表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

5


香織に知美と別れたことを告げた。

心配する香織に、お互い納得済みの別れだからと

少しでも香織の心の負担を取り除いてやりたかった。


だけど、この時にはもう・・・・・。






何も知らない俺は、香織と二人の時間を楽しく過ごしてた。

今までだって毎日仕事場で顔を合わしてたから

いつもと変わらないはずだったんだけど

香織を一人の女としてみるようになるとやっぱり意識してしまう。

それまではどこかで達也の女だからって思ってて

触れてはいけない、踏み込んではいけないと

自分の中で境界線みたいなものがあったから。

そういうのうを取っ払って香織と接してると

達也の女だとわかっていながら、一体俺はいつから彼女のことを

こんなにも好きになってたんだろうと思った。



香織は本当に家庭的な女だと思う。

俺のために作ってくれる料理はどれも旨くて

一口運ぶごとに、美味しーい?って聞いてくる香織が可愛くて

きっと他の女だったらうるせぇなとか思うんじゃないかって

恋は盲目とはよく言った言葉だと思った。



香織のすべてを大事に愛おしく感じる毎日。

だけどその時の彼女はきっとまだ・・・・・。

あんなにも深く愛し合ってた二人を知ってるだけに

俺には自信がなかったんだ。

気にしてない振りはしてたけどやっぱりどこかで

彼女の後ろに、達也を見てしまう。



香織をはじめて抱いた時には俺の方が緊張してしまった。

彼女とやっとひとつになれたという幸福感と

もう誰にも渡したくないという独占欲。

達也にも他の男にも、香織に触れて欲しくない。

ゆっくりでいいと思ってた。焦らないつもりだった。

香織の中から達也が消えてなくなるのをずっと待つつもりだった。

だけどその存在は思ったよりもずっと大きくて

いつまでも彼女の中にいる達也に嫉妬してた。

それを香織に悟られないようにするのが精一杯だった。





香織が俺のことを“ 愛してる ”といってくれた時

彼女の後ろに見えてた達也の影が、やっと消えた気がした。

こいつと一生を共にしたいと、もう絶対に離さないと心に誓った。

いきなりのプロポーズは俺にとってはごく自然なものだった。

返事は待つとは言ったけど、断らせるつもりなんかなかった。

もう絶対に、誰にも渡したくはなかったから。

そしてすぐに指輪を買いにいったんだ。

香織が返事をくれるまでは

俺の代わりに、くまに指輪を預かってもらってた。



それなのに・・・・・



知美が妊娠してて流産してしまったと聞いたとき

正直、目の前が真っ暗になってしまった。

知美は俺の顔を見るなり泣き出してしまって

どうしていいかわからずに、ただ知美の傍にいてやることしか出来なくて

だけどそんな時にも香織のことが頭から離れなくて

その時苦しんでるのは他でもない知美なのに・・・・・。


自分でもなんて最低な人間なんだと思った。

知美の親は俺を責めることはなかったけど

その代わりにもう一度やり直して欲しいと、頭を下げた。

だけど、そんなことしても誰も幸せにはなれない。

俺が愛して幸せにしたいと思ってるのは

香織しかいないんだから。

だけど傷つき泣いてる知美のことも放ってはおけなかった。



そんな香織の優しさに甘えてしまってた俺を置き去りにして

