ほしくいのりゅう
今日は1000年に1度の日
星の海、大きな月のあがる夜
海を見渡す崖にきた
黒い海と黒い空
肌を撫でる風が運んでくる海の匂いで
ちょっと鼻がくすぐったい
今日のごはんは
たき火で焼いたパンに
ちょっと溶けたバターを塗って食べる
今日は雲一つもない
満天の星空
そこにいるのはちいさな光の欠片たち
指でなぞってかたちを結ぶ
あれが鳥であそこがヘビ
あれが巨人であそこはお城
パンを半分食べたころ
海の満ち引きがだんだんなくなる
風も、海の匂いもだんだんなくなる
そうしてすぐに
音も匂いも無くなって
残されたのは星空
波の無くなった海は
まるで大きな鏡のように
星空を広げていた
満天をこえた星空の
真っ黒な星の海と空のど真ん中
それを引き裂く大きな波
その中から出てきたのは龍
ゆっくり出てくるのはその体が長いから
川のようにうねり流れていく
そして体が全部出てきたら
龍も空を見上げて鳴き始める
鯨のように狼のように唸るように
再び波が静まったら
星空と同じように
龍も2匹になっていた
星を目指す昇る龍と下る龍
昇る流れ星のように
落ちる花火のように
月光が鱗を光らせて
月をぐるりと廻ると
大きな口を開けた
長い口を開けた
星を食べて 飲み込む
星を砕き 消していく
小さな星はまとめて
大きな星は一息に
指で描いた世界が壊れる
鳥の羽 ヘビのしっぽは食べられた
巨人の頭にお城の屋根は砕かれた
気がつけば星は半分くらいになっていた
しばらく龍は月を見ていた
綺麗だと思っていたのかな
食べようとしてたのかな
でもいくら口が長くて大きくても
お月様を食べれるほどじゃない
さっきまで食べてた星も
綺麗だと思っていたのかな
龍は帰っていった
海の底に
空の始まりに
静かに帰っていった
波が立たないように
混ざるように
残された星空を見る
指でなぞろうとしても
さっきの世界はもう描けない
あれは羊 あれはサメ
あれが人魚であそこはお家
全く違う世界になってしまった
けれど
この世界も悪くない
それにきっとまた星が増えて
世界はもっと広がるはずだ
波と風が流れ始めた
海の匂いが鼻をくすぐって
くしゃみが出た
海の中心には龍がいて
海を流しているらしい
風を運んでいるらしい
でもそれを知っているのは
話を送るおとぎ話だけ
この目で確かめた僕一人だけ
暗い星の海と空が
光で2つに別れ始め
朝日が登ってきたとき
そういえばと
食べかけのパンに噛みついた
折角焼いたパンは冷たくなっていて
少ししょっぱくなっていた