1-2 心の傷 (修正版)
まだ現実編が続きます。
※5月31日
修正という名の全面書き直し
「ふぁぁ・・・」
寝不足で眠い目をこすりながら体を起こす。昨晩は全く寝付けなかったせいかとても眠い。過ぎてしまった事はしょうがない、とは分かっていても憂鬱な気分は晴れず、結局、記憶の最後にあるのは窓から見えたうっすらと明るくなり始めた空だった。
いくら後悔してもしたりない。俺があんなことしなければ、いつも通りにしていれば、こいつは・・・こんな事にはならなかったっていうのに。
「・・・んぅ・・・ゆ、ぅ・・・だぃ、じょぉ・・・ぶ・・・」
寝言でまで俺のことを心配してくれているこいつは、いったいどれほどお人好しなんだろうか。いつも俺の事を気にかけてくれて、助けてくれていたのに、俺はこいつのことを少しでも煩わしいと思ってしまった。
昨日の事なんか嘘のように穏やかに眠るお前が羨ましかった。どんな時も前向きで、どこまでも底抜けに明るいお前が、いつも眩しかった。そんなお前から逃げた俺は、結局お前に助けられて、挙句、道ずれにしてしまった。
お前までこんな事になる必要なんてなかったのに、俺と違って友達も多いし、夢や目標だってあったはずだろうに・・・どうして・・・お前は・・・。
1-2 心の傷
あの時、俺は外の景色を眺めるために屋上に来ていた。屋上から見える松林と浜辺、その向こうに広がる海、そのすべてがうっすらとオレンジ色に染まっていた。俺は放課後のここから見える眺めが好きだった、だからそんな景色を見れば少しは落ち着くだろうと思った。しかし今回に限ってそんなことはなく、もやもやとした感情が膨らむばかりだった。
「はぁ・・・・・・ってもうこんな時間か」
ふと時計を見ると、いつの間にか一時間ほど経過していた。暗い気分を無理やり頭の隅に追いやり、帰路に就こうと後ろを振り返った・・・・・・いや、正確には振り返ろうとした。
頬に鈍い痛みが走り、体がフェンスに叩き付けられた。口の中に広がる血の味と頬の痛みに眉を顰める。
「よぉ、久しぶりだなぁ?・・・なんだ、あいつと一緒じゃないのか?ハハハッ」
「あんまやりすぎんなよ、またあんな風になると今度こそやべぇから」
目の前に俺を殴った犯人であろう男子生徒が立っていた。まるで遊び道具を見つけた子供のように残酷な笑みを浮かべてこっちを睨むその二人の顔に見覚えはない。だが、向うは口ぶりからして俺のことを知っているようだった。
頭の中で心臓の音が警告の如く鳴り響く。こいらと関っちゃいけない、早く逃げないと。・・・けれど体が言うことを聞かず、震えて一歩も動くことが出来なかった。
「・・・昔と何にも変わってねぇなぁ?いつもそうやってガタガタ震えて、あいつに守ってもらわないと何もできない。キメェんだよ、男のくせによぉ!」
やたらガタイのいい方の男子が俺の髪を掴んでフェンスに押し付け、鳩尾を思いっきり殴った。肺の中の空気が一気に吐き出されて一瞬苦しくなる。
その後も何発も顔や鳩尾を殴られた。何か喚いていた様だったが、恐怖や痛みのせいか、何を言っていたのかまったく覚えていない。
気づいたときには、髪を引っ張られる感覚やフェンスに押し付けられる痛みは無くなっていた。いつの間にか、俺の事を殴っていた男子二人も居なくなっていた。代わりに感じるのは、誰かに抱きしめられている暖かさと体中を包み込む安心感だった。
「つか・・・さ・・・?」
「もう大丈夫だ、俺がついてる・・・・・・立てるか?」
