37─朽ち果てた中の微光
黒い霧が少しずつ晴れて、前方の光がだんだんはっきりしてきた。まるで新しい世界に導かれるような感じだ。星雨と難民たちは、足元の泥が乾き、雨も弱まるのを感じた。まるで天から一息つける時間がもらえたかのように感じた。かつて険しかった道が平らになり、みんなの足取りも軽くなってきた。
でも、最後の小丘を越えたとき、目の前に広がったのは驚きと怒りを覚える光景だった。ビグトラス島のこの広い山頂は、かつて旅人たちを迎えていた空港だった。賑やかで栄えていた場所だったのに、今は荒れ果てている。車が廃車のように散らばっていて、かつて人気だった食街も壊れた建物の残骸だらけ。レストランの屋根や壁は吹き飛ばされ、ドアや窓も壊れていて、内部は埃と瓦礫でいっぱいだった。進むたびに、壊れたテーブルや倒れた椅子が目に入る。地面に横たわる看板「ゲイモ魔法食堂」は、微風に吹かれてわずかに金属音を立てている。壊れた跡が、かつての賑わいを物語っているが、今はただの荒廃した場所になってしまった。
彼女はもう一度、空港の外にある環状輸送ラインを見た。かつては緻密に作られたその線路が、今は歪んでいて、何カ所も壊れている。どんな衝撃を受けたのか想像せずにはいられなかった。この輸送ラインは、空港の命とも言えるものだった。旅客を島のいろんな場所に速く運ぶ役目を果たしていたのに、今やただの廃墟のように横たわっている。
目の前に立つ空港の建物は、今も大きくて広いが、外壁にひびが入っていて、鉄筋が見えたりして、崩れそうな感じだ。空港の入口には、かつての賑やかなロビーはもうない。残った石の柱が壊れた天井を支えていて、壁は埃だらけで崩れかけている。おばあさんはその建物を指さしながら、重い口調で言った。「ここが私たちが頼りにしていた空港だ。昔は、ここがビグトラス島に到着する場所で、島の繁栄を支えていたのに……今は、ただの廃墟だ。」
その言葉が、星雨の心に悲しみを呼び起こしたけど、同時に心の中で決意が湧いてきた。星雨は大きく息を吸い込み、後ろを振り返り、震えている難民たちに言った。「前に空港があるから、避難所があるかもしれない。行ってみよう!」その声は、迷うことなく、皆の心に強い決意を届けた。
難民たちは、驚きと混乱からだんだんと意識を取り戻し、目を見合わせながら、希望の光が見えたような表情を浮かべた。どんなに荒れ果てた場所でも、星雨の言葉が、この空港が安住の場所を提供してくれるかもしれないという希望を抱かせた。
おばあさんは静かにうなずいて、ゆっくり歩き始め、壊れた空港へ向かっていった。星雨もその後ろに続きながら、周囲を警戒しつつ進んだ。
空港周辺はまだ霧がかかっていたけれど、だんだんその微かな光が明るくなってきた。遠くの灯りのように、彼らの道を照らしていた。隊列は少しずつ整い、みんなが静かな足取りで歩みを進めていた。廃墟の中で、何とか安らぎを見つけたいと思っていた。
その時——
『状況は厳しい!空港の最後の便が間もなく出発します。旅行者の皆さんは、必ず10分以内に搭乗してください。私たちは皆さんを安全に母国へお送りします!』
突然、静けさを破るように、放送の声が響いた。それはしゃがれた声で、急いでいるようだった。何度も繰り返し流れてきたようで、金属のような音が混ざっていた。『状況は厳しい!空港の最後の便が間もなく出発します。旅行者の皆さんは、必ず10分以内に搭乗してください。私たちは皆さんを安全に母国へお送りします!』この放送は、長い年月を経て、どこか時代の風化を感じさせる音でありながらも、希望の響きを持っていた。
その突然の放送は、絶望の中で一筋の光のように感じられた。星雨の胸の中に、突然希望の火が灯り、拳を握りしめた。その中から力が湧いてきた。
