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失われた断片ーー旧作  作者: 半々月光
第1章─ビグトラス島
23/41

22─浄化先鋒隊 ガラド



地上戦に戻って──


 ドン!


 土ぼこりがあちこちに舞い上がり、もともと賑やかだった市場は、激戦が続いた後、見るも無惨な姿になっていた。


 崩れた市場の露店から、砂ぼこりの中からゆっくりと姿を現す影があった……


 月明かりの下、ずんぐりとした体に、空色と緑の長いローブをまとった老人が、額から血を流し、濃い眉毛の間に血の匂いが漂っていた。


 その人物こそが、トラム市場の上でキリムたちを守護していたグモ教授だった。


 「銀光の守護者だと? そんな程度で守護者を名乗るとは? お前なんか、偉大なる神の番犬にもなれやしない!」


 「ハハハ!」


 謎の細長い影が声を上げて笑った。


 グモは、落ちていた丸いフードを拾い、埃を払いながら、何食わぬ顔でこう言った。


 「お前みたいな鳥とも言えない、半端な獣妖が吐く台詞は本当に腹立たしい……『神』は年長者に対する礼儀を教えなかったようだな。私が“門番鳥”としての態度を教えてやろう!」


 言い放った直後、グモの脚はガクンと力が抜け、近くの崩れた壁に手をついてなんとか立っていられた。呼吸を整えながら、小さな声でつぶやいた。


 (くそ……先に甘いもん食い過ぎたのが祟ったか、それとも連日の戦闘のせいで五日も空腹で気が散ってるのか……精神が集中できん)


 「つまらん!」


 細長い影は冷笑を浮かべた。


 「そろそろ、神に逆らう者の末路を教えてやるか!」


 彼の周囲に赤黒い光が広がり、動作を始めようとした瞬間、細長い影は高らかに叫んだ。


 「異空間に潜む飢餓の霊獣よ、我、ガラドが命じる。目の前の穢れを喰い、浄化せよ!」


 徐々に凝縮された黒い影が、その呼び声に応えて現れた。


 グモはそれを見て淡々と笑みを浮かべた。「ガラドか? 獣妖のくせに妙に人間臭い名だな……はは……」


 ガラドは冷たい声で返した。「どうやらお前も相当なダメージを受けているようだな。今日が貴様の最後の日となる。覚悟しろ!」


 グモは、体の痛みに耐えながらも、軽口を叩く。「はは、そんなに急いで殺すなよ……。まだこっちには、やることがあるんだ。」


 しかし、グモの内心は焦っていた。(くそ……ここまで追い込まれるとは……あの飢餓の霊獣を呼び出されたら、もう後がない……だが、まだだ!)


 グモは、残されたわずかな力を振り絞り、ついに決断を下した。


「最強の術を使うしかない……!」


 グモは手に持っていた妙な鎌型の緑色の武器を空中に投げ、その場で素早く左に三歩、右に三歩跳んだ。そして最後に元の位置に戻りながら、低く呪文を唱え始めた。


 【ネバシー・ディトルレ・ガマンド】


 空中に浮かんでいた緑色の武器が、次第に強烈な光を放ち始め、やがてその光は消え、武器も姿を消した。


 (くそ……今はまだ緑か? もう少し力を……!)


 グモはさらに集中し、消えた緑の光が再び彼の体に戻り始めた。


 (まだまだだ、もっと力を……!)とグモは心の中で叫びながら、再度全力で集中した。すると、再び消えたはずの緑色の光が彼の体に戻り始めた。しかし、完全な力を引き出すにはまだ足りなかった。


 (……まあいい、これで決めるしかない!)


 グモは意を決し、大声で再び呪文を唱えた。


 【メラスド・イトリム・ガファドニト】


 風の秘術——風鼬かざいたち滅絶の術!


