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両隣の幼馴染が交代で家に来る  作者: みらいつりびと


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不仲

 4月5日午前7時、ドアホンが鳴った。

 玄関を開けると、空がビニール袋を持って立っていた。

 袋の中には食材が入っているようだ。

「おはよう」とあいさつを交わした。

 それから彼女は、「キッチン借りるわよ」と言って、朝食をつくり始めた。


 台所からベーコンを焼く匂いが漂ってくる。

 空は料理が苦手だ。

 おとついはコロッケをつくっているとき、挽き肉とタマネギを焼け焦げにした。

 俺は漫画雑誌を読みながらリビングで待っているのだが、気が気でない。

 ベーコンが無事かどうか心配だ。

 もし煙が上がったりしたら、キッチンへ駆けつけようと思っている。


 さいわいなにも焦げたりはせず、食卓にトースト、ベーコンエッグ、トマトとレタスのサラダが並んだ。

 空はひとりで朝食をつくりあげたのだ。

「ごめん。卵の黄身が破れちゃった……」

 彼女は軽く落ち込んでいるが、些細なことだ。

 半熟の目玉焼きの黄身は破れやすい。そのくらい気にすることはない。

「美味しそうだね。いただきます」と俺は言った。


 食べながらおしゃべりをした。

「冬樹は目玉焼きにはなにをかける派?」

「醤油かな。でもベーコンエッグのときは塩だね」

「わたしも塩」

 俺たちは白身と破れて流れ出している黄身に食塩をかけた。

 あかりちゃんはたぶんソース派だろうな。あの子の場合、砂糖をかけることもあり得る……。


「もうすぐ始業式ね。わたしたち、同じクラスになれるかな?」

 俺たちの高校では、クラス分けは入学式や始業式の日、体育館に名簿が貼り出される方法で発表される。

 始業式は4月8日。しあさってだ。

 俺は空やあかりとちゃんと同じクラスになりたいと思っている。

「どうだろう。3人一緒になれるといいね」

 そう言ったら、空はむっつりと押し黙ってしまった。


 あ、失言した。空とあかりちゃんの仲はよくないんだった。彼女たちはお互いに別のクラスがいいと思っているかもしれない。


 ふたりは小学生時代の途中まで仲がよかったが、3年生あたりから距離ができた。

 その理由を俺は知らない。

 気がついたときには、彼女たちはほとんど口もきかない関係になっていた。

 不仲についてたずねると、ふたりともどことなく不機嫌になった。


「けんかしたの?」と訊いたら、

「別に……」と空は言い、

「ちょっとね」とあかりちゃんは答えた。

 曖昧にはぐらかされて、俺は詮索するのをやめた。


 彼女たちの関係が悪化し、3人で一緒に遊ばなくなったのは、あの事件の後であることは確かだ。

 秘密基地では、空とあかりちゃんはよくおしゃべりしていた。

 小学3年生の夏休みまで、ふたりは親友のようだった。

 空は内気でおとなしく、あかりちゃんは外向的で活発。性格はずいぶんとちがっていたけれど、不思議に気が合っていたみたいで、あかりちゃんが外で遊ぼうと誘うと、空は喜んで一緒に出かけていた。俺は金魚のふんのようにふたりについて行ったものだった。


 それなのにいつの間にかふたりの距離は離れていて、俺は空とあかりちゃんと別々でしか遊べなくなっていた。

 いつからそうなったのか、よく思い出せない。

 3年生の2学期には、ふたりはもう一緒にいなくなっていた気がする。

 

 決定的に仲が悪くなった瞬間を見ていないし、ふたりの間にどれほどの溝ができたのかもわからない。

 会うとあいさつくらいはする。

 でも、仲よくは話さない。

 親友ではなくなったし、友だちでもない。単なる知り合いのようになってしまった。

 俺は当時もいまも読書が趣味の地味な人間で、人と人とを積極的に結びつけるようなタイプではない。空とあかりちゃんの関係を元に戻そうとするような行動はしなかった。そのままの関係を受け入れ、それぞれとつきあった。

 

 中学時代に俺もふたりの幼馴染との関係が薄れて、3人ともばらばらになった。

 空とあかりちゃんのことはずっと気になってはいたけれど、ふたりともますます綺麗になって、モテているようで、遠い人になったなあと感じていた。

 4月1日から急にふたりとの距離が近くなり、彼女たちと日替わりで会うようになって、なぜ空とあかりちゃんはこんなに距離を置いているのだろうといまさらながら考えている。

 どうしてこうなった? 


 朝食後、空は洗い物をし、俺はふたり分のコーヒーを淹れた。

「きのう、神社山へ行ったんだ」

 俺はコーヒーをストレートで飲みながら言った。

 空は角砂糖をひとつ入れ、スプーンでかき混ぜた。

「展望台へ登ったの?」

「うん。展望台へ行ったし、洞穴にも行った」

「洞穴? もうないでしょう?」

「そうなんだ。埋められていたよ」

「わたしたちが4年生のときに、土砂を入れられたのよ」

 あかりちゃんも知らなかったことを空が知っていたので、俺は驚いた。

「4年生のとき?」

「そう。事件があって、あの洞穴は安全性が問題視されるようになった。すぐに立入禁止になって、翌年、あそこは埋められたのよ」

「よく知っているね」

「あそこは特別な場所だもの。それくらいのこと、当然知っているわ」

 特別な場所? あかりちゃんは聖地だと言っていた。


「俺はお父さんから洞穴に行ってはいけないって言われたんだ。きのうは本当に久しぶりに行ったよ」

「わたしも禁じられたわよ。でも、行かないなんてことは考えられなかった。ひとりで何度も行ったわ」

 空はコーヒーに口をつけず、夢中で話をしていた。

「埋め立て工事がされるのも遠くから見ていた。工事車両が通れるほどの道はないから、人力で土嚢が運ばれたのよ。洞穴が埋められるのは残念だったけれど、わたしにはどうしようもなかった」

 彼女の目が熱を帯びて、俺の目をのぞき込んだ。

「ねえ、いまからあそこへ行ってみない?」

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