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「香織・・・眠ったのか?」



結婚式の疲れが余程たまってたのか

気持ちよさそうに隣で可愛い寝息を立ててる俺の奥さん。


今日は初夜だって言っといたのにな。






ベッドに入って二人で今日までのことを色々と語り合って

途中で返事が返ってこなくなったと思ってたら案の定。

でもまぁこうして寝顔を眺めてるのもそう悪くないかな。



香織の寝顔を見つめながら今までのこと色々思い出してた。

初めて彼女に会った時には、まさかこうなるとは思ってなかった。




そう、香織に初めて会ったあの日。



達也から珍しく連絡があって、ちょっと話あるから久しぶりに飯でも一緒にどうだと誘われた。

こういう時のあいつは絶対に何か魂胆がある。

そしてその予想は裏切られることなく的中してた。

那美も俺と一緒なら何も言わないしな。

達也は基本、単純なやつだから至極わかりやすい。

まぁ向こうに言わせれば、俺は考えすぎるところがあるらしいけどな。


彼女に会ったときの第一印象は

小柄で明るくて、あとはころころとよく笑う女ってとこかな。

特に達也の顔を見ながら話すときの彼女は、本当に可愛い顔で笑ってた。

時々ほっぺた赤くしながら達也の話を嬉しそうに聞く香織は

誰が見たって本気で惚れてるんだろうなってわかるくらいだった。


俺に気を遣ってか、彼女は色々話しかけてきたけど

最初に達也の威嚇を受けてたし

何より人の女に愛想言ったって仕方ないと思ってた。


そもそも俺はどちらかというとあまり女は得意なほうじゃない。

女に束縛されるのは性に合わないというか

あまり積極的にこられると退いてしまうことが多い。

なぜかというと、女っていう生き物はすぐ泣くからで

そんな時はどうしていいかわからないし、面倒になってしまう。

四六時中、女の事ばっかり考えてるなんてことなかったし

俺も仕事がちょうど楽しくなってた頃だった。


その時付き合ってた女は銀行員で 名前は知美。

ひとつ年上の、気が強くって負けず嫌いな女だった。

俺が仕事で忙しいから逢えないと言っても平気な顔してた。

それが強がりなのかどうなのかなんて考えもしなくて

友達と一緒に遊んでるほうが楽しいからっていう女だったから

お互いにそういう意味ではいい距離感が保ててた気がしてた。




達也は昔から札付きのやきもち焼きで

那美の時もそうだったし、その前の女の時もほんとに大変だった。

とにかく自分の女が他の男と普通に話すだけで煩く言う奴だった。

そんなあいつが自分の女に水商売させてたって聞いたときには驚いた。

まさかこいつが、他の男の横に自分の女座らせてたのかよって。

まぁ結局は我慢がきかなかったんだろうけど。



それからというもの、俺は前よりも頻繁に達也と一緒に行動してることが多くなってた。

そこには当たり前のように香織がいて

さすがの那美も気がつくだろうって思ったけど

那美から俺に連絡があることはなかった。



学生の頃からあいつら夫婦のこと見てきて大体の事は知ってた。

昔から那美は達也だけを見てた女だった。

そういう意味では那美の想いのほうが達也のそれよりも遥かに上だった。

実は達也は、那美と付き合ってるときにも

他の女に告られてちょっとだけ手を出したことがある。

とはいえ本気じゃなかったのか、すぐに終わっちまったけど。


そんな女にだらしない達也だったけど

それでもあいつは俺にとってはやっぱり大事な親友で

野球が共通の趣味だったから話も合うし 

学生の頃は、悪さをする時も遊びに行くにもなぜかつるんでた。

あいつは俺との約束は破ったことがなかった。

女が急に会いたいと言っても俺との約束を優先させる、そんな奴だ。

自分の事を女たらしだって言ってるけど

いい加減にみえて、実は馬鹿正直で不器用なだけの男だ。



俺は長男で親は会社を経営してるから、いつかは跡をとらないといけないと思ってた。

だけどあいつは次男坊で、親からはめちゃくちゃに甘やかされて育ってる。

就職の時、お前は資格取らないといけないから大変だなって言いながらも 

だけど俺みたいに何の期待もされてないってのも淋しいぞって笑ってた。

俺とは全く違う性格だし、育った環境も違ってたけど

だけどあいつのいろんなとこ知ってるから

こうして長く付き合ってこれたんだと思う。



社会人になってからはお互いそうそう遊んでもいられなくて

時々二人でバッティングセンターに行ったり

たまには飲みに出たりもしてたけど

さすがに昔のようにつるむようなことはなかった。

那美と一緒になるって聞いたときもそんなに驚かなかった。

周りに反対されてもさっさと嫁さんにしちまったあいつは

やっぱり俺なんかよりもずっと行動力のある奴だとそう思った。



達也に好きな女がいるって聞いた時、正直そのうち終わるだろうと

那美もいるんだし、浮気なんて誰でもしてることだしって思ってた。


だけど・・・・・


俺の思惑とは違ってて、達也の野郎、本気になりやがって。



たまに三人で飲んでると、達也がマジなのが俺にも伝わってきた。

彼女に対しての達也の態度は、きっと那美のことなんて忘れてるだろうと思わせるもので

こいつ、遊びじゃ済ませなくなってるなって。

このまま付き合ってたらいつか那美に分かってしまう。

彼女の方も本気なだけに、きっと修羅場になるだろうと

