20 だから言ったじゃないですか
いつものように習慣的にステータスを見ただけだった。
秀一としてはちょっと曜日の確認~、とカレンダーを眺めるような感覚であった。
結構レベルの上がった秀一にとって、現在相手にしている魔物は取るに足らない物だった。
例えるならゲームの序盤に倒すモンスターで、いくら倒しても経験値の足しにもならない雑魚なので普通は素通りするようなプレイヤー状態と言った所か。
ただ魔素を回収するために魔石を集めているだけでステータスに変化があるなど全く考えていなかった。
(おーいマニュさんや、これはどう言った事かな?)
『信仰心を集める為にこの村を訪れたハズでは?何か問題でも?』
(いやいや、あれ程胡散臭そうな目で見られてたのにいきなり何故⁉)
『胡散臭いのはあなた様の個性であり信仰心は関係無いのでは?』
(人の個性を胡散臭い言うな!)
『ご自覚が無いようですが一応なんちゃってでもあなた様は神様です。村人はあなた様に感謝しておりました。』
(神に感謝しろ!じゃなくても俺に感謝しろでもいいわけか)
『いかにも胡散臭そうな新興宗教の教祖に成れますな。』
(胡散臭い教祖言うなし!)
『あなた様=神様?なのは多分間違いありませんので神に感謝するのに他のモノを作る必要は無いでしょう。』
(なんでそこで疑問形⁉)
神様は結局俺の事だから、俺に感謝する事は神様に感謝するって事だな。
感謝する事は信仰心を集める行為と一緒だと?
『そこは宗教という物は色々とデリケートで扱い辛い物ですから。』
(そっち側の者が言うなし!)
あまりにもあんまりな話に本当に神側の者か?と小一時間OHANASIしたくなる……話しても意味無さそうだが。
(それで聞くだけ無駄だとは確定しているが、一応信仰心の所のアレはなんだ?)
『疑問にお答えするのが私の役目でございますので、一方的な決めつけは良くないかと!』
一応聞こう。
『(神様的フィーリング?)』
『………………………………』
(………………………………)
『………どんな極悪人も更正して心を入れ換えれば良心は大きくなります。「更正中の」とは良心が芽生え始めたという意味を込めまして………』
(そんな大真面目にどうでもいい事の説明なんて要らんわ!)
『それでは最初から聞かないで下さい!』
逆ギレかよ……結局聞くだけ無駄だった。
疲れたから考えるのは明日にしてお風呂に入って寝ちまおう。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
何時ものように夜明け前位に目が覚めた。俺にとっては毎日の事なので気にならないが、もうちょっとゆっくり寝てるニアには辛そうだ。
村人達が起きる前に向こうに戻って居た方がいいと思たのでこの時間だ。
本当なら俺だけ戻って対応すればいいので、ニアはまだ寝てても大丈夫だったが「ご飯はみんな一緒がいいのデス!」と言って起きてきた。
しかしまだ眠いのか食べながら『こっくりこっくり』となっている。
向こうに行ったら二度寝させてもいいかもな。
向こうに転移する前にクッキーや飴とか皆で手軽に食べれるヤツを大量に創る。
村にも子供がいるみたいなので、ニアと仲良くしてもらう為と……まぁ話題作りだな。
殆どをニアの鞄に入れて、残りは俺が持っておく。
子供はニアからの方が貰いやすいだろうし、大人は俺の方だろう。
ニアにはちゃんと他の皆にあげて仲良くするように言ってある。
それと宴でどんな料理が出るのか判らなかったのでフランスパンを大量に創った。
変わった料理を出すよりも知っている食べ物。
パンはニアも知っていたし、ちょっと変わった形や味をしていても「私達の住んでた所はコレです。」と誤魔化せる。