彼女は俺の前から消えてしまった。



言いようも無い思いが俺の中を駆け巡ってた。

体の中心がぽっかり抜けてしまったような、そんな感覚。

探したいと思っても体が動かなかった。

そんなことになるんじゃないかと、きっとどこかで感じてた。

香織の気持ちを考えたら、無理も無いことだと思ってたから。

知美の事を想って、自分がいないほうがいいんだと判断した香織。

彼女がそういう性格だということくらい分かってたのに。

そのまま俺の傍にいるのはきっと辛かっただろう。

俺がはっきりしないばっかりに

知美だけじゃなく、香織まで傷付けてしまった。



大事にしたいと想ってたのに

ずっと二人でいたいと、あんなにも願ったのに。






「彼女、元気にしてる?あの会社の子」

「さぁ・・・わかんねぇ」



ある時、知美から急に香織の事を聞かれて驚いてしまった。

知美は前と同じ生活に戻って、仕事にも復帰してた。

香織がいなくなってからも知美の所には顔を出してた。

そうする事が香織の望むことなんだろうと思ったから。

正直、もう考えることにも疲れてた。

香織が出て行ってからずっといろんなこと考えて

もしかしたらこれも運命なのかもなって。

結局のところ俺と香織は、縁が無かったのかもしれないって思ってた。



「ごめん。私の・・・せいだよね」

「いや、悪いのは俺なんだし」

「・・・お父さんがね・・・・・電話しちゃったらしくってさ」

「え?香織に・・・何か言ったのか?」

「許してやってね。私がちゃんと言わなかったのが悪いんだから」

「親父さん、何を・・・・・」

「信之と別れて欲しいって・・・言ったみたい。彼女も了承してくれたらしいけどさ。でもそれって・・・私のせいでしょ。何か後味悪くって。私ね、今だからはっきり言うけど子供できたって分かった時、困ったなって思った。どうしようって悩んでて・・・だけど信之とは別れたんだし、やっぱり無理だなって。でも・・・その・・・母性本能?ってのもあったみたいでさ。これでもやっぱ女だし。一人で産んで育てるってどんな感じだろうとかも考えたけど、でも信之の子だから産みたいとか、そんな風に思ってた訳でも正直なくて・・・ただ色々考えてるうちにどんどん時間が経っちゃってて。きっとそんないい加減な気持ちが子供にも伝わってたんだろうね」

「俺・・・何にも知らなくて・・・お前ばっかり辛い思いさせて・・・」

「言わなかったんだもん。信之が知ってるわけ無いじゃない。それにもし知らせたとして、そしたら私の所に帰ってきてくれた?」


知美にそう聞かれて俺は言葉に詰まってしまった。

もし知ってたら、子供の事を考えてもう一度やり直そうとしただろうか。

知美とは憎しみあって別れた訳じゃない。

一度は結婚しようとまで思った女なんだから。



「わからない・・・」

「ほら!そういうとこ。そういうはっきりしない態度だから女が期待するんだよ」

「そうだよな」

「でも・・・ありがとね。少しでも考えてくれて。ほんとは怖かったんだよね。信之に言っていきなり堕ろしてくれなんて、そんな事言われたら私・・・二度と立ち上がれなかったと思うから」

「知美・・・」

「もう済んだことにしよ。私も信之も、もう過去の人なんだしさ。いつまでもそんな顔されたら私だって次の男作りにくいでしょ。さっさと彼女のところに行ってよね。もう会いに来なくていいからね」

