1-6 ネガティブ
自分の筆の遅さに辟易する今日この頃、みなさんはいかがお過ごしでしょうか。
私は肺に穴をあけていました。・・・いや、別にこれが原因ってわけじゃないんですよ?なんたってこれで三回目ですから!(ドヤァ
二年のうちに三回もなるくらいなら高い身長なんていらない!むしろロリorショタになりたい見上げたい!
なんて言い訳を並べつつ久しぶりの更新です。その割に短めになってしまいました。いつもの事?バンナソカナ
一話一万字で書いている人たちってすごいですね、改めて思いました。
次から次へと湧いて出てくる四足歩行型のマシーンが、これまた次から次へと湧いて出てくる弾丸の豪雨でハチの巣にされ消滅していく。爆音の後ろにかすかに聞こえる普段からは想像できないような笑い声に、思わず慄き後ずさってしまう。暫くして出現が止むと、少ししてその場を静寂が包み込んだ。二丁の巨大なガトリング砲を消滅させた声の主は、先ほどまでの惨劇が嘘のようにさわやかな笑顔でこちらに振り返り・・・
「これで素材は万全だね!」
と、これまたさわやかな声でそうのたまった。出てきた瞬間にミンチにされてるのに素材もへったくれもないと思うのは俺だけだろうか。ゲームなので倒した瞬間に素材はインベントリへと格納いされるので何らおうかしくないのだが・・・こういった光景を見た時はいつも、何というか釈然としない。
「おう、おつかれコハク」
「ねぇ今日は変な笑い方してなかった?」
「少し前に戻った・・・かな?」
「ホント!?・・・もっと気を付けないとー・・・」
初めてこの光景を目の当たりにした人は勘違いしてしまいがちだが、彼女は裏表があるわけでもなければ腹黒いというわけでも無い。根はあくまで心優しい乙女なのだ。クードに慰められて微笑むその顔は世の男子諸君にとって抜群の破壊力を持っているだろう。
「・・・さ、時間もあれだし一度ギルドに戻ろうか!」
早く戻って新しい武器の発注をしなきゃいけないんだ、こんなところに長居している暇なんかない。・・・決してそこの二人から発せられている甘々な雰囲気に耐え切れなくなったわけでは無い。なんて様になってやがるんでしょうねあの二人は。
・・・なんでこんなところで敗北感を味わわにゃならんのか。もやもやとした感情にちょっとした違和感を感じつつ、その日の狩りは終了となった。
1‐6 ネガティブ
今回のイベントは広域エリアを使用したバトルロワイヤルらしい。前半と後半を二日に分けて行われ、それぞれの上位者には賞品があるとの事。なのでギルドの皆も張り切っていたし、かくいう俺もその賞品がほしくてほしくて仕方なくて柄にもなく気張っていたのだが、色々あったせいですっかりと忘れてしまっていたのだ。
イベント用の新しい武器の素材集めがひと段落し、現在は午後の1時。昼飯を食べ終わった俺はクーラーの効いたリビングでゴロゴロとしていた。例の実験からまた一週間経ち、イベントまで残り一週間。本当はレベル上げに勤しむべきなのだろうが、今日は武器を作ってもらう予定だったギルドのメンバーがログインしておらず、その上クードとコハクの二人も午後から用事があるそうなので早めのお開きとなってしまった。・・・ゲームに打ち込めるような気分でもなかったというのもあったのだが。
「うー・・・」
足をバタバタさせたりカーペットの上を転がりまわったりしても、頭にこびりついたもやもやが晴れることは無かった。何かを食べて気を紛らわそうにもご飯を食べたばかりなので入らないし、PCでネットサーフィンをする気分でもない。訳を探そうにもそもそも術がない。結局、その場で項垂れてうなるしかこの気分を紛らわせる方法はなかった。
しばらくそうやっていると、玄関のドアを開く音がして誰かが入ってきた。姉さんはまだ帰ってくるような時間ではないし、ほかに合鍵を持ているのは司のお父さんくらいだが・・・
「ただいまー」
「姉さん・・・おかえりー、今日は早いね?」
「言ってなかったっけ、早番だって」
そんな事言ってたような気がしないでもないような気がするような・・・?まぁ姉さんの仕事は結構不規則だから今更気にする程のことでもないか。
「そーだっけかー・・・」
「どうしたの、今日はやけに元気がないじゃない?」
「そー?そう見えるんならそうなんじゃない」
