「こう言っては何だが、初対面の相手に気を許し過ぎてるのでは?」
ロゼッテがコクコクと頷いてる……。
「こう言っては何ですけど、この国の人で初対面の相手を助ける人達が居るとでも?」
ナイス切り返し!
……ロゼッテがまたコクコクと頷いてるよ。
「まぁいいんじゃない?行ってみてダメそうなら、そこで別れてもいいんだし。」
里美姉もノンキに提案する。
話を聞ければ俺はどうでもいいのでサッサと話を切り上げる。
「俺は疲れたから早く休みたい。付いて来るのは自由だから俺達がどうこう言っても仕方が無いぞ理世。自己責任って事で良いんじゃね?」
「それもそうだな。一緒に来たいならくればいい。」
俺達がそう言って歩き始めると後ろの方に少し下がって付いて来る。
ヨシヨシこれで話が聞けそうだ。
街の様子がちょっと変わってきて、少し雑多な感じの雰囲気になり、所々で酔っぱらってる人間が増えてきている。
真っ昼間から酔っぱらって良いのか?
歓楽街って言っても、飲み食いする所ばかりで、所謂性的な物を提供する所っぽいのは見当たらない。
こことは場所が違うのだろう。
しばらく歩くと『愚か者の騙し屋』と言う看板が見えて来る。
看板を見てオーラマディ達は何か言いたそうだ。
「……………………あのぅ」
ロゼッテが口を開きかけた所でまたオーラマディが遮る。
「この国での愚か者なら良いんじゃないの?」
俺と同じ考え方だな。
「俺達もこの国の事は良く知らん!良い店だと紹介されて来ただけだ。ダメそうなら俺達も違う所を探すさ。」
理世の言葉にオーラマディ達も納得する。
どうでも良いけど疲れたからマトモであってくれ!
ゲルディ信じてるぞ!………多分。
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