「でも・・・あいつは・・・・・もう」

「しっかりしなさいって。まだ好きなんでしょ、彼女のこと。待ってるんじゃないの?信之が迎えにくるのを。私のせいで別れたなんて嫌だからね。勘弁してよね」

「知美、ほんと悪かった。ごめんな」

「さよなら、信之 。色々ありがとう。元気でね」



知美とはこれが最後になった。



知美の言葉で俺は 香織を探す決心をした。

香織は本当に俺を待ってるだろうか。

まだ俺のことを愛してくれると言ってくれるだろうか。

そんな不安が何度も過ぎったけど、

それでも香織に逢いたくて。


マキちゃんっていう子、香織の事をきっと知ってる。

何度も店に足を運んでみたけど教えてはくれなかった。


もしかしてまた達也と・・・・・


でも、もしそうならきっと達也が何か言ってくるはずだからそれはないと思った。

それだけはないと信じたかった。


そんな時、えみって子がいきなり俺に話しかけてきた。


「ねぇ、私知ってる。ゆかちゃんなら元気だよ」

「えみっ!やめな 」

「本当に?元気なのか?今、どこに・・・・・」

「好きなの?ゆかちゃんの事」


好きなんていうそんな陳腐な言葉では到底 俺の想いは表せない。

恥ずかしがることも無く俺は自分の気持ちを吐露してた。


「香織に逢いたい。どうしても逢いたい。あいつを愛してるから」

「いいなー、ゆかちゃんは。そんなに想われてさー」

「えみ・・・あんた・・・・・」

「ゆかちゃんね、ほんとはあまり元気じゃない。きっとボスさんに会えないからだと思う。ねっ、まきちゃん?」

「はぁっ・・・もうあんたって子は。ボスも・・・・・案外、情熱的なんだね。見た目とは違うもんなんだ。驚いた」

「好きな人同士なのに、なんで一緒にいないのかわかんないし」

「えみの言うとおりだね。私が間違ってたのかも。最近恋愛してないからさぁ」

「教えてくれないか?香織、どこにいるのか・・・・」

「いいよ。でも行くべきかどうかは自分で考えてね。ゆかちゃんもあんた忘れようと必死だからさ。会いたいって気持ちだけで動ける歳でもないでしょ。案外もしかしてもう愛想尽かされてるかもよ」


やっと居場所がわかった俺は

すぐにでも彼女の所に行くつもりだったのに

なぜか躊躇してしまった。

マキっていう子に言われたことが引っかかってたからだ。

考えたほうがいいって、どういう意味なんだろうか。

きっと香織の決意の固さの事を言ってるんだろう。

俺とは別れて違う人生を選んだ香織に、今更何て言えばいいのか。

知美は納得してくれたか、 もう大丈夫だとでも言うのか。

だとしても香織の事だから、はい そうですかとはいかないだろう。

実際、知美との事は消えない過去として

この先ずっと香織を苦しめるのかもしれない。

俺にとっても決して忘れてはいけないことだと思うから。

十二分に苦しんだ香織が、今やっと違う道を歩いてる。

俺が行ってそれを壊してしまっていいんだろうか。

もしかしたらこのまま違う男を好きになって

普通の結婚をして普通の暮らしをしたほうが

香織にとっては幸せなのかもしれない。



また考える日々が始まった。

香織の幸せを考える毎日。

そう・・・まるであの時の達也のように。



どうしてこんなにも上手くいかないんだろう。

考えてもどうしても答えが出ない俺は毎日にように飲めもしない酒を飲んだ。

酔ってしまわないと夜も眠れない。


そんな時に 達也に会った。

挑発されてるのは分かってたけど

香織がまた達也と付き合うなんて、想像するのも嫌だったから。

達也の言葉はかなり効いた。

うだうだ考えるのは俺の悪いところらしい。

あんな言い方しか出来ない達也だけど

あいつもまた香織の幸せを願ってる人間の一人だから。

たまには親友の言うことを聞いてみるのも悪くない。





久しぶりに会った香織はちっとも変わってなくて

まるで昨日まで一緒にいたかのように少しの違和感も無くて

やっぱり俺にはこいつしかいないんだと思った。

それにしても香織はよく泣くくせに頑固だ。



俺はそんな彼女を

どんなに愛しても足りないくらいに愛してる。



やっと渡せた指輪も、俺のポケットで窮屈にしてたくまも

香織の所にいけてきっと喜んでるだろう。


そして今、隣で眠る彼女の指には俺と揃いの指輪が光ってる。

指輪の裏に彫ってもらったロゴは二人の願い



“ Eternity  ” 永遠



誰もがいろんな事を抱えて悩みながら生きてる。

俺たちも今まで色々な事があって、やっと一緒になれた。

そしてどれも忘れられない、忘れてはいけないことだと思う。

これからもきっといろいろあるだろう。

でもきっと香織と一緒なら、乗り越えられる気がする。


これから先たとえ何があっても

香織にはいつも笑っててもらいたいから

彼女の笑顔をずっと守っていきたいから





・・・・・永遠に・・・・・








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