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エンドロール・サガ  作者: 網笠せい
第九章 月龍哭す
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第九章 月龍哭す 第三話

 先ほど届けられたばかりのメモを手にとって、ロイス・ロッシュは眉間に深く皺を刻んだ。何度も確かめるが、嫌な知らせは変わりない。メモを運んできた兵が背を伸ばして身体を固くしているのを一瞥し、「各拠点の兵をここに集めてくれ」と告げて下がらせる。指を組んで額に押し当て、目を閉じた。


 ──終わりか。


 感傷的になる自分を追いやる。メモの内容を新皇帝に伝えに行かなければならない。部屋を出て廊下を進むと、小さなホールに出た。階段の足音に顔を上げて、ロイは両肩に乗っていた気だるい空気を一掃する。海軍少将、アルフォンス・クーベリックがロイに気付いて片手を上げた。ロイは胸を張り、小さく敬礼した。


「情報はそっちにも入ってんだよな?」

「この上なく悪い情報ならね」


 いつものように笑おうとしても、ロイの頬には自嘲しか浮かばなかった。提督は灰色の髪に指を入れ、わしゃわしゃとかきむしってため息をつく。

 アスハトが暗殺されたという報せは、ハルシアナにも届いていた。暗殺犯はよくわからないままだ。おそらく戦争のごたごたに紛れて処理されるだろう。

 アスハトは自分のことを現人神だと言っていたそうだ。国王より上の立場の者を、あのクラウスが残しておくとは思えない。かと言って、教祖の死に噴き上がっているアスハト教徒たちに「暗殺事件の黒幕はクラウスだ」と伝えたところで、まともに動けはしないだろう。王国軍からの分離工作がうまくいくとは思えない。死病で一度死んで復活したと喧伝していたアスハトが死んでしまったことで現人神神話が崩壊し、求心力を失ってしまったようだ。

 ロイは各地に放った工作班を呼び戻すより(ほか)なくなった。


「俺の策がまずかったんです。帝国再興の芽は、もうない」


 ロイはアルフォンスから目をそらしたまま、顔を見ようともしない。つい先日までたくさんの足音が行き交っていた階段は、今や陸海の巨頭の言葉をむなしく反響させるだけだ。自分たち以外に誰もいない階段をながめていると、気が重くなった。


「気を落とすんじゃねぇよ。お前には自信過剰なくらいが似合ってる。らしくねぇ」

「あんたはこうなることを望んでたじゃないですか。慰めなんてやめてください」


 それほど遠くない場所から、大砲の音が聞こえてくる。

 表情を凍らせて、誰にも気取られないように虚勢をはる。踊りつづけることにも、幕を引くことにも勇気がいる。降伏宣言を出せば、帝国兵たちは拠り所を失くすだろう。やりきれないが、このまま戦って全軍玉砕させるよりはいい。


「あのなぁ。人がせっかく……」

「兵を逃亡させたあんたなんかに慰められたくないね。恭順派なら恭順派らしく、大切な兵士のために潜伏先や逃亡方法を考えてやればいい」

「すねるなよ」

「まさか」


 ロイは肩をすくめていつものように不敵な笑みを浮かべようとする。うまくいかない。消耗している自分を痛いほど感じながら、ロイは弱々しく笑った。


「お前の策が特別悪かったわけじゃねぇ。俺がお前のしたように帝国を第一に考えてりゃ、状況は変わってたかもしれん。でもな、国は民が作るもんだ」

「あのとき、もしこうしていたら……なんて女々しいことを言うんですか? クラウスは俺より一枚上手だった。だから後手に回らざるおえなかった。ただ、それだけですよ」


 ロイはライエル大尉に憧れて軍人になった。そのうち、自分の育った街を守りたいと、ロイにしては珍しく殊勝なことを思うようになった。いいことも悪いことも含めたすべてをロイス・ロッシュに教えたのは、皇都モルティアの街だった。



 ──僕はときどき、ローズちゃんが心配になるよ。自分の手が届く範囲をすべて、守りたくなっちゃうだろう? でもそれはよくない。優先順位をつけなさい。傷ついたローズちゃんなんて、僕は見たくないから。


 かごを編んでいたライエル中将は、ぽっきり折れてしまった蔦をくるくると回しながらそう言った。確かあれは、洗濯かごを作ろうとしていたのだったか。

 皇都モルティアは今や王国軍の支配下にあるが、戦禍からは免れた。自分が関わらないことで守れるのなら、ロイス・ロッシュは遠く離れて思いを馳せることを選ぶ。

 ふと、養母と同じ名前をもつ少女のことを思い出した。明るい栗色の髪が、光の加減によってくすんだ金色にも見えたことを思い出す。彼女は無事にハルシアナから逃げられただろうか。ハルシアナから脱出する商家に皇都までの面倒を頼んだが、雪原の向こうから聞こえるのは大砲と兵士の叫び声ばかりで不安になった。