その時、達也はどっちを選ぶつもりなんだろうって思ってた。

家でひたすら達也を信じて待ってる健気な妻と

達也をただ想ってるだけで、ほかには何も望まない香織。


俺は那美のことも良く知ってるから、達也がもし那美を捨てたとしたら

やっぱり後味の悪い思いをしてただろう。

だけど俺は、香織のことも泣かしたくなかったんだ。

こんなに一途に達也を想って、一緒になれないと分かってても

ただ達也を好きなんだという、その気持ちだけで自分を保ってる。

そんな彼女をもしも達也が簡単に切り捨てたとしたら

きっとそれはそれで、俺は達也を許せなかっただろう。



その頃ちょうど俺の方も色々考える事が多くなってて

親父の会社で設計の仕事してたんだけど

いくら親子でもやっぱり物の考え方とかも違ってたし

それに一人でやってみたいっていう気持ちが強くなってて

思い切って親父のところから離れてみた。

親父は、先々の事考えたらそれも悪くないだろうと言ってくれた。

独立して会社を立ち上げてみて、経営のいろんな事がわかった。

もしかして俺ほど経営者に向かない人間はいないかもなって思った。

でも自分のペースで仕事できる点では俺の性に合ってたし

まだ時代もそんなに悪くなってはなかったから

自分的にはいいタイミングで独立させてもらえたと思ってる。

ただ、知美にとってはタイミングが悪かったみたいだけど。


この頃くらいから知美の周りでも結婚ラッシュが起こってたらしくて

まぁ年齢から考えて当たり前なんだろうけど

俺には正直そんな現実なんて何にも考えられなくて

なんとか誤魔化してやり過ごしてた。

独身主義者ってのも嘘じゃない。

あまり結婚に対して興味はなかったから。

だけど女にとってはそうもいかないみたいで

知美もそれまであまり俺に執着もしてなかったし

こんな付き合いが楽でいいと思ってたから長く付き合えてたわけで

友達の結婚話を遠まわしに俺に話してくるようになったぐらいから

ちょっとまずいなとは思ってた。





達也は香織と付き合いだしてからも

俺との付き合いをおざなりにはしなかった。

バッティングセンターにだって行くし飲みにも行く。

前と違うのは二人じゃなくって三人でってことぐらいだ。

本当はお邪魔虫ってもんなんだろうけど、つい居心地が良くって。

達也の隣にはいつも香織がいて、いつの間にか俺まで香織のペースに巻き込まれてた。


男二人の他愛もない話を、興味深そうにじっと黙って聞いてたり

飯を食いに行っても、達也だけじゃなく俺にもちゃんと料理を取り分けてくれたりして

まぁ客商売をしてるんだから当たり前の行動なだったんだろうけど。



「ノブさん、この蒟蒻の田楽食べてみて。すごく美味しいから 」

「こんにゃくかぁ・・・俺、苦手かも・・・」

「騙されたと思って食べてみてよ。・・・ね?美味しいでしょ 」


そんな顔でそう言われたら

やっぱり不味いなんて言えなくなってしまう。

そしてそんな俺らをみて拗ねる奴が約一名。


「どうでもいいけどさ、いつから “ノブさん” になってんだ?」

「だって・・・吉永さんだってノブって言うから・・・・・ごめんなさい 」

「謝ることなんかねぇよ。達也、お前ちっせーぞ。男がよぉ 」

「うるせぇな、わかったよ 」

「ね、吉永さんこれ好きだったよね。ほんと鶏肉好きだもんね。今度お弁当に入れてみようかな。どう?」

「・・・・・卵焼きも入れてくれよ。お前が作ったの旨いからさ」


こういう時の香織は達也の操縦が上手いなと感心する。

達也はそんな彼女にまんまと操られてすぐに機嫌が直ってしまう。

だけど香織のそれは計算されたものじゃないからそこがまたすごい。

そんなちょっとした仕草が自然にできる香織のことを

達也がマジで好きになったこともなんだか頷ける気がした。

そしてそんな女に出会えた達也を羨ましいと思い始めてた。



あんなに達也を想ってたはずの香織が、達也に別れを切り出した時

一番驚いたのはたぶん俺じゃないだろうか。


あの時の達也はほんとに手に負えなかった。

毎晩のように呼び出されて、その度に荒れてて


「お前なぁ、ほんと勘弁しろって・・・大丈夫かよ」

「ノブ・・・あいつさ、まだ俺のこと好きだって言ったんだぞ。それなのによぉ、何で別れるなんて話になんだよぉ」

「彼女なりに考えて出した答えなんだろ。わかってやれよ」

「わかんねぇよ・・・・・わかりたくねぇ・・・」


毎晩吐くほど飲んで、それでも時間が解決する問題だと思ってた。

俺には何もできないし、香織の気持ちも分かる気がしたから。

本気で好きだからこそ耐えられないもんなんだろう。

逆によくそれまで我慢してたなって感心したぐらいだ。

達也の事も確かに心配だったけど 

その時の香織のことも、俺は心配で仕方なかったんだ。

今頃きっと泣いてるだろうと、誰か傍にいてくれてるだろうかと

本当は俺が行ってやりたいぐらいだったけど

達也の手前そういう訳にもいかないし

心の中で俺に連絡してきてくれればって、そう思ってた。



結局、達也は香織を手放すことができなかった。

香織の気持ちが自分にあることがわかってて、どうしても諦め切れなかったんだろう。

あの時の二人を引き離すことなんて

たぶん誰にもできなかっただろうと思う。



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