「もしかしたら……本当にチャンスがまだあるかもしれない。」彼女は小声で言い、目の中に強い決意の光を宿していた。彼女は周りの難民たちを見渡し、彼らの目にも希望が再び灯っているのを感じた。放送は壊れかけた声で、長い年月を経たような、時代の重みが感じられたが、それでもこの呼びかけは新しい希望を与えた。
おばあさんは静かに星雨の肩を叩き、優しく言った。「この情報が本当かどうかは分からないけれど、私たちはこのチャンスを掴むべきだ。きっとこれは天からの恩恵だ。」星雨は無言で軽く頷き、おばあさんの言葉はみんなの心を落ち着け、誰もためらうことなく、急いで隊列を整えて、空港に向かって歩き始めた。
霧が少しずつ晴れ、廃墟となった空港の建物が微かな光の中で徐々に明らかになり、まるで長年眠っていた巨大な獣が目を覚まそうとしているようだ。空港のロビーに足を踏み入れると、遠くから声が聞こえてきた。
「前方に異獣が少数確認されました。排除準備!」
その後、前方が輝く光で照らされ、多くの人々の会話が聞こえてきた。「 これが最後の旅客ですか?」「 学院からの応援は来ましたか?」
空港のロビーに足を踏み入れた瞬間、星雨と難民たちは目の前の光景に圧倒された。壊れたロビーの中には人影がわずかに見え、周囲の設備はほとんど壊れていたが、いくつかはまだ動いており、まるでここに秩序がまだ残っているかのようだった。崩れそうな静けさの中、突然、低く力強い声が響いた。「 9時の方向に異獣、排除準備!」
声が終わる前に、ロビーの奥から明るい光が現れ、防衛隊の隊員たちが姿を見せた。彼らは防衛隊の制服を着ており、さまざまな武器を持ち、精緻な装備と訓練された体術が相まって、異獣に立ち向かう。武器からは金属の冷たい光が放たれ、魔法機械装置と連携しているものもあり、どの攻撃も巨大な破壊力を秘めていた。星雨はその動きに目を凝らすと、防衛隊員たちは素早く動き、異獣の攻撃を巧みに避け、すぐに反撃し、熟練した体術と魔法機械を駆使して強力な力を発揮していた。
彼らの間には、シンプルなローブを着た数人の術士が後方で支援していた。彼らは両手を重ね、唇をわずかに動かし、呪文を唱え、保護結界や治療魔法を放出していた。術士たちの魔法は柔らかな光の幕のように防衛隊員を包み込み、激しい戦闘の中で体力を維持し、防御力を高めていた。
激しい戦闘の中で、星雨は近くから聞こえる低い声を耳にした。「これが最後の旅客ですか?」と、防衛隊員の一人が声を低くし、明らかに重い気持ちを抱えているようだった。
魔法機械武器を持つ防衛隊長が答えた。「空港の便はすべて運行停止になった。これが護送できる最後の便だ。異獣の数は増え、状況はさらに危険になるだろう。」
星雨はその言葉を聞いて、心の中でわずかな希望を抱いた——目の前の防衛隊と術士たちは空港の内部守護者に過ぎないが、装備は整っており、訓練も十分で、難民たちの唯一の盾となっていた。彼女は息を整え、難民たちと共に防衛隊の方へと歩み寄り、近くにいる防衛隊員に敬意を込めて尋ねた。「すみません……ここで避難場所を探してもよいでしょうか?」
その防衛隊員は、星雨と難民たちが近づいているのに気付き、すぐに大声で叫んだ。「こちらにも生存者がいる!早くこちらに来て、安全地帯へ案内してくれ!」その声は粗野ではあるが、確固たる決意が感じられ、聞いた者に安心感を与えた。
防衛隊と術士たちの護衛の下、星雨と難民たちは空港内の一時的な避難所へと案内された。ここは簡素ではあったが、多くの生存者が集まっており、皆の表情はお互いの存在によって少しずつ安らぎを取り戻していた。しかし、その目には未だに恐れと不安が色濃く浮かんでいた。