「もう戦わねぇよな?」


 隻眼の提督の声に、ロイス・ロッシュは我に返った。わずかに言葉をにごして答える。


「……今から陛下に進言しに行くところです」


 このまま戦いつづけても、帝国が得られるものは何もないだろう。ロイは判断を皇帝に委ねるつもりでいた。帝国としては、白旗をあげることになっても構わない。ただ、上がどういう判断をしようと、ロイス・ロッシュ自身に降伏する気はなかった。抗戦を望む兵を連れて、徹底的に戦うつもりだった。


「そうか。じゃあ、降伏の交渉はお前に任せる」


 明るい声でそう告げて、アルフォンスは穏やかに笑った。ロイは目を瞠って、息をのむ。交渉は当然のように、アルフォンス・クーベリックがやるものだと考えていた。降伏の交渉役になれば、生存確率は上がる。なにより、一将官でいるよりもずっと兵の命を助けやすくなる。アルフォンスが交渉を引き受け、ロイが徹底抗戦する──それが互いの利害が一致する、最もいい形だとばかり思っていた。


「あんたはずっと降伏を望んでた。交渉はあんたがやるべきだ」

「甘えんな」


 ロイより頭一つ分高い場所から降ってきた声は、冬の波飛沫のように冷たかった。


「お前がこの戦いを長引かせたんじゃねえか。自分のしたことくらい、自分で始末をつけろ」


 提督は悪態をついているが、ロッシュまで助けようとしている。ロイはそう直感した。


「提督は、どうするんです」


 聞きたくない言葉が真っ先に思い浮かぶのを否定する。それでも胸騒ぎはおさまらない。


「出るよ、戦場に」

「笑えない冗談だな……」


 くすんだ青の軍服が、やけに鮮やかに見えた。

 こめかみに手を当てて、ロイは再度たずねようと口を開く。アルフォンスはそれを制するように笑った。


「お前も知ってる通り、降伏を潔しとしない連中が、結構いるんでね」

「あんた……」


 死ぬ気かとはたずねられず、ロイは言葉を飲みこんだ。


「あんたの力を必要としている兵は、まだいる」


 降伏すると決めた以上、アルフォンス・クーベリックほど頼りになる存在はいない。

 思い描く内容も、目指す先も違う。それでもロイにとって、アルフォンス・クーベリックは認められる人物の一人に違いなかった。


「お前の言う逃走兵のことか? もう皆逃げたよ。残ってんのは命知らずの連中ばかりだ。それにな、俺はハルシアナに来た軍人の中で一番上の立場にある。首謀者と見なされて首を飛ばされるのがオチだ。どう足掻いたって助かりゃしねぇんなら、暴れてから逝くさ」


 提督を否定する言葉を飲みこんで、ロイは奥歯を噛みしめる。


「あんたはずっと武力衝突を避けようとして来た。そんなあんたが、何故今戦う必要がある?」


 怒りがロイの中からあふれていく。殴れるものなら殴ってやりたい。


「どうしてあんたが逝かなきゃならないんだ」


 最後まで飲みこみつづけた声を搾りだすと、灰色の髪の提督は静かに息を吐いた。


「お前こそ死に急ぐな。とことん生きて、とことん苦しめ。死に逃げるな」


 提督の茶色の瞳にすべて見透かされているような気がして、ロイは息を詰まらせた。


 ──冷たいのは仕方ない。月はすでに死んでいるんだから。


 いつか誰かに告げた言葉を思い出す。相手が誰だったかは忘れてしまったけれど、自分が何気なく返した言葉をしっかり覚えている。

 ロイス・ロッシュという人間は、とうの昔に死んでいる気がする。

 一人、また一人と大切な人を亡くすたびに、ロイは自分が死者の後を追っていくような錯覚を起こした。そうして徐々に生の実感を感じなくなった。子供の頃に生に執着したロイは刹那的な快楽を求め、やりたいことをやりたいようにやった──心の底で何者にも心を動かされないことを望み、同時に誰かが心を動かしてくれることをうっすらと望みながら。


「あんたはどうなんです。自分は死に逃げてはいないと?」

「俺は単に、王国が気に入らねぇだけさ」


 おさまりの悪い灰色の髪をぐしゃぐしゃとかきまわしながら、アルフォンスが照れたようにそっぽを向く。


「今まで恭順を選んで来たのは民や兵のためで、自分のためじゃねえ。最期っくらい、自分のために動いたっていいだろう?」


 交渉役として本営に残れば、戦場へ赴くことなく終戦を迎えることになる。抗戦派として手腕をふるったロイが降伏し、恭順派であったアルフォンスが戦場へ向かう。まるで道理に適わない。


