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第1話 ドゥエーリへ

 星歴3580年

 惑星ドゥエーリにて


 ───旅の果てに何を見つける?


 ガタガタと小刻みに揺れる軌道エレベーターへ向かう列車の中で、()は心の中で小さく呟いた。



 数時間前───



 俺の名前はアーサー。

 傭兵としての偽名はアルスだ。


 自分の記憶を探すため、傭兵として宛の無い旅を続けていた。

 難民救助、ゲリラの拠点襲撃、独裁者の暗殺…大体ろくでもない依頼ばかり押し付けられて嫌々実行してきた。

 そんなやりがいの無い仕事をしていると、ある日帝国軍から暗号通信で1つ依頼が届いた。

 内容は惑星ドゥエーリに建てられている“コロシアム”という施設ついて調べて欲しいという依頼だった。


 「わざわざ帝国軍のお偉い様から施設調査の以来か。」


 これまで帝国軍から依頼は来たことはあるが内容が怪しかったり報酬が少なかったり。

 帝国軍は傭兵を使い捨ての駒とでも思ってんだろうか?

 まぁ使い捨てか。


 そんなとこより依頼だ。

 普段なら帝国からの依頼は大体中身を見てからスルーするのだが今回の件はちょっと違う。

 報酬が金貨10枚と何故か異様に高い。

 これだけあれば2か月は遊んで暮らせる額だ。


 「···会ってみるか?」


 そう決意し俺は傭兵支援のギルドへ小型の船を1隻欲しいと連絡を入れた。

 待つこと数分、指定したギルドの支部へ船が届いたと連絡が来た。

 俺は足早にギルドへ向かう。


 「アルス(アーサー)だ。さっき連絡した小型船はあるか?」


 「確認しました。登録IDの確認をしてもよろしいでしょうか?」


 ギルドの受付嬢にIDカードを渡す。

 受付嬢は慣れた手つきで機械との照会を行っている。


 「···確認しました。登録コード4k-26h、傭兵ランクBのアルス様…で間違えないでしょうか?」


 「ああ。」


 「あちらの4番ドックに小型船を停めてあります。()()で使うようであれば壊さないようにお願いします。」


 そう言って受付嬢は小さく微笑む。


 あんな顔をしているが本職は傭兵な気がするな。

 そんなことを考えながら俺は指定されたドックへ向かった。


 そこにあったのはかつてレジスタンスが使っていただろうと思われる船だった。

 レジスタンスのマークが傭兵ギルドのマークに上書きされている。


 「ナビシステムと転移装置、それと武装以外は全て一世代前の型落ちか。戦闘する気は無いし、使う分には問題ないな。」


 転移装置の座標を惑星ドゥエーリへ設定する。

 転移に掛かる時間は約5時間。

 軍用ならばルート割り込みで1分未満で転移できるが、これは市販の物を魔改造してるものだがそれでも早い方だ。


 「···武器のメンテだけして仮眠でも取ろう。」


 お古のハンドガンのメンテと弾薬のチェック、ナイフの研磨と流動性ボディアーマーの動作確認…


 最後はこいつ。

 何故か記憶をなくした後持っていたこの剣だ。

 持ち手だけしかないけど、魔力を適切に流すと刀身が顕現する。

 こいつを握る度頭に強い違和感を感じる。

 俺からすれば呪いの品物だ。


 そんな剣を腰のホルダーへしまい、転送装置を起動して俺は短い眠りに落ちたのだった。








 見渡す限り真っ暗な場所。

 波の音がする。

 またあの夢だ。

 

 「···いるなら出てこいよ。」


 波の音がどんどん大きくなる。

 すると暗闇から白髪の血塗れの女性が現れた。

 目は何故か相変わらず見えない。

 白い髪をなびかせてこちらへ歩いてくる。


 「まだ思い出せない?私を()()()こと。」


 「···あんたは俺の記憶を持ってるんだろ、いい加減返してくれないか。」


 女はゆっくりと歩み寄って俺の顎を掴む。

 その手はとても冷たかった。


 「まだダメよ。貴方には足りないものがあるもの。」


 「何が足りない?」


 「それを探すのが貴方の旅の目的の1つでしょう?記憶と感情、それに…あとは内緒。」


 曖昧すぎる。

 せめてヒントの1つくらい欲しいところだが願ったところで無意味だろうな。

 まだいくつか質問があるが。


 「でも残念ね、もう時間みたい。」


 「待て、次は───」


 次はいつ来る気だ。と言う気だったが聞くつもりが無いようだ。

 真っ暗だった周りにポツポツと白い光が現れ始める。


 「─────さぁ、起きて。」








 機械の警告音に目を覚ます。

 時計を見ると5時間寝ていたようだ。

 眠たい体を動かしレーダーを開く。

 戦闘機が2機こちらへ迫ってきていた。


 「マズイ、警備隊か。ここで航空戦(ドッグファイト)したら確実負ける自信あるぞこれ。」


 俺は航空機の操縦は大して得意じゃない

 どうすればいい?

 いくつか対処法を考えたが戦うのはろくなことにならない気がした。

 

 そうして後ろから来る警備隊に対してオープン回線で話しかける。


 「惑星警備隊聞こえるか。こちらはただの旅行客だ、戦闘の意思は無い。船と俺のIDを送るので照会してもらいたい。」


 ただの旅行客とかいうわかりやすい嘘をついてみたがいけるか?