放送で次々と便の出発通知が流れるが、待機するたびにその時間は長く感じられ、人々は未来への希望がますます遠くなるのを感じていた。時間は一分一秒と過ぎていき、隅に隠れていた若い男の子が小声で両親に尋ねた。「本当に家に帰れるのでしょうか?」両親はしばらく黙っていたが、軽く頷くも、その心中の不安を隠しきれなかった。
星雨は避難所の中に立ち、これらの光景を目の当たりにし、難民たちの恐れと無力感を感じ取った。彼女は息を整え、人々の前に歩み寄り、できるだけ落ち着き、確信に満ちた声で言った。「皆さん、安心してください。私たちはこの危機を乗り越え、安全に過ごすことができます。ここには防衛隊と術士たちが守ってくれています。私たちは見捨てられません。」
彼女の言葉は、少しの慰めを与え、群衆は少しだけ安堵の息をついたが、目に見える不安は完全には消えなかった。その時、おばあさんが静かに星雨の隣に立ち、優しく言った。「この道のりで、私たちはどれほどの困難を乗り越えてきたのでしょう?希望を胸に抱き続ければ、どんなに遠くても進んでいけるわ。」
この重苦しい待機時間の中で、難民たちは少しだけ気力を取り戻し、静かに自分たちの過去を語り合い、互いに励まし合っていた。再び放送が流れ、ついに搭乗の時間が来ると、人々は次々と立ち上がり、長い列を作った。その表情には、疲れた期待の色が見えた。星雨とおばあさんは、彼らに寄り添いながら一歩一歩前へ進んでいき、最後の時を共にした。
互いに励まし合いながら進んでいたその時、防衛隊員たちが難民たちを順番に最後の便に乗せ始めた。星雨とおばあさんもその列に従い、搭乗口に向かって歩みを進め、いよいよ自分たちが機内に乗り込もうとしたその瞬間、防衛隊隊長が険しい表情で彼女たちを止めた。
「申し訳ないが、機内はすでに定員オーバーだ……これ以上は乗せられない。」隊長の声には、謝罪と無力感がにじんでいた。
星雨はしばらく黙っていたが、やがて顔を上げ、周囲を見渡した。彼女の目に映るのは、不安と恐怖に満ちた難民たちの顔。それぞれがこの最後のチャンスにすべてを託しているように感じられた。星雨は静かに息を吸い、心の中で今、この瞬間、誰かが立ち上がらなければならないことを理解していた。そして、自分がその役割を果たさなければならないと感じた。まだ心が安定していない人々に勇気を与えなければならないと、彼女は心に誓った。さらに……彼女はこのまま離れるわけにはいかない。あの時、自分とはぐれた同年代名前知らず男の子、そして自分や難民たちを守るために立ちふさがったガサンのことを、彼女は忘れられなかった。
星雨は微笑み、隊長に軽く頷いた後、決然として言った。「大丈夫です、私は残ります。」その声は柔らかくも確固としており、まるで暖かな風が不安な心を癒してくれるようだった。星雨は振り返り、心配そうな顔をしている難民たちに向かって、優しく言った。「皆さん、先に飛行機に乗ってください。ここには防衛隊と術士たちが守っていますから、私のことは心配しないでください。」
その時、おばあさんがゆっくりと前に歩み寄り、星雨の手を静かに握りしめた。その瞳には深い感情と確固たる決意が込められていた。「ここは私の故郷、私は離れません。」おばあさんは静かに言った。その口調には、深い愛着と決意が込められていた。「何が起きても、私はこの土地に残ります。」
おばあさんの言葉は、まるで安定した力を注ぎ込むように、もともと躊躇していた難民たちの心を徐々に落ち着けさせた。彼らは星雨とばあさんに別れを告げながら、しばらく心を込めて、最後の便に乗り込む準備を始めた。
登機する難民たちは、足を止めて、みな一斉に振り返り、星雨とばあさんを見つめた。多くの人々の目には、感謝と惜しみが光っている。
「星雨、今までずっと助けてくれてありがとう。あなたの励ましがなければ、私たちはここまで耐えられなかった。」ある者は言った。
一人の年配の男性は声を震わせながら、深い感謝を込めて言った。