「その顔、納得してねぇなぁ。元はと言えば、戦艦セラフィナイト号を強奪された海軍が悪いんだ。気にすんな」


 提督の決意がすでに揺るぎないものであることを知って、ロイは何度か開きかけた口を完全に閉ざした。


「じゃあな」


 来たときと同じように軽く手をあげて去る提督に、銀髪の中佐は背を伸ばして最敬礼をする。長身の後ろ姿が階段の向こうに完全に消えるまで、ロイはその姿勢を崩さなかった。

 足音が聞こえなくなった頃、ロイは徐々に敬礼をといた。重い両腕が両肩からぶら下がっている。

 自分が指揮をとることで誰かが戦場へ向かい、そのうちの何割かが死ぬのは当たり前のことだ。提督のことも、その一つに過ぎない。それでも少年皇帝の部屋へ向かうロイの足取りは、いつもより遅く重いものになった。

 ホールを通り抜けて廊下を行くと、扉の向こうから言い争いが聞こえるのに気付いた。


「母上! 何をなさるのです!」


 ノックをするべく上げた手が途中で止まる。ドアノブをひねって入室した。暖かな空気が冷たい廊下に流れ出て、一瞬別世界に踏みこんだような錯覚をする。

 少年皇帝オフィリア・ライズランド、皇帝生母マリー・ライズランド、それから──今、自分が最も大切に想っている少女……アルベルティーヌ・へーゼル。


 ……なぜ、ベルがここに?


 ロイの疑問が言葉になる前に、皇帝生母は毅然と微笑んだ。


「ロイス・ロッシュ、ちょうどよいところに来ました」


 緑色の宝石のついた指輪をなで、かつて後宮の女帝と呼ばれた女は陰鬱な声を出した。


「あなたにオフィリアを託します。必ず、この子を守って頂戴」

「母上、今になってもまだそのような命乞いをなさいますか! もはや我々には、降伏しか残されてはいないというのに!」


 憤怒に満ちた声はオフィリアのものだ。ロイは状況が飲みこめずに、ただ呆然と養母と同じ名前の少女を見つめた。数週間前に商家へ預けたはずの彼女が、なぜここにいるのだろう。少女はロイを見ようとしない。ときおり横目で様子を伺うようにしては、すぐに視線をそらす。

 マリーの右手から緑の宝石が転げ落ちた。左腕を少女に絡めて、マリー・ライズランドは青い瞳に狂気を宿す。


「ロッシュ、オフィリアを守ると、今ここで私と、この娘に誓いなさい」


 陰鬱な声に含まれる鬼気に、ロイの背筋が凍った。嫌な予感に肌が粟立つ。


「おそれながら……オフィリア様のおっしゃるとおり、帝国再興の望みは断たれました。もちろん、オフィリア様をお守りすることは帝国軍人である以上、最優先で考えます。しかしこの局面で、お約束することはできません」


 赤いじゅうたんに触れるほど深く頭を垂れたロイを一瞥して、女帝は喉を鳴らした。やがて銀髪の中佐の背に、一際高い笑い声が降ってきた。思わず顔を上げる。女帝の左手が、そっと少女の頬をなでている。少女はなおもロイの目を見ない。


「私の首なら、王国にくれてやりましょう。けれどオフィリアの首は渡さない。私はこの子を守るためなら、厭うことなどないのだから!」

「母上、これ以上繰言を言ったところで無様なだけです! ロッシュ、母上を止めよ!」


 若き皇帝の声が終わる前に、皇帝生母は右手の指輪をあおった。

 一瞬の出来事だった。指輪に仕込んだ自害用の毒を飲んで、後宮の女帝は艶然と微笑んだ。ロイはそれを呆然と見守ることしかできない。


「オフィリア、繰言などではなくてよ。先ほどあなたが助かる方法を話したでしょう……?」

「母上、あのような戯言は!」


 マリーは唇から血の泡を吐きながら、幸福そうに目を細めて笑った。


「そのために、わざわざこの娘を呼び戻したのではないの」


 深い青のドレスに、吐血の赤黒い染みが広がる。少女は血を浴びながら怯えもせず、静かにロイを見据えた。


「この娘こそが正当なるライズランド帝国第十二代皇帝、オフィリア・ライズランドよ!」


 マリーの高らかな笑い声がこだました。その言葉が意味することを、ロイはようやく理解した。瞬時にベルへと手を伸ばす。女帝が少女を捕らえようと伸ばした爪を払いのけて、少女を抱き寄せた。

 マリー・ライズランドは血を吐き出して、後ろ向きに倒れた。床の上でわずかに痙攣していた身体が、徐々に動きをなくしていく。


「母上……」


 オフィリアはその様子を悲痛な表情で見下ろしていた。


「ベル、気にするな」


 腕をほどくと今にも死者にさらわれていきそうな気がして、ロイは少女を強く抱きしめた。

 そのうち少女の肩から力が抜けて、小さな頭がロイの胸に預けられるだろう。そうして気持ちが落ち着くのを待てば、少女はいつものように愛らしい笑みを浮かべてくれるはずだ。

