2-1:魔捜研Ⅰ
2-1:魔捜研Ⅰ
思考する時間が必要だ、凹太郎はそう思った。
想像していたよりもはるかに異世界(仮定)への順応は難しかった。
そして、思考するための材料も圧倒的に不足していると感じていた。
凹太郎はそんなことを考えながら、兵士ダグ・ブンドに導かれるままに歩いた。
アルディオはダグに後を任せてどこぞへと行ってしまった。
ある扉の前まで来て、ダグが言葉をかけてきた。
「ここが『ムラズバナ』。
『魔法捜査研究所』だ。
私の役目はここまで。
後は中のミゴーズ所長がいる。
……正直、アルディオ様がどうして君のことをそこまで面倒見るのか私には計り知れないが、モンディ様の言った通り、【任命】はかなり重い。
落胆させるようなことはしないでくれよ」
ダグは凹太郎の左腕をつかむと、その甲を凹太郎に見せるように持ち上げた。
いつの間にか、その甲には小さな魔法陣が描かれていた。
「頼むぞ。」
そう言って、ダグは去っていった。
凹太郎は左手の甲の魔方陣を少し、右手で引っ掻いてみた。
消える様子はない。
仮に火や硫酸のようなものでナニカしてもきっと消えない何かだと直感した。
全くもって……そんな呟きを小さくして、凹太郎はムラズバナの戸を開いた。
気持ち大きめの一枚戸で、気持ち大きめのレバー型の取っ手のある引き戸。
鍵穴はついていない。
そういえば、扉の構造はどの扉も元世界と同じだなと凹太郎はついつい思考走る。
しかし、先ほどのモンディのような、いわゆる亜人タイプのいる世界では取っ手のある扉は不便になることもあるんじゃまいか?
でも、先の取調室らしき部屋。
きちんと考えればあそこも取っ手のある引き戸であった。
モンディは普通に開けてたし、そのことを思えばこの世界の亜人は概ね人の型をしているのかもしれないな。
なんて、刹那の考えは一瞬で脳裏にひっこめられた。
扉を開けてすぐ目の前にいた男に凹太郎が驚いたからである。
その男は、背は180程度、やせ型。
白衣を着ていて、シルエットはすらっとしていて格好いい。
その顔もすっきりとしたイケメン風で、残念なのはボサボサの手入れをしていない黒髪くらいなものだ。
耳がエルフのように長いのも、モンディを見た後だと普通に感じる。
そこまではなんでもない。
驚いたのは肌が緑色をしていたことだった。
元の世界でも肌の色はいろいろあったわけだが、緑色はない。
アニメや映画のCGではいくらか見たが、実物で見ることになるとは予想だにしなかった。
ゴブリンなどの種族なのだろうか?
男は睨むように、凹太郎を見つめながら、
「やぁ、ようこそ。
君ですか、えー……フジャナ・オタロですっけ?
え?
フジワラ・オータロウ?
了承、了承。
あれ、ダグ君は?
帰った?
ああ、彼、というか彼ら、私のこと嫌いだからなぁ。
嫌いは言葉が強いですかね、まあ、いい。
私はミゴーズ・パナッパ。
ミゴって呼んでください。
君は……フジワラが呼び名でしょうか?
え?
オータロウでいい?
了承、了承。
えー、君のことは調べさせてもらいました。
あ、調べた過程で君のものは全部分解してしまったので返却はできません。
すみませんね。
え?
ああ、はい、元に戻せないですね。
完璧に分解したので
あと、この研究室では自由に何を発言してもよいので気を楽にしてください」
いたって真面目な顔で淡々とミゴは言った。
というよりミゴは無表情がデフォルトというか、感情が顔に出ないタイプのようだ。
凹太郎は一度目を閉じた。
「どうしました?」
ミゴの言葉が聞こえた。
それは気にせず、5秒カウントして凹太郎は目を開けた。
目の前のミゴを見て凹太郎は、
「よし!
アップデートした!
