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両隣の幼馴染が交代で家に来る  作者: みらいつりびと


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特別な場所

 あかりちゃんが聖地と呼び、空が特別な場所と言うあそこは、俺にとっては単に怖い思い出があるところでしかない。

 一時的ではあったが、手首を縛られ、監禁された。きのうはその記憶が鮮烈によみがえった。

 洞穴が埋められているのを見て驚いたが、これでもうあんな事件が起こることはないと安心した。

 なくなって残念だとは思わなかった。


「いまから行くの? 今日はのんびりしない?」

 洞穴跡に2日連続で行くのは、あまり気が進まなかった。

「行こうよ。天乃さんと行ったのだから、わたしとも一緒に行ってくれるでしょう?」


 そう言われてしまうと、ことわることはできなかった。

 それにしても、空がこれほどあそこに執着していたとは思わなかった。

 あの洞穴を見つけ、快適な秘密基地にしたのはあかりちゃんだ。

 俺と空は彼女の遊びにつきあっただけなのに……。


 俺は身支度をして、空とともに玄関を出た。

 きのうは清流沿いの砂利道を経て、神社山へ行った。そのコースは散歩をするには気持ちいいが、少し遠回りだ。

 神社山へ行くだけなら、住宅街をまっすぐ突っ切った方が近い。 

 俺たちは最短距離を進んだ。

 颯爽と住宅街を歩く空を、何人かの男性が目で追っていた。


 神社の隣にあるコンビニに立ち寄り、俺はペットボトルのスポーツドリンクを、空はお茶を買った。

 その場で飲んで、ボトルを回収箱に放り込んだ。

 そして、整備された登山道を登り始めた。

 ここは人気のあるハイキングコースの出発地だ。

 大きなリュックをかついだ登山客がいて、軽装の人もいた。 

 分岐点からマイナールートに入ると、とたんに道が悪くなり、俺たち以外の人がいなくなった。

 俺は先頭に立って、ゆっくりと歩いた。

 いくつも蜘蛛の巣が張っている。気づかずに顔にかかったりして、気持ち悪かった。


「だいじょうぶ?」

 俺は振り返って、空に声をかけた。

「平気。何度も来た道だから」

 彼女はいつものクールな無表情のまま歩いている。

 ずいぶんとこの山道に慣れているようだ。

「そこ、足元に注意して。木の根があるから」と教えてくれたりした。


 洞穴跡に着いた。

 やはり入り口は砂でふさがれている。隙間は少しもない。

 空は神妙な面持ちで、砂の壁を見つめた。

 

「ここは特別な場所なのよ」と彼女は言った。

「確かに特別に怖い場所だよね」と俺は答えた。思い出の中では、ここは依然として怖ろしい。

「そういう意味じゃない」

 空は真剣な目で俺を見つめた。

「そういう悪い意味じゃないの」

 彼女は砂の壁に手を当てた。 

「ここはあの日をしのぶ大切な場所なのよ」 

 

 あの夏の日は、俺にとっては懐かしくしのぶようなものではない。

 できればなかった方がよい日だった。

 

「ここは特別な場所なの」と彼女はまた言った。

「冬樹がわたしを助けてくれた場所。命を救ってくれたところ。かっこよかったよ、冬樹」

 空からかっこよいなんて言われたのは初めてだ。

 彼女の瞳は熱っぽく俺の目を見つめていた。

 

「冬樹は口でロープをほどいて、わたしたちを解放してくれた。そして、きみたちだけでも逃げろと言った」

 そんなこと言ったっけ?

「あなたは勇敢だった。毅然として自分だけ洞穴に残った。わたしは必ず助けを呼んでくると言って走った」

 確かに俺だけ残ったけれど、ロープがほどけなくて、どうしようもなかったからだ。

 別に勇敢ではなかったし、毅然ともしていなかった。


「天乃さんは逆だった。冷静さをなくして、すぐに泣いた。あの男を殺そうとまでした。小さな子にそんなことができるはずないのに、蹴り殺そうとしたわ。あなたはそれを止めた。賢明な判断だったと思う。もし蹴ったりしたら、あいつは逆上して、わたしたちを殺したかもしれない。あの子は、わたしたちの命を危険にさらしたのよ」

 あれ? 最初にあの男の人を殺そうとしたのは、俺だったはずだけど……。


「あなたがわたしたちのロープをほどいてくれた後も、天乃さんはおろおろしているだけだった。すぐに助けを呼ぶべきなのに、行動が遅くて、あなたのそばでぐずぐすしていた。彼女はずっと泣いていた」

 空の記憶は、俺とは少しちがうみたいだ。

 あかりちゃんはそんなにぐずぐずしてはいなかったと思う。

 俺を置いていくのに少しは逡巡したかもしれないが、ふたりはすぐに洞穴から出たはずだ。


「天乃さんはわたしたちのリーダーみたいに振る舞っていたけれど、ピンチのときは全然だめだった。本当のリーダーは冬樹だった。あなたがいたから、わたしたちは助かったの。あなたの行動は見事で、非の打ちどころがなかった」

 いや、それはちがう。

 俺だってかなりだめだった。

 危機に陥る前になんとしてでも逃げ出すべきだった。あの男の人が酔っ払って眠りこけなかったら、なにもできなかっただろう。

「俺たちが全員無事だったのは、運がよかったからだよ」

「そんなことない」

 彼女は激しく首を振った。

「冬樹が的確に行動したから、わたしたちは助かったの。あなたはわたしの命の恩人なんだよ!」


 ちがう。

 俺はヒーローとか、命の恩人とか、そんなふうに思われるような人間じゃない。

 たまたまロープをほどくことができただけだ。

 それ以外はなにもできなかった。

 怖くて怯えていたし、殺そうと考えたし、ふたりが脱出した後は震えていただけだった。


 空もあかりちゃんもあのときの俺を美化している。

 そうとしか思えなかった。

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