 ロイが少女の顔をのぞきこむ。少女は大人びた微笑をみせ、ロイの胸を押し返した。


「ロッシュさま、大丈夫です」


 自分に預けられるはずの重さが腕の中から離れていく。不安に駆られて手を伸ばすが、まるで幻に触れるように、ロイの腕は少女を捕らえられなかった。

 青い石が、足元に転がった。

 転がった宝石と、咳きこむ少女と、絶望に叫ぶ少年皇帝。見えているようで何も見えてはいない。


「吐け!」


 ロイは叫んだ。帝国も兵士も、戦友さえも忘れて、ただ叫んでいた。頭の中が真っ白になる。


「毒を吐け!」


 少女の肩を激しくつかんで、口元に指を伸ばす。指を突っ込んで無理にでも吐かせようとするが、きつく閉ざされた唇は、ロイを拒んだ。


「ベル、頼むから、吐いてくれっ」


 咳と同時に、少女の唇で赤い泡が弾けた。残された時間が少ないことは誰の目にも明らかだったが、ロイはそれを認めない。同じことをくりかえし呼びかけ、段々と力を失くしていく少女を抱き起こす。


「マリーさまが私の首をオフィリアさまの首にしようとしたように、自分の命を絶ったように……私も……ロッシュさまが助かるならなんでもします。マリーさまと私の首があれば、ロッシュさまとオフィリアさまは助かるかもしれない」

「ベル……吐け……毒、吐けよ……」


 懇願は力なく、うわごとのようにくりかえされる。少女はふと穏やかな顔をして、銀色の鍵を胸の上で握りしめた。


「大人に、なれなくて……ごめんなさい。鍵、お返ししま……」


 かすれた声が最期の言葉になった。ロイは肩を震わせるように一つ息を吸いこんで、少女の両手をそっと握りしめた。

 まだぬくもりが残っていた。けれどそこには、もう拍動がない。鼻の奥がつんとした。少女の遺体に向けて、かけたい言葉が何一つ見つからなかった。少女のさまざまな顔を見てきたはずなのに、どれ一つとして思い出せなかった。

 ロイは少女に、ただ側にあることを望んだ。妹として、娘として、友人として……共に穏やかな時を過ごしたいと願った。


 ──これが愛だというのなら、こんなもの、俺はいらない。


 助けてくれと頼んだ覚えはない。皇都モルティアと同じように、自分が関わらないことで守れるならと手を離したのに。ただ無事で、健やかに成長してくれることだけを望んでいたのというのに。

 首を振って立ち上がる。少女の元を離れて部屋を出ようとするロイス・ロッシュに、オフィリアは涙に濡れた顔を上げた。


「衛兵、二人の首を切れ。それから身体は火葬に。その後は雪の奥深くに埋めてくれ」


 言葉少なに命令したロイに、少年皇帝は眉を跳ねあげた。


「ロッシュ、お前、何を言っている……!」


 嗚咽まじりの怒声がロイをなじる。そこまでされても、ロイは涙を流さない。怒涛のような悲しみが襲ってきているはずなのに、真っ白な世界にただ一人取り残されたような思いがした。


「やめろ! 二人の首を切ることは私が許さない!」


 緑色の瞳が怒りに燃えるのを無感動にながめながら、ロイは重い口を開いた。


「陛下はたった今、ここでお隠れになった。アルベルティーヌ、陛下のふりをするのはやめなさい」

「黙れ! お前は悲しくないのか!」


 ロイは殴りかかってくる少年皇帝の手を受けながら、静かに少女の死体を見下ろした。唇からあふれた血さえなければ、眠るように横たわっている。不意に激しい怒りがわいた。何一つ守れなかった自分への怒りだった。少年皇帝の緑色の瞳を真正面から見据える。思うより低い声が出た。


「二人が何のために命を絶ったのか、よく考えてください」

「お前には血も涙もないのか!」


 殴りかかる腕を避けもせず、ロイは淡々と告げた。


「俺の立てた作戦で何人も死んだ。何人もあなたのように悲しませた。俺のような奪った側の人間は、泣いてはいけないんです。だから俺は泣けない」


 吐き出す場所のない感情が自分の中に渦巻いて、内臓がぎしぎしと音をたてた。

 言葉をなくした少年を置いて、ロイは血の臭いのあふれる部屋を出た。壁を殴る気力すらない。よろめいた身体を支えるために伸ばした手に、自然と力がこもる。苦しさも哀しさもすべて背に乗せたまま、ロイス・ロッシュは喘ぐように息を吸いこんだ。

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