改めてよろしくお願いします、ミゴさん。
いや……多分、あなたは承知のことだろうけど、私は恐らく『別の場所』から来たのではないかと思われます。
だから、その、気分を害したら申し訳ないが、『私の世界』には肌の緑色の者はいなくて少し面食らってしまいました。
すみません」
対してどんな感情の変化があったのか表情からは一切わからないが、それでもいくらか興味のある様子でミゴが、
「ほう。
ほうほうほうほう。
なるほどなるほど。
オータロ、君とは、面白い情報交換ができそうですね。
ちなみに、私はケバンナと呼ばれる種族の末裔ですね。
簡単に言って植物と人間のハーフみたいな。
確かに、肌の色や種族差別はこの世界の社会の世情的には完全に差蔑としてアウトなので、気を付けたほうが良いかもしれませんね」
言いながらミゴは研究室の中へ凹太郎を誘導した。
部屋の中は広大で、ざっと見で体育館ほどはありそうだ。
透明なガラスのような敷居で区画され、その区画されたところに机や(おそらく)パソコンなどがある。
中が見えないように不透明のパネルで囲われたような部屋もいくつかあり、面白い空間になっていた。
だが、ヒトはミゴしか見当たらなかった。
それを聞くと、
「あー、いますよ。
正規で30人ほど。
今はここに住んでる私しかいないだけで、皆出はらってます。
聞いてるとは思いますが主に王様殺しの件でね。
……んー、とりあえず、確認の方を先にしましょうか。
その椅子にどうぞ」
研究室の中に入り、すぐ左側のところ。
中の見えないように壁で仕切られたブースがあり、どうも応接間のようだ。
凹太郎はそこの椅子に誘われた。
低反発クッションで作られたような座椅子であった。
ミゴもよっこいせと対面に腰掛ける。
そこから、まず矢継ぎ早に凹太郎が目覚めてから現在に至る出来事の確認が行われた。
任命の話については、表情からはわからないものの流石にミゴは驚いた様子を感じさせた。
「ほう。
どんな手段をとるかはいくつか考えられましたが、【任命】を選びましたか、アル王子は。
ん?
任命ですか?
そうですね、仮にオータロが犯人、または犯行に何らかの関係を持っていたとしましょう。
……あ、こういう仮定の話はオータロは出来る方ですか?
まぁ、怒ったら怒ってください。
何らかの関係があったとしたらオータロはもちろん罰せられます。
そして、その任命関係にあたる……この場合、アル王子ですが。
も、同じく罰を受ける関係になるのです。
あ、この場合は、例えば端的に死刑でオータロの首が斬られるとしましょう。
そうすると、時差はいくらか生じますがアル王子の首も斬られたわけでもなく斬り落ちるのです。
これは【世界魔法】効果で」
重いぃ……凹太郎も雰囲気からそんな気がしないでもなかったが、きちんと説明されてやはり重かった。
それでも、わざわざその方法を選んだということは、やはり第一発見者にあたるアルディオさんは犯人じゃないのだろう、75%くらいは。
やろうと思えば、簡単に何もわかってない凹太郎から言質をとって事件の一件落着をつくりだせたはずだ。
ミゴは、次に凹太郎の今後の話を始めた。
「ということで、オータロはしばらくここで過ごすことになったのですね。
この研究室は、宿泊もきちんと出来ます。
私が住んでますし。
え?
安全上、色々危なくないかって?
ああ、どうなんだろう?
オータロの世界にもこういう研究室はありましたか?
ほう、研究室はあるが構造りが違う。
ふーん。
……まぁ、『ここ』の話でいえば、大事なものはロックが超厳重ですし、有効な監視カメラで映されていないのはこの研究室と王族棟のプライベートルームだけです。
まぁ、そうそう事件は起きないですね。
この城の周りも魔法結界と王族直轄防衛軍と政治防衛騎士隊が守ってますから。
あ、トイレや浴場等の場所も基本的に有効なカメラはありませんでした」
(ん? そんな場所で王殺しが行われたのか?)
凹太郎は疑問に思ったが、今は口にしなかった。
この世界のことについてあまりにもわからないことが多すぎる。
まずは知識が必要だ。
この世界を支配するシステムについて。
アイザック・ゴーマの小説挑戦作だぜ。
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