1-4:イ世界Ⅳ
1-4:イ世界Ⅳ
アルディオが第二王子だからといって、犯人でないという証にはならない。
むしろ、その本人がこうやって調査に当たっているのなら、犯人であればなおまずいことである。
こうやって凹太郎と話す中で何かしらの言質をとり、ルラを完全に犯人仕立てようと考えることもできる。
怪しいといえば、凹太郎は疑うことはすれど非現実的なことに思考が柔軟なほうである。
逆にだ。
第二王子であるアルディオはその立場上からも、誰かしらから「この者は異世界から来たやもしれません」と聞かされてそれを信じるだろうか。
この世界では異世界から人が来ることは一般的なのだろうか。
今、それを聞くのは躊躇われた。
ともかく凹太郎は事件の概要を理解した。
次に知るべきは。
凹太郎は第二王子に聞く。
「事件のこと、私が今ここにいる経緯、理解しました。
では、私はどのような扱いになるのでしょう
事件に何の関係もない、偶然、転移で呼び出された一般人なんてことには」
「ならないな。
というのは、この事件を担当しているのは私だけではない。
中には君こそが事件の黒幕で、ルラは催眠状態にあったのではないかという者もいる。
本来ならさっきの独房のまま調査を受けても不思議ではないぐらいだ。
なぁ?」
アルディオは凹太郎の背後にいる兵士にむかって意見を促す。
兵士は、咳払いを一つして答えた。
「実際、この青年が最初に目を覚ました時に目の前にいたのがアルディオ様でなく、その……他の捜査担当者なら、少なからず乱暴な手法が取られたこともありえたかもしれません」
兵士は誰か心当たりのあるのだろう感じを匂わしていた。
だからといえ、アルディオに心を許すのはまだ早いと凹太郎は考える。
アルディオはそんな凹太郎の様子に微笑みながら、
「で、だ。
オウタロウ。
君の存在は『いかようにもなりえる』のが現状だ。
なんの関係もない一般人。
ルラの共犯者。
事件の真犯人、黒幕。
まぁ、一般人てのは少し無理があるな。
君が瀕死状態で現れたのがまずかった。
誰にやられたにしろ、君には何かあると、あの時あの場にいた者は思ってしまっただろう」
「事件が解決するまで、勾留される……いや、下手したら」
最悪の結果は想像に難くない。
この世界の【レベル】がどれほどのものかわからない。
技術の進歩が倫理観や正義のレベルと同じ歩幅で進むとは限らないのだから。
凹太郎が元いた世界であってもそれは言えた。
ある国の文民上の倫理が、別の国に移れば同じ時代を生きていたとしても通じなくさえなるのだ。
否、同じ国であっても働く会社が違うだけでも通じなくなる。
凹太郎は自分が探偵になる過程、辞めたブラック企業のことを思い出し、思わず身震いした。
アルディオは凹太郎のそんな様子を窺いながら、
「君は先ほど、ララリーナ女史に面白いことを言ったそうだね。
……【探偵】。
まぁ、今では良い意味では使われないな。
古典では、優秀なる平民で【難問・事件を解決に導くもの】だったが。
時代は進み、捜査技術・手法も磨かれていった中で、事件をそも一般人に扱わせるのは道徳的に問題だ。
そんな時代・社会・倫理観。
なのに、それをあえて名乗るのは頭がおかしいと吹聴してるのと同じだ。
オウタロウ、君が探偵だと名乗ったわけではないらしいが、わざわざ一つ聞いたらしい単語がそれなのだ。
きっと……そういうことなのだろう?」
凹太郎は答えない。
アルディオは続ける。
「まぁ、それでも、だ。
あえて、滑稽な振る舞いをすることができるのなら抜けられる窮地もある。
オウタロウ。
君にその気があるなら、私の監視下での【探偵】としての行動を許す」
それには凹太郎も、その背後にいた兵士も思わず噴き出した。
アルディオはその反応に大変満足そうにしていたが、急に真剣な眼差しになって、
「答えは今聞きたい。
正直、時間はない」
空気が一瞬で張り詰めた。
しかし、凹太郎はその空気に一切動じないで、
「はは、道化になるのはなれてます。
やらせてください、その【探偵】とやらを」
この程度の空気は探偵として過ごす中で慣れていた。
あまりの即決と、凹太郎の物おじしない態度に、アルディオは感心したように、
「ふむ!
決まりだ。
君は今より、第二王子主動捜査班・第三捜査チーム・特別捜査員・【探偵】に任命する。
いいな?」
アルディオは兵士に確認すると、兵士も応えるように、
「は!
ダグ・ブンド、確かに、この場において、本人意思の確認、及び、第二王子直接の任命を確認いたしました!
なお、この任命は憲法第二七条、『人権上の……」
兵士の口上の途中であった。
それはあまりにも乱暴にドアを開けてやってきた。
「おい!
アル!!
貴様ぁ、どういうつもりだ!!?
あれほど、勝手なことをするなと!!!」
その現れた者の姿には、さすがに凹太郎も驚きを一切隠せず、目をまんまるくして見つめてしまった。
いつものことなのか兵士は口上を辞めずにいるが、その声は遠くに聞こえる。
アルディオは困ったように笑いながら、席を立ち、乱入者の対応をしようとする。
乱入者。
その姿は、二足歩行、厚い鎧を纏い、あたかも人のようではあるものの、明らかに違った。
顔、腕、足、そして、尻尾。
凹太郎が最初に思い浮かべたのは、日本で有名な巨大怪獣であった。
それこそ、彼の怪獣が鎧を纏って言葉を口にしているという以外に説明がむずかしい。
アルディオはちらっと兵士を見た。
そして、乱入者に向かい、言った。
「やあ、モンディ。
ちょうど今、任命が終わったところだ。
国の憲法に則り、彼、フジワラ・オウタロウを私の監視下に置き、【探偵】として一定の捜査活動を許可するものとした!」
乱入者、モンディと呼ばれた巨大人型トカゲはそれを聞いて、なお激高した。
「あほか!
そんな勝手が許されると思うのか!
王子会が黙っておらんぞ!
第一、探偵だと!?
ふふ、ふははははは!
アル、なんだ貴様!
王子の座は返上して、コメディアンにでもなるつもりか?!」
「ああ、なんとでも言えばいい。
何を言おうが、【任命】は終わった。
もちろん、彼を独占するつもりではない。
他の捜査チームの捜査にももちろん協力させる。
それは約束しよう。
全ては明日の王子会の前には通達が行われる」
「かっ!
その約束、守ってもらうぞ!
……ふん、オータロウというのか、貴様も覚えておけよ!
その【任命】、安くはないぞ!」
一瞬の嵐のような時間だった。
モンディは踵を返して、ドスンドスン大きな足音を立てて部屋を出て行った。
アルディオはふーっとため息をつくと、凹太郎に向き直り、
「そういうわけで、これからが大変だ。
頑張ってもらうぞ、探偵くん」
頬にひとすじの汗を垂らしながら、それでも、何事もないような微笑で、そう言ったのだった。
アイザック・ゴーマの小説挑戦作だぜ。
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