難問
始業式の日には授業はない。
ロングホームルームが終わると、俺たちは学校から解放された。
今日は金曜日で、明日からは週末。
春休みがまだ少し残っている感じだ。
俺は教室から出て、あかりちゃんと高校の自転車置き場に向かった。
空も同じ方向へ帰るわけだが、今日はあかりちゃんが俺の世話をする日なので、空は時間をずらして帰る。
ふたりの幼馴染の間で、そういう取り決めが成立している。
「本屋さんへ行きたいんだけど」
俺はターミナル駅にある大型書店の名をあかりちゃんに告げた。
「いいよ。あたしも一緒に行く」
俺たちは駅まで自転車で行き、駐輪場に置いて、電車に乗った。
電車の中で話をした。
平日の昼前なので空いている。俺たちは並んで座っていた。
「クラス委員なんて、面倒だなあ。ていのいい雑用係だよ」
「そうだねー。面倒だねー」
「あかりちゃんは立候補したんじゃないか。やりたくてなったんでしょう?」
「別にやりたくはないかな。でもまあ、ふゆっちと一緒だからいい」
「それが立候補した理由?」
「そうだよ。ふゆっちの就任が確定したから立候補したの。あたしもクラス委員になって、きみの世話をしなくちゃね」
あかりちゃんはにこにこと笑っていた。
俺もこの子と一緒ならいいかと思った。どうせやるなら前向きに委員を務めることにしよう。
「もうひとつ理由があるよ」
「なに?」
「あたしが立候補しなかったら、浅香がなっていたでしょ? あの子にはふゆっちのお世話を譲りたくなかった」
「ふたりともすでに俺の世話をしてくれているじゃないか」
「クラス委員になったら、その役目が増えるじゃない? 少しでも多く、あたしがやりたい」
あかりちゃんの目は真剣だった。
ふたりのクラス委員を巡る争いを思い出して、俺は少し怖くなった。
「(友だちは)このクラスでは冬樹だけ」と空は言った。
「(女子のクラス委員を)ふゆっちに決めてもらいましょう」とあかりちゃんは言った。
ふたりの俺に対する友情が重すぎる。
ターミナル駅で電車を降りた。
まだ昼ごはんを食べていない。
軽食のメニューが充実している喫茶店に入った。
俺はピラフを頼み、あかりちゃんはナポリタンとチョコレートパフェを注文した。
相変わらずよく食べる子だ。
俺はなにも言ってないのに、「パフェは別腹だよ」と彼女はにかっと笑って言った。
俺はコーヒーを追加注文して、あかりちゃんがパフェを食べているときに飲んだ。
「これは完全にデートだね」と彼女は言った。
俺もそう感じていたが、なにをいまさらとも思った。
「あかりちゃんも空も俺のベッドでごろごろしてる。距離が近すぎて、喫茶店で一緒にいるくらいじゃデート感はないよ」
「ええーっ?」
あかりちゃんは心外だという表情になった。
「もっと近づかないとデート感がないんだね?」
俺たちは4人掛けの席にいて、対面していたのだが、あかりちゃんは隣に来て、体を傾け、腕をぎゅっと俺にくっつけた。
「あかりちゃん……!」
「これでデートかな?」
「まちがいなくデートだよ! 恥ずかしいから離れて」
混んでいる喫茶店ですることじゃない。しかも俺たちは高校の制服を着ていて、恋人同士でもないのだ。
あかりちゃんはまだしばらくくっついていた。
チョコパフェのものとはちがう甘い匂いがする。
彼女が体を離すと、その匂いは遠ざかった。
あかりちゃんが俺に抱いている感情は、友情ではないのかもしれない。
空の感情も。
ふたりが恋愛感情を持っているのだとすると、俺はどうすればよいのかわからない。
俺は彼女たちを好きだ。問題は同じくらい好きだということ。すごく好きで、そのすごさに上下はなく、比べられない。
俺とあかりちゃんは大型書店に入った。
俺は書痴と言われても否定できないほどの本好きで、特に紙の本を偏愛している。電子書籍は好きじゃない。
新刊コーナーで本屋大賞受賞作を、文芸の棚で好きな女性作家の純文学を、ラノベコーナーでアニメ化決定作を、文庫の棚でアメリカ人作家の古典を、それからラブコメ漫画を2冊選んで、レジへ行った。
「いっぱい買うねー」とあかりちゃんに言われた。
「うん」と俺は答えた。
本を読んで、あかりちゃんと空に関して俺の頭に生じた問題を、いったん忘れたいと思った。
俺にとっては解決不能の難問すぎる。
帰りの電車内で、あかりちゃんは俺に寄りかかって眠ってしまった。
すーすーという寝息が可愛くて、いい匂いがした。