「ずいぶんと投げやりな・・・そうだ、気分転換に出かけない?あの時からまったく家から出てないでしょ」
気分転換ねぇ、確かに一人じゃ外には行けないしちょうどいい機会と言えばそうなんだけど・・・。
「ついでに服と下着も買いに行くつもりでしょ」
「あら、ばれてた・・・というかそれがメインなんだけどね。まだ無理そう?」
「いや、もう大丈夫だとおもう・・・けど」
「けど?」
「・・・・・・何でもない」
心に引っ掛かっていたモノがまた頭をもたげ始めたのを無理やり押し戻す。証明する術なんか持ってないし、どうしてなんて聞いたところで本当の事は言ってくれないだろう。結局、現実から目をそらし続けることしかできない。・・・だめだ、今日はどうも思考がネガティブな方へと行ってしまう。
「出かけるんですか・・・ふぁ・・・あ、お帰りなさい桜さん」
暗くなり始めた気分をどうにか立て直そうとしていると、司が目をこすりながら起きてきた。何故か今日はずっと眠そうにしている。お開きになった後も『仮眠するから起こさないで』とご飯も食べずに部屋に行ってしまっていた。
「うん、買い物に行こうと思って。司君も来る?」
「はい、それじゃ・・・準備してきまぅ・・・ふぁ」
いつもならほっこりするするようなやり取りでさえ、今日に限っては疑心暗鬼の元にしかならない。・・・なんで、どうして・・・何が本当で、何が偽物で・・・いろんなことが頭に次々浮かんでくる。
「優も顔洗って着替え・・・どうしたの優?」
いつの間にか、心配そうな顔をして姉さんがこっちを見ていた。その顔は、優しくて、どこか懐かしくて、前から何一つ変わらなくて・・・それがどうしようもなく怖かった。
「やっぱり・・・嫌だった?」
「違う・・・違う違う違う・・・!・・・・そうじゃない・・・」
「じゃぁ・・・・・・怖い?このまま生活していくのが・・・」
「・・・・・・」
俺の沈黙をどう受け取ったのか、ちょっと待っててと言ってどこかに行ってしまった。すぐに戻ってきた姉さんの手には、見覚えのない分厚い本が載せられていた。
「これは・・・アルバム?」
「そう、・・・・・・・これを見て」
姉さんが一枚だけ取り出して俺に見せた写真には、三人の子供が映っていた。おそらく姉さんであろう女の子の両側にいる子供を見た俺は、目を見開いた。
「この・・・二人は・・・?」
・・・似ている。帰ってくる答えはなんとなく予想がついたが、聞かずにはいられなかった。
「・・・ホントはね、もっと優が落ち着いてから見せるつもりだったんだけど・・・これはね、昔の優と司君なの」
「昔のって・・・でも・・・」
「今の二人とそっくりでしょ?正直、優一人を見たときはまだ信じられ無かったんだけど、司君を見て、二人の仕草を見てるうちにね、本当に二人なんじゃないかって」
懐かしむように写真を撫でる姉さんの表情は、どこか悲しそうだった。
「ごめんね、もっと早く言うべきだったのに・・・」
その顔を見た途端、さっきまでのもやもやが嘘のように吹き飛んでしまった。まったく、情けない。
「・・・!・・・優」
「ありがとう・・・姉さん」
それしか言えなかったけど、上手く伝わっただろうか。少し恥ずかしくなって姉さんから体を離す。
「さ、早くしないと司を待たせちゃうことになるし、準備しなきゃ。買い物、行くんでしょ?」
そういった俺はうまく笑えていただろうか。
いつの間にか、無意識に悲劇の主人公になったつもりにでもなっていたのかもしれない。すぐ近くで一緒に悩んでくれている人がいたというのに、辛いのは俺だけじゃないというのに、それに気づいていたはずなのに・・・本当に、まったくもって情けない。
聞きたいことは色々とあるが、また今度でもいいだろう。正直、まだ心の準備が出来ていない、出来るはずがなかった。でも、それでいいのかもしれない。ちゃんと前に進んでる、ほんの少しずつかもしれないけど、それでもしっかり進めている。
暗いよりも明るい方がいい、ネガティブなままでいると悪いことばっかり寄ってくる。いつかそんなことを言っていたお前は無駄にカッコよくて・・・こんなことを考えてしまうのはきっとこの体のせいだと思いたい。
司「俺の出番最近少なくね?」
主「いつか見せ場があると思うからダイジョーブじゃないかなー?(棒」
司「心配だ・・・」