これなら単独でも食べれるし柔らかすぎるパンよりいいかと考えた。
偏見かもしれないが狼人のアゴは強そうだ。
村に溶け込む事が重要だから目立たずにとけ込めるように協調性を持ってというやつだな。狩りは昨日の事もあるので除外。
もしこの村に長期的に居ることになったら自重出来る自信は無いがな。
準備も出来た事だし、ニアと一緒に向こうに転移する。
こちらも丁度夜が明けた所みたいだ。
異空間部屋は便利だが転移先の様子が判らないのが難点だな。
窓からこちらの景色位は見えるようにしたい。
神としての力が上がってるみたいだから、帰ったらちょっと試してみよう。
そう思いつつ家の扉を開けた。
「おう、早いな。お早うさん」
俺達の居る家の前に住んでるロールドが挨拶してくる。
「お早うございます。そちらも早いですね。」
「昨日のお前達から貰った魔物を解体しなきゃならんからな。あの数は村人総出で一日仕事だ。それに歓迎の宴の準備もあるしな。」
「そうなんですね。」
「そんな事よりちょっと気になるんだが、お前の喋り方ってのは、いつもそんな堅っくるしいのか?」
「いえ違いますが。一応余所者としての礼儀は必要かと」
「それじゃいつも通りにしてくれ。この村じゃ誰も気にしねえよ。逆にこっちが困るわ。」
「………正直助かる。」
日本でも普通の喋り方と敬語は使い分けていたが正直疲れる。
普通に話せた方が断然楽だしな。
「お前ら飯は?」
「さっき済ませた。村長の所に行くならコイツも持って行ってくれ。」
俺はさっき用意したフランスパンを鞄から取り出した。
「ん?パンか、いつの間にこんなに用意したんだ?って聞くだけ無駄か。」
「そうそう俺だからってコトでいいじゃん。」
「でもお前じゃあるまいし、俺一人じゃこんなに持てねぇよ!面倒臭がらずにお前が持ってこいよ。」
「チッ判ったよ。」
「言葉遣いを気にするなって言ったら一気に崩れたな……それからこのパンな、俺らの朝飯用にちょっと貰っていいか?」
「まぁこっちが地だから喋り易いんだ。俺ら?他に誰か居るのか?」
「ああっ、娘が一人な」
「おっさんは独身街道を一人突っ走る孤高の存在だと思ってたんだがな!正直この村に来てから一番の驚きだ。嫁さんはどんな物好きだ?」
「おっさん言うな!俺はまだ若いんだ。あと、物好き言うな!まぁ否定はあまり出来んがな。」
「嫁さんはどうしてるんだ?」
「今ちょっと病気していてな、病気や怪我をしている者は村長の家に集められて手の空いてる人間が看るようになってんだ。」
やっぱり村長の家がこの村の中心か。
病人とかも個人で看るより手分け出来て効率的って事だな。
「そうなんだ、じゃあ村長の家に行ったら俺が診てやるよ。」
「お前がか?悪化しなけりゃいいがな。」
ロールドが軽口を叩いてくる。
俺を見て本気にする方が間違っているんだろう。
「んじゃ、パンは持ってけ。村長の家に行くときに声をかけてくれよ。」
「判った。ありがとよ。」
ロールドはフランスパンを2本持って家に帰っていった。
30分位して俺を呼びに来る。
………なんかロールドの足の所にちんまいモノがくっついているが。
俺がロールドの足元を見てると、恥ずかしいのかロールドの後に隠れてしまった。
「こいつは俺の娘でミーシャって言うんだ」
ミーシャか、なんか狼って言うより猫っぽい名前なんだが。
身長は50cm位でニアよりも小さい。
ロールドと同じ焦げ茶色の髪で犬耳……狼耳と『もふもふ』のしっぽ。クリクリとした瞳の色もロールドと同じだ。
それ以外はニアと同じように人間に近い。
きっと母親似なんだろう、言っては何だが父親に似てなくて良かった。
似てても子犬的な可愛さはあったと思うけどな。
