1‐1 困惑
叶ったらいいなぁと思っていたことが叶えば、誰だって嬉しいと思う。ただし、それは面倒事が付随しないという前提があればの話だ。
どうしてこうなった。俺が現状を何とか把握し最初に放った言葉だ。別に今の状況が嫌というわけではないのだが、いきなりこんな『ふぁんたじー』な状況に放り込まれたら誰だって混乱する。しないやつがいたら見てみたい。・・・夢だと疑って四度寝した俺は間違ってない。
頬をつねるというお決まりの、それでいて不毛な行いをひとしきり繰り返した後、考えるのを諦めて仰向きでベットにダイブする。すると、さらさらとした長髪が顔に覆いかぶさる。そのくすぐったさと、引っ張ったときの頭皮に走る痛みがこれが夢じゃないと否が応でも認識させてくる。
鏡はもう何十辺も見直した。そのたびに問答無用に突きつけられる現実にため息を漏らした。目の前の鏡はもう少し慈悲というものを学んだ方がいい。まったく俺が何をしたというのか。神は俺に何か恨みでもあるのだろうか?自分の体について少しくらいは恨み節を言ったことはあったが・・・にしても酷過ぎじゃぁありませんか?
何度も言うが、別に今の状況が嫌というわけではない。ただ、この状況に伴うリスクが大きすぎるのだ。目が覚めたら体が何とやら・・・なんてのはフィクションの中だけの話しであって現実にはあり得ない話で、絶対に起こっちゃいけないことだ。自分ですら状況整理にほぼ半日(ほぼ寝てただけ)を要したというのに、それをそう簡単に他人が信じてくれるなんて、とてもじゃないが思えない。
体を起こし、どうにもならないと思いつつもまた鏡の前に行く。そしてもう何度目かもわからないため息をつく。
鏡には、酷くダボダボのスウェットを着た少女が映るだけだった。
とらんす れぐれっしょん?
1‐1 困惑
俺の名前は上泉 優。傍から見れば一般的な高三男子・・・だった。傍から見れば・・・というのは、俺には両親がいないからだ。小学校5年生の時に交通事故で亡くなったらしい。これは年の離れた姉から聞いた話だ。
名前だけなら女の子に間違われそうだが、別に女顔というわけではないのでそういった経験はない。友人曰く『外見は中の中の下、もう少しを肉つけろ』だそうだ。間違っても鏡の中の、『ふっくらと幼さを残しつつも整った顔立ちで灰白色の長髪をした、上司に面倒事を押し付けられた新入社員のようにげっそりとした表情の少女』などではない。いや、そんな状況の人なんて見たことないんだけどね。イメージだよイメージ。
あーだめだ、頭がうまく働かない。色々あって疲れてるのだろうか。誰に言うでもなく自己紹介を始めてしまうとは・・・。早く寝よう、どうせ明日は休みだ。やんなきゃいけないこともないし時間はたっぷりある。・・・現実逃避だって?一時休戦と言っていただきたいな。
ベットに寝転がって布団をかぶる。すると、さっきまであれだけ寝てたにもかかわらずすぐに意識が微睡んでいく。予想以上に疲れていたらしい。これなら羊を数える必要はなさそうだ。羊たちも余計な仕事が増えなくてほっとしているだろう。
意識が遠くなっていく中、ふと親友の顔が頭に浮かぶ。びくびくして塞ぎ込んでいた俺に手を差し伸べてくれた、初めての友達。あいつが今の姿見たらどんな顔するかな?明日は土曜日だし、信じさせるためのネタを考えとかないと・・・
「・・・ん?」
強烈な違和感と寒気を覚え、思わず声を出した。ベットから飛び起きて机の上の携帯を確認する。金曜日、長期休暇でもないし今日は学校があったはずだ。登校した記憶もある。なのになぜおれば家にいるのか。・・・いや問題はそこじゃない。
・・・・・・学校にいる間に何があった?・・・・・・
不安とも恐怖ともつかない感情が頭を埋め尽くし、その場にうずくまる。思い出したのは、必死は顔でこっちを見つめ死に物狂いでこちらに手を伸ばすあいつの姿・・・それが学校の何処かはわからない。
これ以上思い出してはならない、とでも言うように頭に痛みが走る。息が詰まり呼吸がうまくできなくなって、心臓が激しく波打った。
あの頃とまったく同じ感覚。・・・・・・それは最悪の事態を意味していた。
俺は、しばらく震えていることしかできなかった。
いきなりシリアス・・・(;^ω^)
主は筆が遅いので次の更新はいつになるのか・・・カイ先生の次回作のご期待ください!!(おい