 グモの周囲には無数の白い気流が発生し、逆時計回りに高速で回転し始めた。気流はどんどん厚みを増し、死神の鎌のような鋭い風刃を生み出し、四方八方に襲いかかった。


 「うおおおおおおおおおおお!!」


 古莫は全力で雄叫びをあげ、その叫び声とともに、彼の周囲の気流はさらに強大になり、市場の廃墟から巻き上げられた瓦礫が気流に飲み込まれた。建物の残骸があちこちに衝突し、その音が市場全体に轟いた。


 風鼬滅絶の術: 術者の術力により白、緑、赤の3つのレベルに分類される。初級は白、中級は緑、最上級は赤であり、最も強力な風の術として知られている。


 ガラドは、強烈な風圧を受けながらも冷静だった。「ふん、面白い技だが……涼しさだけで、威力は足りないようだな。この無様な劇はもう終わりだ!」


 ガラドの黒い影が再び赤黒い光に包まれ、彼の霊獣がその力を増していく。すると、透明で異様な赤い光を放つ奇怪な生物たちが、ガラドの周囲に現れ始めた。


 グモはそれを見て驚愕しながらも、咳き込み、血を吐きながらつぶやいた。「こ……これは……?」


 グモは痛みをこらえながら、防護の聖円を描き、地面に青緑色の光が現れた。しかし、出血が多く、精神力もほぼ尽きかけていた。彼の周囲を包んでいた光は次第に薄れて透明になり、今にも完全に消えかけていた。


 (賭けるしかない……もう後がない!)


 グモは、残りの精神力を振り絞り、足を踏ん張り、最後の力を気流に注ぎ込んだ。すると、彼の周囲に集まっていた気流が一瞬にして風刃に変わり、雪のように細かく無数の刃となって旋回し始めた。


 気流はますます強大になり、グモの前に小さな嵐が巻き起こる。瓦礫や市集の廃墟の残骸がその嵐に巻き込まれ、空高く舞い上がった。これが、決意を込めたグモの最後の一撃だった。


 だが、突然、その強力な風刃が一瞬、静止した。まるで時間が止まったかのように、空中に浮いていた瓦礫や残骸は落下せず、五秒ほどの間、すべてが静止したように見えた。


 ガラドはそれを見て大笑いした。「お前、力尽きたか? その程度で終わりか!


 ガラドは、三メートル先に立つグモをじっと見つめていた。彼は風刃の壁に包まれたグモを嘲笑しながらも、その目は極めて警戒していた。グモの一挙一動を見逃さず、次の攻撃に備えていた。


 だが、その風刃は静止しているように見えたものの、実は驚異的な速度で回転しており、風の密度があまりにも高く、目には止まらないほどだった。


 そして、その静止したかに見えた風刃が、一気に動き出した。逆回転しながら、無数の刃と大量の残骸がガラドに向かって雪のように押し寄せた。


 「風鼬滅絶の術——風の極空暴雪乱舞!」


 無数の緑色の風刃が、瓦礫と共にガラドに襲いかかった。


 ガラドは驚愕し、一瞬後退したが、すぐに不敵な笑みを浮かべ、立ち止まった。「ははは、涼しいな……だが、その程度の力では俺には通じん!」


 グモは苦痛に耐えながら、弱々しく笑った。「どうした、脚がすくんで動けないか?」


 ガラドは冷笑しながら答えた。「動く必要もない……お前は既に俺の霊獣に捉えられている。」


 グモは驚愕して叫んだ。「な、何だと!?」


 突然、グモの周囲に赤黒い霊獣が現れ、彼の体を啃み始めた。彼の体からは次々と血が流れ出し、気力も尽き果てようとしていた。


 ガラドは冷たく笑いながら言った。「もう時間がない、老いぼれ。そろそろ終わりにしてやる!」


 グモは残りの力を振り絞り、地下にいるキリムたちに向かって叫んだ。「キリ……ム……早く逃げろ……!」


 ガラドは怒鳴った。「黙れ、老いぼれ! 奴らもすぐに後を追うことになるんだ!」


 そして、ガラドはグモの顔に蹴りを入れた。グモは倒れ、血を吐きながらかすかに言葉をつぶやいた。「す、ま……ん……キリ……」


 「うるさい、死ね!」


 ガラドがとどめを刺そうとしたその瞬間、突如、空から金色の光が降り注ぎ、ガラドの影を正確に撃ち抜いた。


 「ぐあああああ──!」


 ガラドは光に撃たれ、地面に倒れた。「一体……誰だ!?」


 その光はグモを囲んでいた霊獣たちをも一掃し、完全に消し去った。グモは倒れたままだったが、誰かが彼を抱え、素早く山丘へと走り去っていた。


 気がついた時、グモはもうガラドの視界にはいなかった。


 ガラドは怒り狂い、叫んだ。「くそ……あの光の正体は何だ!? だが時間がない、任務を完了させねば……」


 ガラドは立ち上がり、キリムたちの隠れている地下洞窟へと向かっていった。そして、彼の姿は一瞬にして夜の闇に溶け込んだ。



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