プロローグ
物語のあらすじを変更しました。
通勤時の電車は、スーツとフォーマルな私服を来た人々で込み合い、息苦しさを覚える空間となっていた。
朝から雨天の首都圏では、濡れたズボンをくっつけまいと、足元に気を使い、スマートフォンや雑誌を読む人はまばらだった。
通勤中の私は、二月から続く寒波の中、雨水でスーツを濡らし、皆が足の寒さを耐え忍ぶ中、車内中央より前でつり革にしがみ付いていた。
朝の京浜東北線の車内は、通勤者が多く、混雑していた。
電車に揺られ一時間ほどで、品川駅に停車した。複数の大企業が居並ぶ品川駅は、サラリーマンが大半を占めるため、車内の大人数が降車し、閑散となった。
乗り換えの駅まで、しばらく時間があるため、羅君になった足を、つま先の運動をしてほぐしていた。
やがて、東京駅に着き降車し、次の電車へと乗り換える。
スーツとフォーマルな私服の人々が行き交う駅舎内を、慣れた足取りで歩みを進める。
エスカレータに乗り、上部のホームに昇る中、スマートフォンでニュースと時間を確認する。やがて、駅のホームに着き、スマートフォンをポケットにしまい、残り三段ほどを登った。
勤務地行きの青梅方面の電車は人がまばらだった。
出発のアナウンスが鳴ったため、急ぎ足で車内を目指していた時、スマートフォンがポケットからはみ出した。
スマートフォンをキャッチしようといそいでかがんだ時、ホームの濡れた床が滑り、転倒した。
気が付いたとき、その場所は部屋の中へと変わっていた。
「なっ・・・」
尻もちをついた姿勢のまま、場所がすり替わり、仰天のあまり、しばらく天井を見つめる。
尻もちをついたためか、お知りに痛みが走り、右手でお尻のあたりを触りつつ立ち、左右を確認し、自分の両手を見ると、普段着用しているシャツの記事とは違った感触だった。
「ここ、どこだ」
しばらくさすり、お尻の痛みがなくなった頃、お尻の状態を見ようとしたとき、その異様に赤い絨毯が目に入った。
「絨毯?」
部屋を見渡すと、屋外とは程遠く、静かな空間だった。
先ほどまで人が行き交う駅のホームにいたためか、部屋の中が異様に静かに感じる。
左の壁が大きな窓のため、部屋に日光を入れていた。そのため、室内にも関わらず、部屋が光りに満ちていた。
窓の外を眺めて、室内に視線を戻しても違いを感じ取ることが出来ないほどだ。
故に、暑さも感じていた。
「なんだ、ここ、熱いぞ」
見たところ、むき出しの柱は石製で、熱がこもることもなさそうな見た目にも関わらず、かなりの暑苦しさを感じる。
正面には、広い部屋に似合う椅子。
その目の前に広大な部屋にしては小さなデスク。
「この雰囲気、見覚えがあるぞ」
脳裏に浮かぶのは、スマートフォン越しに見た主人公の部屋だった。
中学校卒業と同時に持ったスマートフォンで最初に始めたゲームで、以後20年間にわたりプレイし続けた、山田にとってのロングセラーだ。
「・・・ここは、ゲームの世界なのか?」
ゲームの世界に入る物語は複数あるが、だからと言ってなんだと感じていた自分が、ゲームの世界に入ったといえば、不安と疲れであった。
「とにかく、衣食住の確保だな」
既にゲームを開かなくなって10か月近く、このタイミングでゲームの世界に飛ばされても、何らやることはなかった。
ゲーム世界は山田の暇つぶしにより、平定された世界だ。
小国家が複数存在する中でも、大国として君臨し続けていた。
そもそも、放置ゲームのため、最初の主人公プレイ以降は、その状態に沿って、予測された国家が築かれていくに過ぎない。
「それにしても、変なゲームだったな」
そのゲームの最大の特徴は、主人公に寿命があることだ。
主人公として死後の世界は、その子孫により統治、運営が行われるため、行動やセリフを選択するのみで、基本的に政治や戦いに関与することはできなかった。
それゆえに、現在の国家体制も、配下の様子もわからない。
何よりも重大なのが、ゲームの世界に入っても、すでにこの国にプレイヤーの子孫である君主がいることだ。
「どうしたものか」
今後の身の振り方を思案していると、部屋に一人の女性が入ってきた。
「旦那様、如何なさいましたか?」
その金髪は目を弾くほど光を反射し、青い軍服に紫のスカーフは清涼感を感じさせるいで立ちだった。
彼女は、ヒールの高いブーツで絨毯から音を鳴らしつつ、山田に近づいた。
「体調が悪いようでしたら、エチケット袋をお持ちいたしますが、如何なさいますか?」
体調不良でエチケット袋を提案された山田は、後ろに下がる。
「体調不良では早退できない、だと!!」
これまでデスクワークが中心のサラリーマンとして、その提案は衝撃だった。
そんな、衝撃に打ちのめされている山田の元へ、さらに来客を知らせるノックの音が響き渡る。
「伝令、室入れ致します」
有無を言わさず入室した位紺色の軍服の男は、頭を垂れる。
「国王選出議委員会より通達者が遣わされ、国王選定を行うとのこと、来月初めの18日に、王都に召集とのことです!」
現状を整理し終える前に、再び何者かが何かを告げる。
「国王選出?」
聞きなれない言葉に聞き返す。
古代インドやギリシャのような共和国家や都市国家のような体制なのだろうか。
いずれも違った国王の選出を行い、統治を行っていたと聞いたことがある。山田は、咄嗟に高校時代に詰めた歴史の知識を引っ張り出し、そういった国家体制が存在したことを思い出す。
「閣下、如何なさいますか?」
金髪の女性は、その赤い目で山田を見つめ、支持を待つ。
この場が自身により独裁的な場所であるとこの時、理解した。
「しょ、承知した!対応に関しては、お、おいおい指示出す、その、通達者には、丁寧な対応を行うように」
指示については、当たり障りのないように出す。
「御意!」
軍服の男性は、再び立ち上がり、速やかに退出した。
「閣下、どうぞこちらに」
金髪赤目の彼女に勧められたのは、部屋中央にあるデスク。
木製のデスクに上には、天秤やペン、書類、本が置いてあった。
既に独裁的な自信の立場を知った今、周囲を警戒せざる負えない状態となったことを悟り、従順な態度を心掛ける山田であった。