「おばあさん、あなたが希望を信じさせてくれました。本当に感謝しています。これからも、またお会いできることを願っています。」
「あなたたちは最も厳しい時に私たちに力を与えてくれました。どうか無事でいられますように。」別の女性は涙を浮かべ、深くお辞儀をした。
「心配しないでください、私たちは無事です。あなたたちもどうか気をつけてください。必ず無事に家に帰れることを信じています。」星雨は微笑みながら答えた。
彼女の声は柔らかく、しかし揺るぎない決意が込められていた。
難民たちの搭乗が終わろうとしているその時、一人の小柄な男の子が急に星雨のもとに駆け寄り、彼女の衣の裾をぎゅっと掴み、小さな声で震えながら言った。
「お姉ちゃん、ありがとう!」
言葉が終わると、男の子は星雨の脚にしがみつき、顔を埋めて泣き始めた。彼の涙が彼女の衣にポタポタとこぼれ落ち、その小さな肩からは、星雨への別れの寂しさと、感謝の気持ちがひしひしと伝わってきた。
星雨は彼の頭を優しく撫でながら、穏やかに言った。
「坊や、大丈夫。家に帰ったら、自分を大切にして、いっぱい幸せになってね、いい?」
その言葉には柔らかながらも確かな温もりが込められており、男の子の涙は次第に収まっていった。
その時、おばあさんも静かに歩み寄り、慈愛に満ちた眼差しで男の子を見つめながら、そっと言った。
「さあ、行きなさい。これは私たちの選択なの。いつか帰ってくるあなたを、私たちはこの地でずっと見守っているわ。」
彼女の眼差しには深い祝福が込められ、別れの思いが温かい支えとなって伝わった。
「星雨お姉ちゃん、おばあさん!僕もここに残りたい!僕にはもう家族がいないんだ……」
男の子が涙をためた目でそう言った瞬間、星雨は少し俯き、考え込んだ。そして、おばあさんの方へと視線を向けるとおばあさんは微笑みながら小さく頷いた。その眼差しには信頼と励ましが込められ、「その決断はあなたに委ねるわ」と語りかけているようだった。
星雨は膝をつき、男の子の肩をやさしく撫でながら、低い声で尋ねた。「異獣が怖くないの?」
男の子は力強く頭を振って、目にしっかりとした光を宿しながら言った。「怖くないよ。姉ちゃんと婆ちゃんから離れる方が怖いもん!」
その言葉を聞いて、星雨は心が揺れ、目に優しさと痛みを浮かべた。軽くため息をつきながら、微笑んで言った。「そっか、じゃあ、君が決めたことだから、私たちと一緒に残るよ。でも、どんなことがあっても、勇気を持って立ち向かってね。」
男の子は力強くうなずき、星雨の手をしっかりと握った。まるで新たな力を得たかのように、震えが収まった。お婆さんも男の子の頭をやさしく撫でながら、愛情込めて言った。「未来の道は決して簡単じゃないけど、私たちは一緒に歩いていくよ。」
最後に、他の難民たちは名残惜しそうに飛行機に乗り込んで、星雨、お婆さん、男の子に手を振って別れを告げた。その目には感謝と祝福が込められていて、まるで自分たちの希望を三人に託すかのようだった。
機内のドアがゆっくりと閉まり、星雨、お婆さん、男の子はその場に立って、微笑みながら飛行機が遠ざかるのを見送った。彼らは残ることを選び、肩を並べてこれからの道に立ち向かっていく覚悟を決めた。
防衛隊の保護を受けて、星雨、おばあさん、男の子、そして残ることを選んだ住民たちは、物資を再整理し、安全な避難地を探す準備を整えた。隊長は彼らにこう告げた。「後方で援護を行う。可能な限り君たちの安全を確保するようにする。これからの道はおそらく危険で満ちているだろうが、私たちは全力で君たちを守る。」
星雨は深く息を吸い込み、おばあさんと男の子の手をしっかりと握り、恐れずに前を見据えながら、迷霧の深みへと踏み出した。新たな未知の旅路に向け、心の中で準備を整えた。




