17 おかしな二人
この話から新章に入ります。
今回は村人の門番視点になっています。
文章は大変短いです。
俺はこの森に住む狼人族の戦士だ。
村を護りながら魔物達を狩ってみんなの食料にする。
狩人と言った方が正しいのかもしれないが俺達、狼人族は魔物と戦える者は、皆を護る戦士として敬われているのだ。
今日は当番である門番をしながら俺達の状況を考える。
最近森の様子がおかしい、今まで居なかった魔物が増えたのだ。
例えば踊るキノコ。
あれはただ踊ってるだけのキノコで食用に出来ていた。
いつの間にか毒を出すようになって危険な魔物になった。
猪も大きな牙を生やし、誰彼構わず攻撃するようになった。
こいつも俺達にとっては貴重な食料だった。
仲間と狩りに行っては村で肉を分けあったもんだ。
今は倒す事が大変難しい。
その為に戦士である俺達さえも敵わない魔物だらけとなった現在、村は危機的状況に陥っている。
この状況に拍車をかけている魔物もいる、ゴブリンだ。
狩っても食料には出来ず、何の得にもならない奴らだ。
しかも今では貴重な木の実や小動物を食い荒らしやがる。
仕方なく狩ってはいるが、こいつらは弱いが数が多すぎる。
いくら狩っても減らない処か増え続けてる。
俺達は人間達に住む場所を追われてこの森にやって来た。
他の場所に住む奴らも同じだ。
森の外に比べると魔物は多かったが、弱い魔物ばかりで脅威ではなかった。
今の森はとても危険で食料集めにさえ苦労する。
だが他に行く場所もなく、ただ魔物達に怯え、飢えていく絶望感のみが俺達に与えられる物となっている。
そんな時に変な二人が村を訪れた。
一人は成人前か、なったばかり位だろう。金色の瞳で身長150cm位のヒョロッとした小さい背丈に黒髪に白毛が混じってる。猫人族の男だ。
もう一人は男と同じ容姿で身長は60cm位のちょうど物心のついた頃か?という幼い女の子だ。
男と手を繋いで『ぽてぽて』と歩いてくる。
昔ならいざ知らず、今の森の中を出歩くには二人共に幼すぎる。
見慣れない防具を着て変な剣を持っているが無謀としか言い様がない。
もしかしてあいつらの住む村が魔物達に襲われて逃げて来たのではないかと考えた。
それでこの村を見つけ助けを求めているのではないだろうかと。
昔であれば食料にも余裕があったから助けられたかもしれんが、今の村は俺達が食べる分さえも不足している。
よそ者に恵んでやれる食料など無いのだ。
可哀想だが追い返すしかないだろう。
よりによって俺が門番の時に来なくてもいいだろう、嫌な役回りだと思いながら威圧をかける。
二人は俺に怖れる事なく近付いて来て村に入れてくれと頼んでくる。
俺の殺気に似た威圧を感じないのか?それとも感じる力がないのか?
きっと後者だろうが俺の意図する事を理解出来てないようだ。
仕方ないので直接追い返す事にする。
その時男が何やら女の子に話しかける。
「ニア、右手後方から猪!あと2分位。」
「あい!」
女の子は後ろを向き変わった剣を構えてる。
一体なんだ?と思いつつ、恐ろしい程の殺気がこっちに近付いて来るのに気付いた。
さっきの男の言葉を信じれば、大牙猪だろう。
もしかしてこんな幼い女の子に相手をさせるのか?
囮とか生け贄のつもりなんじゃ?と男を睨み付けるが動じる様子はない。
男の態度に腹が立つが幼い女の子を目の前で死なせる訳にはいかない。
村から追い返す事によってどうなるか?という判りすぎる結果に矛盾を感じるが、少なくとも目の前で無ければ少しは罪悪感が減るというものだ。
剣を抜き、女の子の前に出ようとした時に猛烈な勢いで走って来る猪が現れた。
かなりデカい、いつも見かけるヤツの倍はありやがる。
いつもの猪でさえ手に負えず、数人がかりで傷だらけになりながら、ようやく倒せると言うのにコイツは絶望的だ。
戦士でありながら、怖じ気付いて体が動かない俺なんか関係無いと言うような感じで女の子は動き出す。
女の子は慣れたように突進してくる大牙猪を、ぶつかる寸前にヒラリと横にかわし、流れるように剣を首に突き刺しそのまま下に振り落とす。
盛大に首から血を流しながら大牙猪は、突進してきた勢いのまま数メートル進み息絶える。
女の子は当然とばかりに剣を振るって血を落として鞘に納める。
唖然として立ち尽くす俺に男が再び話し掛けて来る。
魔石以外の大牙猪は手土産代わりに差し出すので村に入れてくれと男は言う。
こんな大きな大牙猪の肉なら干し肉にでもすれば暫く食料の心配は無くなる。
しかしこんな貴重な食料を差し出してまで、食糧難のこの村に拘る理由が判らない。
さっきの腕を見る限り認めたくは無いが、俺より剣の腕はこの小さい女の子の方が上だ。
であれば、こんな村より安全で豊かな村を探した方がいいハズだ。
疑問ばかりで納得の出来ない俺は更に男に理由を尋ねる。
男が言うには、この男は神様の使徒で神様への信仰心を広め高める為に、各地を回ってるとかフザけた事を言う。
確かにこの森は『神選の森』と言って、神様に選ばれた者だけが住む事が出来ると言われちゃいるが、誰もそんなの信じてるヤツなんて居やしねぇ。
神様ってのが本当に居るんなら俺達がこんなクソッタレな状況に追い込まれる理由がねぇハズだ。
住み家を追われて森の中でひっそりと暮らす事も!
魔物に怯え食料に困る事も無いハズなんだ!
神様ってのが本当に居やがるなら俺達の前に姿を見せて、何で俺達がこんな目に会わなきゃいけないのか納得のいく説明をしやがれ!
そうかコイツはこの世界の厳しさに負けて頭が可笑しくなったんだな。
女の子はコイツの世話をするために、慣れない剣を握り護ってきたんだろう。
はっきり言って、頭の可笑しいヤツを村に入れると、トラブルを起こしそうで怖いが、大牙猪の肉は魅力的だ。
仕方がない、村長に話してみよう。
それがこのおかしな二人との初めての出会いだった。
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次からはまた秀一達の視点に戻り話が始まります。





