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失われた断片  作者: 無光
第1章─ビグトラス島
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07─消された



 大声で叫びたい!


 なぜだろう?


 もともと普通のクロワッサンを買えたはずなのに、背後の殺気が巨大な壁のように立ちはだかり、次の注文をする暇もなく、店員は手際よく包んで、私たちは出口へと追いやられた。


 クロワッサンのことをずっと考えながら、がっかりしつつ列を抜けて歩き続けた。



 「落ち込まないで!これ半分あげるよ。ねえ、あなたの名前は何?私は星雨(せいう)。」


 女の子が折りたたんだ七色のレインボークッキーコーンを片手に、もう片方で私の肩をポンポンと叩きながら言った。


 ため息をつきながら、その半分の七色のレインボークッキーコーンを無理やり受け取った。


 七色のレインボークッキーコーンからは不思議な香りが漂い、いちご、バニラ、ブルーベリー、それに説明しがたい花や果物の香りが混ざっていた。

 


 興味をそそられ、一口食べてみた。


 その味はまさに、虹色に満ちた世界に浸かるような、何とも言えない感覚だった。


 私は一瞬で目を見開き、クロワッサンのことを忘れ、この奇妙な味が私に与える慰めを真剣に味わった。


 「おいしいでしょ?あなたの名前、教えてよ!」


 星雨は再び七色のレインボークッキーコーンを舐めながら言った。 


 この不思議なレインボークッキーコーンのおかげで、私の憂鬱な心が少し晴れた。喜びに満ちて、彼女に自己紹介をしようとした。



 「僕は……!?これはどういうこと?」


 目の前に広がる光景に、私は大きな恐怖を覚えた。


 さっきまで私のそばを通り過ぎた父子の姿が、まるで消しゴムで消されたかのように、目の前で次々と消えていった。


 父親の笑い声はまだ聞こえるのに、彼の姿はすでに消えかけていた。



 「星……雨……、右……を見て……」



 私は全身をこわばらせながら、目の前の光景に震え、口ごもりながら彼女に言った。


 「わあ~~~~~~~~~~~~~!!!」


 「助けて!!!」


 「何が起こっているんだ!!!」


 「人が……」


 「消えていく!?」


 


 周りの人々が突然パニックになり、悲鳴を上げ、逃げ惑い始めた。


 周囲の誰かが次々と消えていく様子と、それに対する恐怖の叫び声が響き渡った。


 母親は消えていく娘を見つめ、泣き崩れながら娘の名前を叫び続け、最後には地面に倒れ込んだ。


 


 楽しげな雰囲気は一瞬で死神が舞い降りたかのような絶望の殺陣に変わり、血の気も硝煙も戦争の残酷さもない。



 ただ、恐怖と無力感に支配された人々の目が映し出されていた。


 


 さっきまで長蛇の列を作っていた人々を思い出し、私は振り返って目の前の光景を信じられない気持ちで見つめた。


 


 もともと人であふれていたSWEETの店内は、今や誰もいなくなり、ただ座り込んで震えている人たちだけが残っていた。


 中には「来ないで!あっちに行け!」


 と叫び続ける者や、地面にひれ伏して祈る者もいた。


 「偉大なる光の神よ、どうか我々の罪をお許しください……」


 「すべてが消えていく、すべてが消えていく、はははは、へへへ……」


 周囲の人々が次々と半分だけ消えていく様子を見て、狂ったように走り回りながら叫ぶ者もいた。


 そして、SWEETの店自体も半分に削り取られていた。


 


 攻撃や破壊の音もなく、ただ視界から消えていく光景は、まるで巨大な消しゴムで消されたかのようだった。


 


 突然、目の前に強烈な白い光が現れ、私は目を開けることができず、その光に包まれた。


 耳には鋭い音が響き渡り、頭痛が走った。脳が何か絶対的な力で押し潰されるような感覚に襲われた。

 


 「わあ~~~~~~~~~~~~~あ!」叫び声を上げた。


 「おい、大丈夫か!どうしてこんなことに……」


 


 意識が薄れる中、星雨が私に何かを言っているのがかすかに聞こえた。


 彼女の震える声が、私の耳に届いた。

 


 「わからない……早く逃げろ……」


 私は頭を押さえながら、汗だくになり、灼熱感に耐えながら、彼女を脇に押しのける。

 


 「早く!ここから出て行け!」



 「フフ~~~ハハ~~~~」


 力が抜けていくのを感じた。エネルギーが失われ、体がどんどん弱っていく。耳元には急速に鼓動する心臓の音が響いていた。


 


 混乱の中、星雨が震える手で私の手を引いて、別の方向に逃げようとするのをぼんやりと感じた。


 


 その日、私は意識を失う前に、背後から無力な叫び声が聞こえてきたことだけを覚えていた。


 目の前の映像がぼやけ始め、隣の景色がだんだんと不鮮明になり、体が底なしの深淵へと落ちていくように感じた。

 


 目の前にはただの暗闇が広がり、音も息遣いもなかった。

 


 徐々に、周囲のすべてが静寂に戻っていった。


 

 最後には、自分の呼吸音さえ聞こえなくなった。




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