俺から離れ手を差し伸べてくる。その手を取ろうとして、躊躇った。俺はこいつ・・・司から逃げたんだ。羨ましくて、眩しくて、妬ましく思ってしまった自分が嫌で・・・どうしていいか分からなくなって、SHRが終わってすぐに教室を飛び出した。それなのに、助けてくれたのは司で、しかも頬には殴られた痕までできていて・・・。素直に手を取ることなんて出来なかった。
・・・・・・・・・その時躊躇っていなければ、司まで巻き込むことにはならなかったのに。
「足・・・怪我してるのか?」
「・・・ぁ・・・ごめん・・・大丈夫」
司の言葉にハッとして、再び差しのべられた手を取ろうとした。
「とにかく、保健室に行くか・・・・って優!!」
しかし、伸ばした手は司の手を掴むことは無かった。ガキンッと音を立てフェンスが壊れ、俺は後ろに転がるように宙に投げ出された。
「優!!!」
身を乗り出した司が俺の手をつかんだ。しかし、体を半分宙に浮かせた状態では支えきれずに少しずつずり下がってく。このままでは司まで落ちてしまうのは時間の問題だった。
「・・・その手・・・放してっ・・・じゃないと・・・」
「馬鹿野郎!!そんなことできるか!!まってろ、今引き上げて・・・」
口ではそう言っていても、体は重力に逆らえずに段々と下がっていく。どうしてそこまでしてくれるの?おねがいだからそのてをはなしてよ、じゃないと・・・つかさまで・・・・・・
◇
「大丈夫だ、俺たちは生きてる、お前のせいなんかじゃない」
いつの間にか抱きしめられ、頭をなでられていた。けど恥ずかしさはなく、いつまでもこうされていたいと思わせる安心感が体を包み込む。
「落ち着いたか?」
「・・・うん、なんとか」
そう言うと、緋色の髪の少女に成り果てた司は俺から体を離し大げさなため息をついた。
「まったく・・・目覚めてベットから降りたら目の前で白髪の少女が頭抱えてガタガタ震えてるとか・・・マジで心臓止まるかと思ったわ」
「ごめん・・・でも、大丈夫だから」
「そっか、ならいいんだが。・・・あー、とりあえず顔洗ってきたらどうだ、ひでぇ顔してるぞ?」
ちらりを鏡を見る。うわぁ、涙で顔がぐっしゃぐしゃだ・・・
「ん・・・いってくる」
「おう。あぁ、そういえばさっきお前の姉さんが飯だって呼んでたから、終わったら来いよー」
一階に降り、顔を洗いながら考える。罪悪感は消えないし不安も尽きない。あいつを、『八木 司』をあんな風にしてしまったのは俺だ。次から次へと後悔が浮かんでくる。
両手で頬をたたいて気持ちを切り替える。そんなネガティブに考えたって仕方ない、形はどうであれ、俺たちは生きてる。そう生きてるんだ。なら借りを返せる時だっていつか来るはずだ。わがままだってわかってる、けど、今は司や姉さんを頼らせてもらおう。またあんなことになったら、それこそ取り返しのつかないことになってしまう。神様がくれたであろうチャンスを無駄にしたくはない。
置いてあったタオルで顔を拭き、洗面所を出る。今日の朝飯は何だろうか。俺は少しだけ軽くなった足取りでダイニングに向かった。
・・・・・・前言撤回。出来るだけ早く自立しよう。そんでいつか仕返ししてやる。二人して寝顔についていじり倒してくる姉と司を、茹蛸のように真っ赤になりながら睨みつけつつそう誓った。涙目になってるのは体が女の子になってるからだと思いたい・・・。
姉さん全カット&いじめっ子一人降板&気持ち悪さダウン
姉さんのカット分に関してはいずれ別の形で出てくるかも・・・(遠い目
つかさ の やさしさ が アップした!
とくぎ:バファリン を おぼえた!
真面目に作れそうな勢いでやさしい司君まじ天使
次回はついに・・・ッ! 期待せずに待っていてください( ・ω・)ノ