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両隣の幼馴染が交代で家に来る  作者: みらいつりびと


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ヘアヌード

 空とおしゃべりしながら家に帰ったのだが、なにを話したのか憶えていない。

 俺の脳裏を占めていたのは、空に似ている女の人のヌード写真集のことだけだった。

 あの綺麗な女の人は、空のお姉さんかもしれない。

 もう一度写真集を見て、左目の下にほくろがあるか確かめたかった。


 空が紅茶を淹れ、リビングのソファに座っている俺にティーカップを渡してくれた。

「冬樹、どうかした?」

「えっ、別にどうもしないよ」 

「なんかうどん屋さんを出てから、心ここにあらずって感じよ」

 見透かされている。

 平常心を取り戻さなくては。

 ヌード写真集のことは、彼女に悟られてはならない。


「ちょっと歩き疲れただけだよ」

「そうかなあ。なにか変よ、冬樹。うどんを食べ終わってからというより、お姉ちゃんの話をしたときからかな?」

 どきっとした。空の勘は鋭い。

「空のお姉さん、油絵の勉強をしているんだね。いいね」

「冬樹も油絵に興味があるの?」

「うん、まあ、ちょっとね」

 ごまかしたつもりだが、空は首をかしげて俺を見ている。

 彼女は昔よく絵を描いていた。

 俺は絵に興味を持ったことはない。空の姉かもしれないヌードモデルが気になっているだけだ。


「午後はなにをしようか。2階の廊下に積みあげている雑誌の整理もしなくちゃね」

 俺は強引に話題を変えた。

 空も雑誌のことは気になっていたようで、話に乗ってくれた。

「読みたい漫画がまだ残っているのよ」

「そうだよね。でも、春休み中にかたづけたいな」

「じゃあ読みたい雑誌だけ取っておいて、あとは古紙回収に出すのはどうかしら」

「そうしよう」


 俺たちは2階に上がって、雑誌の選別を始めた。

 読みたい漫画が載っている雑誌を廊下の奥の方に置く。厳選して40冊ほどにした。

 捨ててもいい雑誌をビニールひもで縛っていった。

 2時間ほど集中的に働いてかたづけた。

 あとは古紙回収日にごみ集積所に出しておけば、持っていってもらえる。


「けっこう働いたね」

「うん。ありがとう、空」

「どういたしまして」

「休憩しようか」

「冬樹の部屋でごろごろしたい」


 空は漫画雑誌を1冊持って、俺のベッドに横たわった。

 またそこでごろごろするつもりなのか。もう好きなようにしてくれ。

 俺も椅子に座って漫画を読み始めたが、ヌード写真集のことがずっと気にかかっていた。

 それは机の1番上の鍵をかけた引き出しに入っている。


 漫画の内容が頭に入ってこない。

 広葉樹林を歩く美しい裸の女の人のことばかり考えてしまう。

 空に似ている整った容貌。白い輝くような裸身。すらりとした手足。形のいい胸。

 あの写真集が見たくてたまらない。


 日が傾き、窓から入ってくる光が乏しくなってきた。

「そろそろ夕ごはんをつくるわね。カレーライスをつくろうと思っているのだけれど、それでいい?」

「手伝うよ」

「だいじょうぶよ。市販のカレールーでつくる簡単なやつだから。ピーラー借りるわよ」

「肉とか焦がさないようにしてね」

「何度も同じ失敗はしないわ」


 空はベッドから起き出して、1階へ下りていった。

 彼女が階段を下るトントンという足音をしっかりと聴いてから、俺は机の引き出しの鍵を開けた。

 クッキーの缶から気になっている写真集を取り出す。


 空にそっくりなヌードモデルの左目の下には、確かにほくろがあった。

 俺は色っぽい泣きぼくろをまじまじと見た。

 ほぼ100パーセントの確率で、この人は空のお姉さんだ。


 広葉樹林の中でさまざまなポーズを取る空の姉。

 ヘアヌードの写真もある。

 以前見たときは、エロというより芸術的な写真だと思ったが、幼馴染の姉だと思うと、妙になまなましく見えた。

 この人がどういう経緯でヌードを撮影されるに至ったかは、まったくわからない。

 お金のためだったのか、美しい裸身を記録しておきたかったのか、写真家と知り合いだったのか。


 空のからだも、こんなに綺麗なのだろうか……?

 そんなことを想像して、写真に見入ってしまった。


 階段を上ってくる足音が聴こえた。

 俺はあわてて写真集を仕舞い、クッキーの缶を机の引き出しに入れた。

 鍵をカチャリとかけたのと、空がドアを開けたのが、ほとんど同時だった。

 彼女は俺が鍵を引き抜くのを、しっかりと見ていた。冷や汗が出た。


「あっ、カレーできた?」と俺は言った。引き出しの鍵の話をされたくなかった。

「まだつくり始めたばかりよ。ごめん、たまねぎを飴色に炒めようとしたのだけれど、焦がしちゃったの」

「やっぱり手伝うよ」


 俺はキッチンへ行き、空が完全に焦がしてしまったたまねぎの残骸を捨てた。

 そして、たまねぎを新たにみじん切りにするところから始めて、フライパンでじっくりと飴色になるまで炒めた。

 空はじゃがいもの皮をピーラーでむいた。


 ふたりで協力して、カレーをつくりあげた。

 お皿に炊きたてのごはんをよそい、カレーをたっぷりとかけて食べた。

「美味しいね。中辛がちょうどいいね」

「わたしの好みで中辛を買ったけれど、それでよかった?」

「うん。中辛が好き」

 飴色たまねぎで甘みと旨みを加えたカレーは、お世辞抜きで本当に美味しい。

 俺たちは漫画の感想なんかを話しながら、夕食を楽しんだ。


 食べ終わったとき、空が真顔になった。

「ねえ、机の引き出しになにを入れたの?」

 彼女にそう訊かれて、心臓がびくっと跳ねた。

「たいしたものじゃないよ」

「鍵をかけていたわ。大切なものじゃないの?」

「ちょっとした個人的なものだよ」

「ふーん……」

 彼女はそれ以上追及してこなかったけれど、俺の顔を疑わしそうに見つめていた。

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