ミーシャがロールドの手に押されて、少し前に出て来て俺にお礼を言う。
「みぃしゃです。おいちいパンありがとうごじゃいましゅ」
ちょっと舌ったらずで可愛い。まだ発声が上手く出来ないんだろう。
またすぐにロールドの後に隠れてしまい、ロールドの足に顔を『ぐりぐり』させている。
「ミーシャちゃんどういたしまして。パパじゃなくてママ似で可愛いね。」
「バ、バッカお前!ミーシャは俺似だろうが!ミーシャの可愛さは世界一に決まってる!」
あっ、親バカだ。可愛いは認めるけどね。
そう言ったやり取りをしていると、さっきまでウトウトしていたニアが家から出て来た。
「初めマシテ、ニアです四歳デス!」
「はじめまちて、みぃしゃでしゅ、3さいでしゅ、ニアおねえちゃ」
「そうデス!お姉ちゃんデス!よろしくねミーシャちゃん」
ニアは早速ミーシャにクッキーをあげて餌付けをしていた。
「おいちいでしゅ。ニアおねえちゃ」
「でしょでしょ⁉おいしいヨネ!」
ニアもご満悦である。
そんなやり取りの後、皆で村長の家に向かう。
目的であるパンを村長に渡してから約束通り、ミーシャの母親の病気を診る事にした。
病人を集めている部屋に行くと、ミーシャ達を見付けたのか寝ていた女の人が一人体を起こした。
やはりミーシャに似ていて人間に近い姿だ。
明るい茶色、栗毛か?の髪をしていて瞳も茶色だ。
毛布で隠れているので身長は判らないが体形から考えて俺と変わらない位だろう。決してちっちゃくは無い!
ミーシャは母親に『てけてけっ』と駆け寄って母親に甘えている。
右手を怪我しているのか、包帯というか薄汚れた布を巻いていて、左手でミーシャの頭を優しく撫でていた。
「ミシュレは右手の傷は大した事は無かったんだが、熱が出て倒れてしまってな。森の中に薬草を採りに行くのも難しくてな。」
奥さんの名前はミシュレって言うのか。
おそらく傷口からバイ菌が入って熱を出したんだろう。
包帯替わりの布も清潔とは言えないしな。
この村ではこの位の傷は怪我の内に入らないんだろうな、だから怪我じゃなく病気か。
「よし治療するか!」
「お前、こいつの病気を治せるのか?どんな病気だ⁉」
「いや全然判らんが。」
要は傷を治して、元気にすればいいんだろ?
怪我の傷位なら一発だし、人型に近いなら元気一杯のニアをイメージすればいい。
「判らんのにどうやって治すんだよ!」
「こうやって。『ヒール』」
俺の左手から光が溢れミシュレの体を包み込む。
みんな突然の光に驚いて固まっている。
光が収まると何も変わらないミシュレが現れる。
「なっ、な、何だ!今のはいったい⁉なんなんだ⁉」
ロールドが何事かと問い詰めてくる。
「あ、あなた!」
ミシュレが包帯を外すと綺麗に治った右手が出てきた。
「何って『神の癒し』だけど?」
「体力は戻らないからこれを飲んだ方がいいですよ。」
HPは戻らないので『ふぁいとぉ~一発!』なHP回復薬を渡す。
「お、お前本当に神様の使いなのか⁉」
「だから最初から言ってるじゃん!今更何を。」
本当は使いじゃなくて本人だけどな。
「あんな言葉を信じる方が信じられんわ!」
デスヨネー!
ミシュレの様子を見ていた他の病人達が我先に治療を求めてくる。
流石にその圧力にたじろいてると。
「おにいちゃ、ありがとぉ」
ミーシャは笑顔でそう言ってミシュレに抱き付いて喜んでいる。
ミーシャのお礼で全て報われる思いだ。
「よし!纏めて面倒見てやるぜ!」
そう言って俺はみんなの怪我や病気を治して行き。
我に返ったロールドは村長達に報告するために部屋の外に走って行った。
だから言ったのに解せぬ。
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