 ダメなら戦うしか───


 データ送信直後、戦闘機が減速した。

 

 《データを確認した。1つ質問があるがいいかね?》


 「構いませんが…何か?」


 《その船はレジスタンスがかつて運用していた輸送戦闘機だが、一体どこでそれを手に入れた?》


 「これは俺の船じゃない。旅行用にレンタルしただけです。海賊に襲われると面倒なので一応武装してるだけだ。武装データも送ってあります。」


 そう答えると無線がしばらく返ってこなくなった。

 ただ船のすぐ横にピッタリ着いてきてるからまだ油断出来ない。


 《···了解した。今から君を宇宙港へ誘導する。チャンネル周波数はそのままでいい。》


 戦闘機が船の先頭へ行き誘導灯を点滅させ始める。

 そのまま誘導され、少し進むと衛星軌道上に大きな建造物が姿を現す。


 《誘導はここまでだ、指定ドックは38番を使用してくれ。ドックに近づいたら誘導員が光信号で指示を出すからそれに従え。》


 《良い旅を。》


 2機の戦闘機は反転し、すぐ見えなくなるまで加速した。

 どうやら無事誤魔化せたらしい。

 光信号を見つけ、ドックに入港する。


 「擬似重力か、凄いな。」


 大抵これほどの大型施設であれば荷物の運搬が大変なため無重量の状態であることが多い。

 だが見る限りでは荷物の運搬にはロボットを採用しているらしく、用途別に準備されてる感じがする。


 そんなことを考えていると案内員の男性が近づいてきた。


 「ようこそ惑星ドゥエーリへ。私は案内員のSS18と申します。入港時のオプションはどれかご利用になられますか?」


 案内員から端末を手渡しされた。

 端末には燃料の補充、船の修理、弾薬の補充、ペイントなどいくつかサービスが記載されていた。


 「ジェネレーターオイルと燃料の補充を満タンまでお願いしたい。」


 「かしこまりました。担当の者に指示しておきます。」


 端末を返しドックを後にする。

 案内員に連れられロビーへ案内された。


 「今回はどんな御用で?」


 「旅行だ。場所は首都付近かな。」


 そう言うと案内員は少し考えた後に口を開いた。


 「首都へ向かうのであれば次の次の時間の軌道エレベーターに乗って地上へ着いたら首都行きの列車へ乗られるのが良いと思いますね。」


 「次の次?どうして?」


 「その時間であれば地上から15分で首都行きの列車が出ますのでタイミングが良いかと思いましたので。」


 確かにそうだな。

 予定の面会まであと2時間を切ってる。

 相手より早めに着いておくのも多分()()って言うやつだと思う。


 案内員に聞いた通りにチケットを2枚、ついでにパンフレットを購入して軌道エレベーターへ向かう。


 「───では案内はここまでになります。何かご質問はありますか?」


 「大丈夫です、ご丁寧にありがとうごさい…あ、1つだけあります。このコロシアム(闘技場)っていうのは書いてあるそのままの意味ですか?」


 そう質問すると案内員はクスッと笑い答えた。


 「書いてある通りですよ。あとは地上に着いてからのお楽しみってやつです。」


 最後に一礼して案内員と別れたあと、軌道エレベーターに乗り込んだ。

 指定された席に座りシートベルトを閉める。

 軌道エレベーターはそのまま降下をし始めた。


 「これが軌道エレベーター、人類の技術の結晶なのか。帝国支配下の大型の商業惑星は成功すると莫大な金を得ると聞いていたがここまでか。」


 今まで見てきた惑星ごとに技術力の差があったがここまで謙虚に違うのは初めてだった。

 帝国に支配されている恩恵でもある。


 軌道エレベーターが地上へ到着しそのまま駅へ向かう。

 道中パンフレットを見ながら歩き続ける。


 今回の依頼で出てきた施設、“コロシアム“とは安全な闘技場として有名で、観光客が多い

 一対一の決闘、複数対複数のマルチバトル、相手の気絶や武器の破壊が勝利条件になっている。

 何か危険な行為やルール違反が発生した際には専属の魔法使いが即座に試合と中止し、対処することが可能。

 つまり人命にめちゃくちゃ配慮している場所である。


 「人の戦いを眺めることが娯楽になっている。人死が出ないなら見ものにはなるのか。」


 そんなことを口にしながら歩き続けて駅へ辿り着いた。

 中は広かったものの案内表を見ながら指定された列車に乗ることが出来た。


 あとは片道数分。

 連中(帝国軍)からの連絡はまだ来ていない。

 パンフレットも大体は目を通したが怪しいところがイマイチよく分からなかった。

 こんな星に一体どんな裏がある?


 電車を降りて主要道路を歩き続ける。

 少し進むと細い路地にある赤色のドアへ行けとメッセージが届いた。

 細い路地にはスプレーによる落書きとホームレスの老人と子供、何かの死骸など散々なことになっていた。


 「···ここか、指定された場所は。」


 錆びているもののなんとか赤色だと分かった。

 何か文字が書いてあるようだったが錆びていて読めない。

 錆びたドアノブを引っ張りドアを開けた。


 その瞬間───


 ビュンとナイフが顔へ飛んできた。

 俺は体が認識するよりも早く防御魔法を顔面へ展開していた。

 ナイフがカランと音を立てて床へ落ちる。


 「何のつもりだ。」


 「試していただけさ、防いだのは君で3人目だ。そこの席に座りたまえ。」


 そこに座っていたのは帝国軍の軍服を着た若い男だった。

 内装は1世代前のカフェのようだった。

 古い音楽が小さく流れていた。

 男は俺の前に2枚の写真を置いた。


 「───さて本題に入ろうか。君への依頼の話をしよう。」


 男は口を開き、依頼の内容を話し始めたのだった。

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