ビールジョッキ片手に笑顔ふりまく水着美女のポスターについて
令和になったというのに、私のバイト先の居酒屋は昭和の雰囲気が色濃く残っている。
高架下の立地にひび割れたコンクリートの壁、きちんと掃除しているのに取れない古い油の匂い。天井近くに設置されたテレビからは野球中継が流れていて、一体これは誰が見ているんだ。
「お! 河原が打ったな!」
あぁ、こういう人が見てるのか。
家に近いからって理由だけで受けたバイト面接は、あっという間に合格し、面接の当日夜から「早速きてくれる?」と働き出した。
今は私がいなければ、店が回らない状態になっている。
毎日がバイトで忙殺されている日々。
これは由々しき問題だ。
私は小銭のためにバイト面接をうけたが、明確に夢がある。
私は、こういった少々こ汚い居酒屋にありがちな、ビールジョッキ片手に笑顔をふりまくポスターのモデルになりたい。
もちろん水着だ。体型に関してはダイエットすればなんとかなるだろう。
しかし、夢を感じるのに近い場所とはいえるが、夢を叶えるのに適した場所とは思えない。
小銭稼ぎもチリも積もればなんとやらで、それなりの額にはなった。
夢を叶えるために次のステップにいこう。
「店長、わたし、バイトやめます」
それからの店長の接待上司プレイはすごかった。
「君のおかげで店は回ってる!」
「時給50円アップ!」
「最近、すごく可愛くなったよね! 看板娘!」
私はこういったわかりやすい物言いで浮かれるタイプなのである。
いかに、承認欲求が満たされない人生を歩んできたかを思い悲しくなる。
そして8年、この居酒屋で働き続けた。
仕事が終われば、朝方までやってる別の居酒屋でお酒を飲み、天ぷらや唐揚げを食べた。
そのライフスタイルがもたらしたものは、最早、ビールジョッキのポスターのモデルにはなれない、醜い姿だった。
とっくの昔に諦めているから平気ですけどね。
私はこのライフスタイルのまま生きていく。
その時、店長が血相を変えてお店に入ってきた。
「た、たいへんなんだ! ビールジョッキのポスターのオファーがきた……!」
はぁ……。誰にですか……。
「君だよ君! よかったね! 夢だったんでしょ!? すごいよ!」
え……。
だって、もう、こんなぷよぷよの体してるし、どこに何の需要がある起用なの。
もしくはドッキリか。
諦めて捨て去った夢だ。面倒な気持ちの昂りを起こすのは、本当に罪なことだ。
「ほら! 見てこれ! 「横綱 北の湖」の隣でビールを飲む健康ぽっちゃり美女のポスター企画だって!」
なるほどね。
私は失笑し、店長に伝えた。
「お受けします」




